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読書:『人生論ノート』三木清

①紹介

哲学者の三木清による『人生論ノート』(新潮文庫、2011年)を紹介します。本書は23の章で構成されており、中には生きるうえでの困難や生きづらさを打ち砕いてくれる言葉が多々あるかもしれません。どこから読むかはあなた次第。最初に選んだものが、あなたの求めている答えでありますように。

②考察

「幸福について考えることはすでに一つの、恐らく最大の、不幸の兆しであるといわれるかも知れない」
➢ 幸福なるものが現代の私たちには遠い存在のようで、それについて考えるのが躊躇われる瞬間が人によってはあるのではないか。三木によると、現代は「人格の分解の時代」である。人格が壊れかけの状態なので幸福に対して意識がなかなか向かないのだろう。そもそもそれは目に見える劇的な変化を伴うとは限らない。どうやら私たちは何となく幸福の定義を歪めてしまう傾向があるようだ。

「すべての人間の悪は孤独であることができないところから生ずる」
➢ 人間が悪に染まるのは、集団に紛れ込んでいるときだろう。集団の中では自分の意見を真っ直ぐに通すのが難しく、多数派によるまとまりのない一つの意見に流されがちだ。一方で「孤独」と聞くと、すぐにネガティブなイメージを持たれることが多いが、一度立ち止まって物事を考えることは悪を見極める手段になり得る。

「孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのでなく、大勢の人間の『間』にあるのである」
➢ 伝統が色濃く残る地方と、毎日多忙を極めた人々でごった返す都市部とで人口やコミュニティの数に差があるということと関係がありそうだ。地方は血縁の有無に関係なく人と人との結びつきが強いが、都市部ではどちらかと言えばそれは薄い。集団の中にいれば自分が一人でないと思い安心してしまうが、独りでいることに変わりはないだろう。

③総合

上にあげた言葉は、23ある章から3つ選び取ったものに過ぎないが、他のものも含蓄に富む内容となっている。特に三木はハイデッガーの影響を強く受けているので、彼の主著『存在と時間』を読んだことがあれば、最初の章「死について」は理解しやすく興味深さを覚えるだろう。

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