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賃金を上げたら自殺者が増えるんですか? ~「NHKスペシャル 2024私たちの選択 -AI×専門家による“6つの未来”-」を視ての感想~

・賃金を上げたら自殺者が増えるんですか?
・テレワークを推奨して、育休取得率も上げて、労働時間が減った先には、「幸福」を手放さないといけないのですか?

この番組を見て、率直に感じたのは上の2つのことでした。

AIが指し示す私たちの30年後の未来は大きく6つのシナリオに分類される。そして、何年までにこれを達成していないといけないといった分岐点が複数存在する。皆さんの望む未来はどこにありますか?と番組の内容はざっとこんな感じだったと思います。

6つのシナリオといっても、6つの内の4つは、現状維持、もしくは今よりもあらゆるものが悪化しているという、おそらく誰も望まない未来でした。ということは、ベターな未来として残るのは、「シナリオ1」として分類された「地方分散・マイペース社会」と、「シナリオ5」の「多様性・イノベーション社会」との、実質的には二択というものでした。


「地方分散・マイペース社会」というのは、地方中心に出生率が上がり、労働時間は減るが今よりも賃金は26%低下し、代わりに、博士号の取得が39%伸び、自殺者も15%減るというものでした。


一方の「多様性・イノベーション社会」は、出生率が高まり、給与も増え、女性活躍や起業が進む代わりに、社会的なストレスは21%増え、地方中心に自殺者が44%増えるというものでした。

私は直感的に、シナリオ1、一択だなと思いました。どんなに賃金が増え、多様化が進み、イノベーションが起こっても、競争が増え、格差が拡大し、結果自殺者が増える社会は一種のディストピアだと思いました。(その後の分岐の追い方を見たら、NHKはシナリオ5推しのようではありましたが)

上で分岐があると書きましたが、6つのシナリオは時系列の分岐をもって以下のルートをたどります。


最初に来るのが「2028年」の分岐点で、それは「賃金」が上がるかどうかの分岐点とされます。つまり、この時までに、今よりテレワーク導入企業が増え、運動習慣がアップし、男性の育休取得率が増え、労働時間が減少していないと、この分岐点でシナリオ5方面には向かえないというものです。


私は、そこで、ちょっと待って!と思いました。テレワーク導入、運動習慣アップし、育休取得率アップ、労働時間減少が実現していれば、もう、シナリオ1には戻れないということじゃないですか?(カムバックのループがないということはそういうことですよね)。これらが達成してしまえばもう幸福な社会はあきらめなければならないということですか?だったら、毎日出勤して、特に運動もしなく、育休などはご法度で、バリバリ働いているほうが、それで自殺者も減って社会全体が幸せになるならそっちの方がいいです。

2028年は「賃金アップの分岐点」とされました。ということは、賃金が上がれば自殺者も増える。これはAIが出した答えだとしても私は納得します。経済的発展ばかりを追うとこうなることは容易に想像できます。

それと同時に、シナリオ1とシナリオ5のどっちがいいかという問題は、私たちの価値感のパラダイムだとも思いました。今、よく、縄文時代回帰と言っている人たちがいます。戦争、所有の概念、富の蓄積からくる格差や身分差、自然破壊など、諸悪はすべて稲作が始まった弥生時代以降にもたらされたものだという考えです。シナリオ1vsシナリオ5という構図が、価値観上の二律背反に置き換わるような気がしました。

出生率が伸びて人口が増え、女性活躍が進んで生産性が向上し、育休取得など働きやすい環境で労働時間も減り、そして賃金も上がるというシナリオ5は、今、国や企業が、まさに将来を見据えて、最優先に取り組んでいることばかりです。高ストレス下で競争をあおると、当然レースからの落伍者が出ますが、ケアは専門家に任せておけばよいというのが、現在のスタンスではないでしょうか?しかし、自殺者が44%も増える未来をいったい誰が望むのでしょう?AIを信じるなら、今のやり方を続けていたら、「全員が平等な未来」は永遠にやってこないということです。

賃金が上がらなくても明るい未来はあると思います。「お金」への依存度を下げると幸福度は上がるということです。相互扶助の起こるコミュニティの存在、その内外でのギフトの循環など、もうすでに一部ではそういった未来が始まっています。シナリオ5は「お金への不安」が描き出した未来だと思います。


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