見出し画像

読書:『饗宴』プラトン

①紹介

哲学者プラトンの『饗宴』(久保勉訳、岩波文庫、1965年)を紹介します。愛(エロス)とは何か?誰もが抱きそうな疑問から始まった曲者揃いの酒気帯びディスカッション!最後の話し手ソクラテスは何を語るのか。これより開宴です。

②考察

「愛すべきものとは真に美しく、きゃしゃで、完全で至福な者です」
➢ 有象無象の論客5人による戯言を聞き終え、口を開いたソクラテス。ここで彼は以前会った女性ディオティマが語ったことを引用する。曰く、愛は神々と人間との間に立つ仲介者のようなもの、そして智者と無智者との間に立つ存在である。愛は薄っぺらいことのように思われがちだが、何か/誰かを愛することの背景には半ば神的な要素の介入があると言えよう。


「愛とは善きものの永久の所有へ向けられたものということになりますね」
➢ ここで言う「善きもの」が指しているのは美である。つまり愛は、美を永久に有する何かに対して向けられたものだという。「何か」が指すのは人でも絵画でも風景でも良いだろう。それらを見て心を奪われるとき、人間は無意識のうちに愛を生じさせているのかもしれない。


「美そのものを観るに至ってこそ、人生は生甲斐があるのです」
➢ ディオティマによれば、美そのものは増減や変化をすることなく常に存在しているという。ではどのようにしてそれを観るかというと、「心眼」(精神か理性)によってである。対象は必ずしも目に見えるものとは限らないが、そこに在ることは確かだ。美の追究の果てにあるものこそ「愛智」、すなわち哲学なのだろう。美学という一つの学問領域との関連も十分にありそうだ。

③総合

プラトンが本書の主要人物として師のソクラテスを登場させている点は興味深い。彼がどれほど師を尊んでいたかが窺えよう。また、ソクラテスの対話相手として登場するディオティマという婦人だが、彼女はプラトンが作り上げた想像上の人物であり、彼はディオティマに仮託して自身の思想を説いているのではないか。なぜプラトンがこのようなことをしたのかは明記されていないが、女性に対して特別な意味を見出していたと考えて良いだろう。

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,457件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?