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読書:『「甘え」の構造』土居健郎

①紹介

精神科医の土井健郎による『「甘え」の構造(増補普及版)』(弘文堂、2007年)を紹介します。「甘え」という言葉は日本語固有のものであり、欧米人はそれに相当する感情は持っていても、訳語は持っていないのだとか。「甘やかし」や「甘ったれ」のように否定的に理解されがちな甘えの本来の意味を探り、日本人の何たるかを問う古典的名著です。

②考察

「人間は誰しも独りでは生きられない。本来の意味で甘える相手が必要なのだ」
➢ 土居によれば、甘えとは、自分が他者に守られていると実感し、関係を維持するための手段である。その根底にあるのは、相手からの好意を失いたくないという思いだ。SNS上の「いいね」が減るのを見て落ち込む者は、去ろうとするフォロワーを引き留める傾向にあるが、それもある種の甘えの表れかもしれない。

「甘えの世界に生息して絶えず甘えの感受性を刺戟されていると、否が応でも美を求めずにはいられなくなると考えられるのである」
➢ 甘えは、ハンガリーの精神分析医バリントが用いた「受身的対象愛」なる用語と同義だ。文字通り、甘えとは、一つの対象に向けられた愛である。プラトンが『饗宴』の中で言及した「愛」の概念とよく似ており、関連がありそうだ。

「日本人は本来甘えたいがために、しかし実際にはなかなか甘えられないので甘えを否定し、かくして気がすまないという窮屈な心境に低迷することが多いと考えられるのである」
➢ 「甘え」は一言で表すと、良い意味で他者に迷惑をかけるということだろう。しかし多くの日本人はこれを曲解し、悪い意味で用いることがほとんではないかと思われる。この感情を抱くのは子どもに限らず大人もそうだ。甘えたい時に甘えられなければ、その人は対象となる者に愛されていることを実感できず底なしの孤独に陥るに違いない。

③総合

甘えることが苦手な日本人は少なくない。それはやはり相手に迷惑をかけることと同義だと捉えてしまうからだろう。これが、日本人が孤独を覚えやすいことの原因の一つというのは容易に想像できよう。同時にこの性質が日本人の精神のあり方を如実に示しているのは大変興味深い。

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