お酒をやめたら〜 ②脳みそしぼり
「あなたは必ず犯人の顔を見ているはずです。思い出してください」
まるで取り調べを受ける容疑者と警察とのやり取りだ。
まあ正確には、生まれてこのかた警察で取調べを受けた事もなければ、参考人として事情徴収された事もないので、これは全くの作り話、つまりドラマで観た1シーンでしかないのだけど。
いつからだろう。人の顔が覚えられなくなってきたのはここ数年の話だ。
どこかで会ったことは覚えているし、打ち合わせのような話もしているのだけれど、名前だけがとにかく思い出せなくなってきていて「いよいよ脳みそもへたってきたな。これからは些細なことでもメモを取るようにしなきゃやばいぞ」と、ワイシャツの胸ポケットには小さなメモ帳とボールペン。
ちなみに人それぞれだとは思うのだけど、僕はスマホでメモを取るのはやめてしまった。理由は若干のメモ帳の方が速いし、話し始めてスマホでポチポチするのもなんだか間が悪いと思っているからだ。
さて、体を壊したせいで、半ば強制的にお酒を控えてはや1ヵ月が経過した。
ありがたい事に、仲間はみな体の事を心配してくれて、緊急事態宣言が明けたらみんなで集まろう、といっていた今週も普通に呼んでくれた。仲間が集まれば一番飲んでた軍団の一人が急にしおらしくなっているので、オープニングトークでまあまあ強めにイジられて楽しかったけど。
それにしてもこのコロナのせいでお酒の量が増えた人もいれば、減った人もいて思ったほど話題の中心になったのには少し驚いた。
「自分も在宅ワークになったら、終業時間と同時に冷蔵庫のビールに手が届くから、お酒の量が増えた」
「リモートで色々やってると帰り道の余力を心配しなくていいからついついギリギリまで飲んじゃって気がつくとPCの前で朝になっていたり」
僕と同じように主治医に諭されてお酒を控えている、と話している仲間も数人いて、飲み会文化がしっかり根付いていた頃に会社員になった世代だし、考える時期なんだろうなぁ、と思った。
話は戻るが、だいたい集まれば音楽の話。
今の音楽シーンから「昔はどうだったっけ?」と懐かしい話に盛り上がるのだが、酔いもあってみんなとにかくアーティストの名前が出てこない。
自分の明らかな変化に「あれっ?」っと気づいたのはそんな冒頭の話。
「思い出してください!」目の前の刑事さんに詰められる。えーっと…
エド シーランの大ヒットは「シェイプス オブ ユー」で、テンプテーションズみたいなグループは確かシャネルズだ。
そしてバービーボーイズのベースは「いまみちともたか」さんだったはず。
うまくいえないけど、脳みそが辞書になった感じ。ペラペラめくって開くと書いてある、みたいな。高校の英語の先生もキレぎみに言ってたっけ「必ず頭の中に覚えた文法や単語は入っているはずです!絞り出してください!」と。
所詮は飲みの席での与太話。でも、テンポよく正解を出せるのがこんなに心地良いとは新鮮だった。酔っ払っていた時に、うまく言葉が出てこないのはけっこうなストレスだったんだな、としみじみしたりした。
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