夢と現実の境い目、【詩】

 どこまでも続くあの学校の階段によく似た白いブラインドを締めて、ほっと息をつく。それは、昔よくみた夢のこと。どこかの深夜の学校で、どこまでもどこまでも続く幅の狭い階段を、背後に迫る得体の知れない漆黒に追われるように、一寸先の暗闇へと不安と恐怖に急かされながら降りる私。足音を速くさせるほどに上手くバランスがとれなくなり、不安定は不安定を増殖させ、もつれる脚はどんどん私ではなくなっていく。白い鍵盤を上手く叩けなくなった足裏。ジェットコースターの最高頂からの垂直落下。私は先に拡がる暗闇の海を抱きしめるように、首から背中に一気に広がる悪寒とともに堕ちていく。頭から全身にかけて綺麗に重力に負けていくその瞬間に、私はハッと眼を覚ます。鋭い安堵感。幼い日に繰り返しみた悪夢。暗闇は、どこも怖い。

 夢は最悪な影をもっていると知ってしまったわたしは片想いが報われなかったような切ない気持ちになった。いつもいつも、知ってからではもう遅くて、後戻りができない。1秒前の自分の死体と目が合うたびにギュッと胸が締め付けられ、こんな気持ちからは速く逃げたくて、その釣り合いをとるためにしあわせな現実を感じたかった、けれどそこら一面を見渡してもそれに似たようなものは無かった。わたしは夢にも現実にも裏切られ、犯されそうになり、居場所がなくなってしまった。すこし涙を流したい気持ちになった。だからわたしは夢と現実の境い目みたいな場所をじーっと探してそこを辿るようになった。その場所の名前は[想像]と言って、わたしはそこに逃げることがとても上手になった。慣れて当たり前になったその居場所はどうやらわたしだけが辿り着けるところに在るようで、そこだけが独りきりで深く穏やかな息ができる場所になった。そして時が経つにつれわたしはわたしだけの素敵なその居場所を誰かに教えたくなっていった。誰かに夢と現実の境い目を切り裂いて魅せられるようになりたいという願望が募っていったのだ。夢と現実の境い目を無くすこと、夢にあるものを現実の目に見えるものへと昇華するその行為は[創造]と言った。私はうつくしく夢を現実へと体現できるようになりたい。そして夢と現実を横断し突き刺す方向に、誰もみたことのない色に煌めく光を突き差せるようになりたい。


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