地球色

 緑は麗らかな木の葉の色。目に染みても痛くない色。心安らぐ平和の色。ピンクは恋人の舌の色。憧れのあの子の心臓の色。私の脳味噌の色。だからピンクと緑は共に自然。自然由来の色だから、両方を一気に吸収すれば、わたしはより自然なわたしになれるんじゃないかと思い立ち、右手の平いっぱいに緑、左手の平いっぱいにピンクを取った。そして自然同士をぐちゃぐちゃに混ぜて髪を染めてみたら、すごく汚い色になって、死にたくなった。土留(どどめ)色。



わたしが自然に生きることを、色にまで否定された気持ちだった。どこまでも不自然を擬態することこそ、この地球では自然とされるのだろうか。わたしは生き延びるために葉っぱや木の枝に自身をカモフラージュさせる虫、自己を隠蔽して生涯を終える虫なんかが大嫌いだ。気持ちが悪い。遊戯王カードの人喰い虫も気持ち悪かった。息を吸って飯を食う、森にいる歪な人工体。

 地球の陸と海の割合は?答えは3対7。緑よりも海の方が圧倒的に広いから、ピンクと青を混ぜれば良かったのかもしれない。自然が欲望の色なのは、けっこういい。
 わたしはふと今、これまで地球の上を歩いているつもりだったけれど実は地球儀の上を歩いているのかもしれないと思った。太陽が昇っては沈むのは自転のせいだと思っていたけど、もしかしたらなにかおおきな支配者が片手間に人差し指でぐるぐると地球儀を回しているのかも。この間すきな人が「俺が地球」って言ってたから、その人がすきな人だったらいいな。それなら明日からも君と同じ地球儀を踏み続けたいって思う。でもわたしもいつかはぐるぐる回してみたいな、地球儀壊れちゃうかな。
 私は土でもアスファルトでも、スニーカーで地面を踏み込む感覚が結構すき。アスファルトは小跳びして地面に落ちる時の感覚が、土は力を入れ過ぎずカサカサと表面を撫でて掘るように靴裏を擦る感触がすき。サイズがぴったりで履き心地は硬めの新しいスニーカーを履いて、その真っ白なソール部分を土で汚してみたい。白を地球で汚したら、そこにはピンクと緑が絡み合っているのだろうか。

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