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魔法

錆びた魔法の様な、素敵な夏だった。
君となぞった小さな秘密は
朝焼けを待って、透明な世界で
残した想いと、笑顔と涙。

焦がれていたはずの、ヒーローになって
小さな悪意を飲み込もうとした。
そんな不甲斐なさも、どうしようもないなって
諦めた全部が今冷たい視線で僕を見ていた。

大人になりたい、わけじゃなく
強くなりたかった。
他の誰でもない、自分を
ただ守りたかったんだ。

だってそうだろ。
誰も僕を救ってくれない。
伸ばした手は空を切った。
そんなことなら、誰だって知ってる。
かかることのない魔法みたいに。

笑顔の裏で泣いたりとか
そんなことばかり覚えていくんだ。
震えない心が、伝わらない全部が
僕と夏を少し遠ざけた。


あの日の境界線が、ぼやけて消えた。
溶かしていくのは夏の日差し。
夕焼けを待って、透明な世界で
消えた記憶と、消えない傷跡。

望んでいたはずの、大人になって
小さな悪意を飲み込もうとした。
そんな滑稽さも、馬鹿みたいだって
もういない人に呟いてみせた。

言葉にならない、わけじゃなく
怖がっていただけ。
他の誰でもない、貴女を
追い込んでしまうから。

だってそうだろ。
誰も君を救ってくれない。
冷えた刃が首に当たるのを見た。
そんなことなら、僕だって同じだ。
独り善がりの特別だった。

だってそうだろ。
誰も僕らを救ってくれない。
色んな期待が積み重なってく。
それに応えたかった。
それが耐えきれなかった。

夢が僕らの夢を蝕んでいく。
言葉が僕らの言葉を遠ざけていく。

一つだって
どれか一つだって
あの夏と混ざり会えたなら。

もう笑えるから大丈夫なんて言うなよ。
今だって君はまだ生きているんだ。
永遠の命を手に入れたんだ。

僕だってそうなんだ。
君だってそうなんだ。

また夏を一つ見送ろう。


貴方のその気持をいつか僕も 誰かに返せたらなと思います。