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読書:『愛するということ』E.フロム

①紹介

ドイツの精神分析学者エーリッヒ・フロムによる『愛するということ』(鈴木晶訳、紀伊国屋書店、2020年)を紹介します。「愛」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。恋愛指南書をお探しなら他を当たるのが良いかもしれません。技術としての愛を説く世界的ベストセラーの古典が改訳・新装版として現代に甦ります。

②考察

「愛は技術である」
➢ 本書の内容はこれを前提とし、これを結論としている。「愛」と聞くと、私たちは運命的な感情か綺麗事の類だと思いがちだが、その目的は孤独からの脱却であり、ある種の緊張を以て臨まなければならないだろう。もちろん行動は決して容易ではない。しかし、運ゲーでないことは確かだ。

「愛とは、特定の人間にたいする関係ではない。愛のひとつの「対象」にたいしてではなく、世界全体にたいして人がどうかかわるかを決定する態度であり、性格の方向性のことである」
➢ 愛は感情より思考と言うべきか。対象に親しみを持てるかではなく、それとどう向き合うべきかが問題となろう。現代の資本主義社会は私たちに錯覚を起こさせ、「世界」を見えにくくしてしまったのかもしれない。

「愛するという技術に熟達したいと思ったら、まず、生活のあらゆる場面において、規律、集中、忍耐の習練を積まなければならない」
➢ 愛は鍛錬によって身につけるものであって、筋肉か信仰のようなものである。元々人間に備わっているが、小さすぎて存在自体が判然としないもの、自力で作り出すことで初めて存在を確認できるものと言うべきか。ここまで読むと、愛なるものが甘美さとはそれほど関係ないものだと理解できよう。まだ感情の類だと思っているならば、その人は
恋愛ソングを聴き過ぎているのかもしれない。

③総合

昨今の日本では恋愛しない若者が急増していると聞くが、原因の一つは、愛を技術ではなく単に感情と誤解していることにありそうだ。フロムが説いた愛はいつしか消費の対象となり、乱発され、薄っぺらいものに成り下がってしまった。私たちが何気なく口にする「愛」は愛ではなく、「好意」や「想い」と言い換えるのが適切だろう。

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