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読書:『ソクラテスの弁明・クリトン』プラトン

①紹介

古代ギリシアの哲学者プラトンによる『ソクラテスの弁明・クリトン』(久保勉訳、岩波文庫、1964年)を紹介します。神々を信じず、アテネの青年たちを腐敗させた罪で告発されたソクラテスの抵抗と最期。生涯一冊も書物を遺さなかった師が法廷で語ったことを弟子のプラトンが速記者の如くまとめたのが本書です。

②考察

「自ら知らざることを知れり」(『弁明』)
➢ かの有名な「無知の知」である。ソクラテスは、自分を「至賢」(誰よりも秀でた賢者)だという神託の正しさを、旅先で出会う賢者たちの無知を指摘することで証明した。このことに市民は怒りや憎悪を募らせるのだが、神託に従って(神を信じて)動いただけの彼に無神論者というレッテルを貼って犯罪者扱いすることは論点ずらしに他ならない。

「死を脱れることは困難ではない、むしろ悪を脱れることこそ遙かに困難なのである」(『弁明』)
➢ 必死の弁明虚しく、ソクラテスは賛成多数で死刑宣告を受けてしまうが、それほど死を恐れてはいないようだ。それより悪の方がずっと恐ろしいと言うのだろう。彼を死へ突き落とした悪法の存在がその何よりの証拠だ。人間は死を避けられないが、その原因によって死の印象は違ってくるものである。

「人は、何人に対してもその不正に報復したり禍害を加えたりしてはならない」(『クリトン』)
➢ 死刑を目前に控えた獄中のソクラテスのもとに老友クリトンがやって来、彼に脱獄を勧める。しかし、ソクラテスはこの裁判が国法に基づくものであり、生涯それに支えられてきたので抵抗しないと言って、友の提案を退けた。職場でのパワハラや文書改竄などの不正に対して内部告発が行われる昨今の日本では、この発言は賛否両論を巻き起こすかもしれない。

③総合

ソクラテスの生涯と最期は、同じく四聖(残りはブッダと孔子)の一人イエス・キリストのそれとよく似ている。両者ともに多くの弟子を持ち、旧来の考えに固執するインテリ集団を批判し、新たな教えを説いた。そして怒った群衆により裁判にかけられ死刑判決が下り刑死。いつの時代も正直者が馬鹿を見るのは何とも皮肉なことである。

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