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読書:『バカの壁』養老孟司

①紹介

解剖学者の養老孟司氏によるベストセラー『バカの壁』(2003年、新潮新書)を紹介します。平成で一番売れた新書として名高い本書のテーマは「『話せばわかる』なんて大うそ!」ということで、人間の脳からその謎に迫ります。日常生活における口論や世界を巻き込む宗教戦争の原因は、人間が必要としない情報を遮断する癖にありました。

②考察

「自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている。ここに壁が存在しています」
➢ これこそ養老氏が言う「バカの壁」である。時に人間はある事柄の本質を知ろうとせずに表面だけを見て、中途半端にすべて知った気になってしまう。男女の性事情や昨今話題の「多様性」のように、センシティブな内容ほど、この「壁」が顕著に現れるのではなかろうか。

「当たり前なんていうことはどんどん変わるものなのです」
➢ 本来、人間は常に変化し、情報は昔から変わらず今も残り続けるもの。このことが現代においては逆転し、「バカの壁」の原因になっていると氏は指摘する。例えば、今まで世間に浸透していた価値観が新しい学説に覆されるということが起こり得るが、それは情報が変わったのではなく増えただけ。変わるのはそれを吸収しようとする人間の方だろう。

「一元論にはまれば、強固な壁の中に住むことになります。それは一見、楽なことです。しかし向こう側のこと、自分と違う立場のことは見えなくなる。当然、話は通じなくなるのです」
➢ 特定の宗教や◯◯主義と呼ばれるものを信じるのは個人の自由だが、当然注意が必要である。それらを信じていない人たちを見下しかねないからだ。私自身クリスチャンなので他人事ではない。何事もバランスが重要だろう。

③総合

氏が脳内で「バカの壁」が発生する仕組みをy=axという一次方程式で表現しているのは興味深い。xは入力、yは出力、そしてaは現実の重みを示しており、例えば、「動物愛護」と聞いて当該団体の人間ならばaの値が急上昇するが、一般人のそれは基本的に低いだろう。日本に英語話者が少ないのも、LGBTQやヴィーガンの主張が理解できないのも「壁」のせいだと考えられる。

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