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伊香保くらし泊覧会 発起人の思い Vol.3 〜「伊香保だからできること」を考えつづける〜

伊香保くらし泊覧会の発起人である、伊香保おかめ堂本舗の4名。
どんな思いで伊香保くらし泊覧会の企画をスタートさせたのか。そして、第一回目の企画が終わった今、どんなことを感じているのか。
改めて、それぞれの立場からお話しいただくことにしました。

前回の更新からだいぶ時間が空いてしまいましたが、3人目の話し手は、千明仁泉亭・千明恭子さん。

千明仁泉亭23代目・千明恭子 
千明仁泉亭常務取締役。1974年、群馬県生まれ。県立渋川女子高等学校卒業、帝京大学経済学部を卒業後、アパレルメーカーに勤務。その後、派遣でホテル、レストランに勤務し、1999年より家業に戻る。
千明仁泉亭HP

写真 2のコピー

▲伊香保おかめ堂本舗4名(左から、民芸山白屋 真淵、千明仁泉亭 千明、ホテル松本楼 松本、いかほ秀水園 飯野)

「いい器を使ってみたい」という思いから生まれた旅館づくり

伊香保おかめ堂本舗(以下、おかめ堂)の活動を始めたのが2005年。その頃、個人的に気になっていたakamanmaのお店に行く機会がありました。オーナーの田口さんとはそれが初対面でしたが、3時間くらい話し込んだのを覚えています。そこから旅館作りのアドバイス(花器や器などの扱い方について)をいただくようになりました。

はじめ、別館用に少量(10個ほど)いい器を使いたいと思い、田口さんに器のセレクションをお願いしました。本館だと多くのお皿を重ねて管理するため、繊細な作品の取り扱いが難しいのですが、別館であればいいものを揃えて提供できると思いました。

打ち合わせの際、群馬県藤岡市にある「そば岡部」に連れて行っていただきました。こちらは田口さんが設計デザインをされたお店だと知り、「こういうこともできるのか〜!」と、器のセレクションだけでなく、旅館のロビーの改装もお願いすることになりました。

その頃おかめ堂では、伊香保のフリーペーパー「栞」の発行準備を進めていました。田口さんにはそのデザインをご担当いただくなどして、伊香保のまちづくりにも携わっていただく様になりました。(本当に多彩ですよね〜!)

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▲2006年に発行された伊香保のフリーペーパー「栞」

「伊香保だからできること」とは

おかめ堂内で、マルシェやアートに関するイベントをやってみたいという話が上がった時、「マルシェはどこの地域でもやってるし、伊香保じゃなくてもいいのでは?」また、「アートとなると難しい印象もあるから、もっと身近なものからはじめたい」という話し合いになりました。さらには、田口さんにも入っていただけるなら、「くらしの道具」というキーワードで何かやれないかと模索し始めました。

そうは言ってもクラフトフェアもどこでもやっているし、「伊香保でやる意味」がないと、東京や他の地域でやるイベントと変わらなくなってしまう。そして群馬は、陶芸「○○焼き」があるわけではない・・・そんな思いが浮かんでは消え、という状況が続きました。

そういった背景がある中で、2019年に千明仁泉亭では、やまのはというお店を宿の隣にオープンすることにしました。コンセプトは、「群馬のもの」「群馬らしさ」を感じられるお店で、主に生活にまつわる商品を取り扱っています。

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▲やまのはの様子(上:お店入口、下:伊香保くらし泊覧会の時の店内)

〜やまのはを創業した2つの理由〜
1つ目は火事でした。やまのはが建つ前には自宅がありましたが、火事で無くなってしまったのです。あまり大きな声で言えることではないですが、ものの儚さを感じたきっかけとなりました。
どんなに大切にしていても、火事や災害が起こればものはなくなってしまう。ものは大切だけれど、それにまつわる思い出も本当に大切だとつくづく感じました。その跡地には、人の思いがこめられた商品を取り扱うお店をつくりたいと思いました。

2つ目は、昔からぼんやりと思い描いていた「いつか自分のお店を持ちたい」という夢です。私自身の旅の楽しみ方が、宿に泊まるだけではなく、その周辺の面白いお店を散策することでした。旅行者が立ち寄れる面白いお店があれば、お客さんも楽しめるし、自分も楽しい。
火事の後、その跡地に"いつか"お店を持てたらいいなと思っていたところ、土屋さん(現やまのは店長)が職探しで訪ねて来てくれました。「彼にお願いしたら面白いお店になるし、店長も任せられる!」と思い、急遽お店づくりが始まりました。今では、やまのはは「群馬の広報部長=群馬を説明するお店」だと思って運営しています。

群馬の面白さ そして伊香保くらし泊覧会の醍醐味

正直なところ、群馬は特徴があるようなないような、PRしずらい県だと感じることがあります。しかし、商品の背景を紐を解いていくと、実は群馬が根っこにあったりするんですよね。群馬の地場産業があるから商品ができている。

例えば、「梅」。群馬は生産量全国2位を誇る梅の産地で、「紀州の梅ジュース」と言っても、実は群馬で生産されている南高梅が使われていたりする。それは誰も知らない裏話ですよね(笑)
また、やまのはで取り扱わせていただいているトリプル・オゥのアクセサリー。繊維の工場が桐生にあった歴史や技術を、今も引き継いで商品作りをされているブランドです。手作りも大切だけれど、工場が表に出ることも大切で「実は群馬が支えているんだよ」という点が群馬の魅力であると感じます。

伊香保くらし泊覧会を企画する前、私自身、「使ってから買える」という経験を普段の生活の中でなかなかできないもどかしさを感じていました。どんなに手に取ってみても、それを実際に使ったわけではないからわからない。器を使うイベントがあったりするけれど、開催日がピンポイントで行けなかったりする。

しかし今回、伊香保くらし泊覧会では宿泊期間が二週間。そして商品を「買わないと使えない」のではなく「買わなくても使える」。その体験がすごく面白い。また、宿泊者は伊香保でのこの体験が思い出となって、作家さんの作品を別の場所で見た時には「あ、これ使ったことある!」と思い出していただける。「あ、これ持ってる!」ではなく(笑)

そして、各旅館で取り扱う作家さんが違うことが旅館同士の差別化となる点も面白いです。普通の旅行プランだと、共通した水沢うどんをつけて「伊香保満喫プランです!」と売り出すことがあります。そうではなく、自分たちでプランを考え、作り上げ、そして「伊香保くらし泊覧会プラン」を各旅館が同時に販売することが醍醐味だと感じます。

伊香保くらし泊覧会は、長年おかめ堂内であたためていた構想で、私たちの頭の中にアイディアがあって、共有もできていた。そういう状態だったからこそ、タイミングが合った時にすぐに行動に移せた。しかも、コロナ禍という中で、一人ではなく、みんなと一緒にやる。私自身、そこに大きな楽しみを感じました。


文・聞き手:蛭子彩華

蛭子彩華
伊香保くらし泊覧会 実行委員
一般社団法人TEKITO DESIGN Lab 代表理事/クリエイティブデザイナー
公益社団法人日本マーケティング協会発行 月刊マーケティングホライズン編集委員

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