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読書:『国家』(上)プラトン

①紹介

哲学者プラトンによる『国家』(上巻、藤沢令夫訳、岩波文庫、2008年)を紹介します。前回読んだ『饗宴』に引き続き、彼の亡き師ソクラテスが主人公として登場。「正義」とは何か。師の口を借りてプラトンはそれを為政者に求められる資質とし、哲学を修めた者による政治の実現を説きましたが、それには疑問の余地があります。

②考察

「われわれが国家を建設するにあたって目標としているのは、(略)国の全体ができるだけ幸福になるように、ということなのだ」
➢ 幸福を追求すれば国民全体が幸福になるとは限らない。そもそも幸福の定義は人により異なるため、体感できる幸福の度合いにも差が出、経済的かつ社会的な格差が広がる可能性は無視できない。しかし幸福崇拝についていけない者が現れ、その声や窮状が顧みられなくなると、国家は全体主義に転落するだろう。上の言葉の理解には注意が必要だ。

「哲学者たちが国々において王となって統治するのでないかぎり(略)あるいは、現在王と呼ばれ、権力者と呼ばれている人たちが、真実にかつじゅうぶんに哲学するのでないかぎり、(略)国々にとって不幸のやむときはないし、また人類にとっても同様だとぼくは思う」
➢ 古代ローマの黄金時代を築いたマルクス・アウレリウス・アントニヌスの帝政を除けば、歴史上において哲人統治が実現した例は皆無に等しい。やはり国民が哲学者を信用し、王に迎えられるのかという疑問が尽きない。暴力の渦巻く政界に哲学者が飛び込んだところで憂き目に遭うのが落ちだろう。

「真の哲学者とは(略)真実を観ることを(略)愛する人たちだ」
➢ すなわち〈愛知者〉であるが、「真実を観る」という点がジャーナリストを思わせる。そういう意味で哲学者とは、市民社会と政界の間に立ち、中立の視点によって物事を冷静に分析するインテリなのかもしれない。

③総合

プラトンが、為政者の条件に性別を問うていない点は時代を2000年も早く先取りしていると考えることができよう。『饗宴』に引き続き彼は女性に対し一定の理解を示しているようだ。政治におけるイデアの意味を求めて下巻へ。

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