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新型コロナ緊急対策支援の878億円クールジャパン事業で懸念される無駄遣いのカラクリ

878億円の使い道と流用区分

経産省が新型コロナ緊急対策予算に計上した「コンテンツグローバル需要創出促進事業」の878億円ですが、税金の無駄遣いに陥りやすい極めて危険な構造的問題を含んでいると考えます。

この補助事業には事業費の使われ方を規定した交付要綱が定められています。

交付要綱_2年

経済産業省 令和2年度「コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金」交付要綱(案)

このように、878億円の使い道は、民間事業者に配られる「事業費」と、基金管理を受託した映像産業振興機構への「業務管理費」に分けられています。

また、交付要綱は、経産大臣が承認した上記の区分以外に補助金を流用することを禁じています。

コンテンツ海外展開支援基金の不都合な過去

今回、1週間の短期公募、応募数1件の”厳正な審査”を経て基金管理事務を受託した映像産業振興機構ですが、過去請け負ったクールジャパン補助金の基金運営事務において目を疑う補助金の使い方をしています。

ここでもう一度、この補助金制度の歴史を振り返ります。

2012年度補正予算
コンテンツ海外展開等促進事事業 155億円(総務省共同所管)

2014年度補正予算
地域経済活性化に資する放送 コンテンツ等海外展開支援事業 60億円

2015年年度補正予算
地域発コンテンツ海外流通基盤整備事業費補助金 67億円

2016年補正予算
コンテンツグローバル需要創出基盤整備事業 60億円

2018年補正予算
コンテンツグローバル需要創出等促進事業 30億円

2019年度補正予算
コンテンツグローバル需要創出促進基盤整備事業  31億円

2020年度補正予算 
コンテンツグローバル需要創出促進事業  878億円

合計1281億円

注目するのは、本書『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー 経産官僚の暴走と歪められる公文書管理』でも扱います、第一弾の「コンテンツ海外展開等促進事事業」の155億円です。

茂木経産大臣が非公表で承認していた流用区分変更

p303_挿入画像

コンテンツ海外展開等促進事事業においても、今回と同じく、経産省は交付要綱を映像産業振興機構に通知しています。

この時に承認されて経費区分は、民間への「事業費」151億円、映像産業振興機構の事務費4億円でした。普通に考えれば、映像産業振興機構は民間支援を遂行するための事務を行うだけと思いますよね?

しかし、この事業の途中で、当時の茂木敏充経済産業大臣は、次のようなルール変更を実行します。

p316_経産省承認

ここにある「他の区分への流用」とは民間への「事業費」のうち20億円を、映像産業振興機構の「事務費」、さらに詳しく解説すると「事務費」の中の「広報費」区分に流用することを承認しています。

この新しく与えられた20億円の経費枠の「広報費」の目的は「事業者と一体化した広報型プロモーション事業の実施」とあり、すなわち、民間のプロモーション支援を行う助成金を配るだけだった映像産業振興機構への事務費が自分たちでも20億円分のプロモーションイベントを主催できるお金に成り代わっていました。

予算が余ろうが断固として国庫に戻さない態度

こちらも本書で詳しく解説しますが、この新しく与えられた『事業者と一体化した広報型プロモーション事業の実施』の20億円こそ、映像産業振興機構が広告代理店と一体化(コンソーシアム)して実行した2015年カンヌ映画祭でのイベント事業の原資でした。

くまモンやコップのフチ子などを展示したカンヌ 映画祭でのイベントは「ジャパンデイ プロジェクト」というフランス、台湾などで年間5回のクールジャパンプロモーションを計画する総合イベントの一つでした。しかし、カンヌ映画祭イベントについて週刊誌が取材を始めた後くらいでしょうか、主催者は突如この総合イベントの中止を発表しました。

当初の計画にあった「事業者と一体化した広報型プロモーション事業」に想定していたイベントの一部が頓挫したのであれば、当然、中止に際し「使われない税金」が残ると思われますよね?

事実、「コンテンツ海外展開等促進事事業」が終了する2ヶ月前までに、映像産業振興機構の広報費枠には約8億5000万円の残余額がありました。

この時の「交付要綱」にはこう記されています。

基金設置法人は、基金事業の終了時 において、基金に残余額がある場合は、これを国庫に返還するものとする。

しかし、この時に映像産業振興機構がとった行動は、事業終了前と後の3ヶ月にこの広報費枠を全て使い切る補助金の駆け込み請求でした。

私は事業終了後に経産省より公文書を取得しました。

この時の「年度報告書」によると、あくまでも映像産業振興機構は、交付要綱に支払い期限と定められた2015年11月と12月の2ヶ月間に8億5000万円のイベントを開催したと解釈する会計報告が提出されていました。

2ヶ月もの短期間に8億5000万円もの税金を使った盛大なプロモーションイベントを開催したのであれば、常識的に考えて世間の目に触れてもいいはずです。もしくは、主催した映像産業振興機構のホームページに当該イベントを主催する告知等が掲載されていてもおかしくないでしょう。

私は、この時期に行われたとされる8億5000万円のクールジャパンプロモーションを探りましたが、実態は見当たりませんでした。

そこで映像産業振興機構に問い合わせを送りました。すると「情報開示の範囲外」との理由で具体的な回答を拒否されました。

それではと思い、今度は経産省に対して真相を尋ねました。すると担当の職員は「事業の詳細はいちいち覚えていない」と回答しながらも、「1円の無駄もない適正事業であることは確認している」と主張しました。

ちなみに、経産省の立ち入り検査は目視のみで行ったため、適性であったことを示す根拠となる公文書は作成していないそうです。ちなみに、口頭のみだった、目視のみだった、の理由は経産省が公文書を作らない理由の常套句だったりします。

このような構造に878億円を注いでいいのか?

以前の記事でも説明しましたが、このクールジャパン海外展開支援には、過去「自民党ー経団連ー映像産業振興機構ー経産省」が繋がる構造が発生していました。

また、この記事で説明したように、過去には自民党所属の経産大臣が、経団連を介し設立されたNPOの利益になるような理解しがたい流用区分についての「ルール変更」を実行した歴史があります。

今回の878億円の新型コロナ緊急対策支援も、ここに例示した2012年補正予算事業とは異なれど、共通した構造を含んでいます。もし、30倍近く跳ね上がった予算を期限内に使い切れなかった場合、このようなルール変更が非公開で行われ、国庫に留めるべき残余額が引き出され、再び実態のないクールジャパンに注がれる可能性もないとは言い切れないと思います。

新型コロナの緊急事態の中、こうした危険をはらんだ構造に878億円もの税金を注いでいいものでしょうか?

非常に心配です。






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