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【坂道のアポロン 感想文】

とても悲しい話の中に置かれた希望のひとかけらより、
眩しく脆い青春の光の物語に差す一筋の暗やみのほうが、よっぽど心に残ってしまう。

本編全9巻と番外編1巻を読んでの私の感想は上記にまとめることができる。

結末のあまりの美しさに感動するとともに、どうしても千太郎のことが頭によぎる。

彼には薫という一生ものの友が居るし、やっと家族という縛りから抜け出して、本当の意味で自立して自分の居場所を獲得した。最終的には淳一と百合香のことも心から祝福できたのだろう。
そして何より、彼にはいつも音楽があり、これからもともにあり続ける。

けれども。どんな友情や愛があろうとも、自分自身のもっている苦しみとはひとりでとことん向き合わなければならない。
そんな人生の孤独な一面も、この作品にはちゃんと余白として描かれていた。
千太郎だけではなく、律子も、薫も、淳一も、百合香も。

私は特に千太郎の「どうしようもならない人生の孤独な闘い」とやらに想いを馳せてしまって、ボーナストラックを読んでもなお、すっきりとした読後感には至れなかった。

作中の彼はとうに乗り越えたのに、私だけ置いて行かれた気分だ。
映画や漫画で、たまにこういう感情を経験する。しばらく心が作品に埋没して出てこなくなるような息苦しさ。もがいても抜けられないので、自然と顔を出すまで待つしか無いのだけれど。

どうか彼がこの物語の後も、しあわせでいてくれますように。そして私が彼の選択を受け入れて消化できる日がやってきますように。

素晴らしい作品に感謝して、この感想文を終わりたいと思う。


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