真朱色の真珠【詩,短編小説】

 瞬時に水滴を弾くような頑く蒼い若さを誇りながらも、真朱の熟し切った色をしている果実をみつけた。真珠のかたちをした小さな果実。隙なくぎゅうぎゅうに灼熱が押し込まれている、終わりのない砂漠で出逢った奇跡の真珠の湖は、見渡しのよい砂漠に出づる朝陽よりも、沈む夕陽よりも、鮮烈に目を引く色で存在している。それは、真夏の重みを担う赤。甘く酸い暁。若く弾けそうな真珠。

 私の乾き続けた喉は既に理性を喪失し、張りのある小さな湖を、その真朱色を、瞬時に噛み潰して食道へ通したいと切望している。
 この場所に辿り着くまでにどれ程、無我夢中に無心を保ちながら、足が焼け焦げる灼熱を踏み続けて来たのだろう。この果実は、すこし前に通り過ぎてきた、まだ新鮮な死体の血痕に似ているようにみえる。とても朱くて、まるで真紅だ。真紅色の真珠だ。

 私を掬った真朱色のちいさな湖はすべて、生命を継なぐ最後の希望であった。最後のオアシスであった。

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