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おい,小池!!(全文公開版)

 今回は東京都における太陽光発電パネル設置義務化の話.私は断固反対です.そして,本条例案は小池百合子氏の「自由」への姿勢を明確に示すモノでもある.

太陽光パネル設置を促進すべきだと考えている人も,本条例案にはぜひ反対して欲しい.大げさに言うと,本条例案は現代の自由と民主主義に対する挑戦とすら感じる.

おことわり 

 太陽光パネル製造過程で生じるCO2の問題,耐用年数が過ぎた後のパネルが産業廃棄物になる問題を指摘する論考もありますがーートータルで環境負荷を上げるのか,なんだかんだで低下させるのか,いずれが正しいのかを論じる知識が私にはありません.基本的にはCO2総排出量は抑制できるとの見解が主流のようで,ここ(太陽光パネルの環境負荷は大きいので普及促進は問題だ)を論点にしても説得的な反対論にはならないでしょう.

 また,太陽光パネル生産の多くが海外生産となっていることへの批判的な見解もあるようですが,私は経済安全保障とは中立的な自由な貿易については賛成なので,この論点は重視していません.

義務化の経済的負担

 太陽光パネル設置義務について,設置費用は10年程度で回収できるのだから住居オーナーにとって損ではないという主張があるようです.まずはここから問題にしていきましょう.

 住宅用太陽光発電パネルの費用は5kwで140万円ほど.年間の電気代節約や売電による収入をあわせると年間12-14万円ほどの収入が得られると期待されています.だから初期コストは10年で回収できるというわけ.

しかし……この投資回収期間は設置したパネルの発電量に依存します.

 例えば,立地によっては設置可能な屋根を北側にしかとれない場合.発電量は南側の2/3程度になるそうです.すると,資金回収期間は1.5倍……つまりは15年使わないと元が取れない.ちなみに,北側斜面規制(北側にある建物の日照を考慮して北側に傾斜をつける)があることから,都心部の狭小住宅では屋根が北側中心に設定される傾向があります.

 加えて,日影規制問題.自宅に太陽光パネルを設置した後に,近くに高い建物が出来るとそれによって日照が確保できなくなり,太陽光パネル設置費用の回収にはさらに時間がかかることになるでしょう.ちなみに,第一種・二種住居地域では,建設により近隣建物に一日4~5時間は窓(2階または3階)に日が差さない時間が生じても建築許可が下ります.

 なお,太陽光パネルを北側(というか真南から離れれば離れるほど)に設置すると,パネルに太陽光が反射してしまい,どれが近隣住民とのトラブルになることがあります.要は太陽光パネルの反射光で近所ともめる可能性がある.通常は深刻な反射の問題が避けられない家は太陽光パネルの設置を諦めれば良い……のですが,義務化だとそれは困難になる.

 回収期間が長期化する,つまりはなかなか元が取れない立地の家が出る.太陽光パネルの設置を強制することに何故異議を唱える議員が少ないことには驚くばかりです.回収期間が長いということは発電量が少ないと言うことです.そもそもたいした発電量を期待できない太陽光パネルを設置しても環境問題の改善にもつながらない.まさになんのためにやっているのかわからない事業になってしまうのです.

 さらに,建て替えやリフォームの問題.住宅を新築してから何年後に建て替えが発生するか.これはそれぞれの家庭の事情により様々でしょう.屋根のリフォームが必要になったとき,さらには解体するときに太陽光パネルがあるとその撤去や再設置に金銭的負担が生じます
 そんな例外的な,かつ偶発的な事例は関係ないと思うかもしれませんが,それほど遠くない将来,子供家族のためのリフォームを前提に家を建てると言うこともある(実際うちの近所でもそういうお宅があります).こういうケースではパネル設置費用が回収できないことがわかっているのに太陽光パネルを設置せざるを得ないということになる.

分配上の問題

 ここまでの批判に対しては,都が補助金を手厚く設定する,設置の例外をもうける……といった微修正で対応可能な論点です.ここで仮に「太陽光パネルは(補助金込みで)設置者にとって経済的な利益がある」制度に設計されたとしましょう.

 東京都で戸建ての家を建てるというのはどういう人なんですかね? 特に区部で.比較的裕福な階層だと言うことになりますよね? 広く徴収した税で富裕層の経済的な利益を促進する施策になぜかくまでも批判が少ないのでしょう?

 もちろん現在でも多くの自治体で太陽光パネルの設置に補助金が設定されています.太陽光発電には正の外部性(CO2排出量を減少させる)があること,経済的困窮者への再分配は別途行われていることによって逆再分配を肯定する議論はあり得ると思います.もし太陽光パネル設置に大きな正の外部性があると考えるならば,普通に設置補助金制度を拡充すれば良い.義務化すべきだという議論には結びつかないです.

本当の問題点

 さてここまでは実は本質的な論点ではない.太陽光パネル設置義務化の本質的問題は別のところにあります.

・太陽光パネルの設置者に利益があるとしても
・分配上の問題はその他の再分配政策でクリアされているとしても

やはり太陽光パネルの設置義務化に私は反対なのです.

自身の財産を何に使い,何に使わないのかを自己決定できることは自由主義経済の基本です.今次の設置義務化はこの経済的な自由をあまりにも軽く見ている.東京都の,場合によっては全日本の家屋に太陽光パネルが設置されても世界的なCO2排出量に与える影響はわずかなものでしょう.これが国民の(都民の)経済的自由を束縛するほどの大きな社会的意義のあることだとはとても思われない.

 太陽光パネルの設置を増やしてCO2排出量を抑制するというのはまぁ社会的に良いことなのでしょう(そんなことはないという議論はここではおいておきます).そして実際にこれから住宅を新築する人,そのなかでも断固太陽光パネルを設置したくないと考える人は全都民の中で多数派とは言えない.

「なんとなくよさげな(に見える)こと」を根拠に少数の経済的自由を束縛する

 私たちはこれを過去二年間繰り返し見てきたんじゃないでしょうか.

 コロナ対策が必要だ,飲食店経営者は国民の多数派ではない.コロナ対策に効果がないとは言い切れないという薄弱な根拠で飲食店の経営の自由をいとも簡単に制限してきた経験.それが少なからぬ国民・都民に支持されてきたこと.太陽光パネル設置義務化はこの空気感を読んだ小池氏の政治的なアクションのように感じられてならないのです.

 太陽光パネル設置義務が真摯な議論無く実施された次に「なんとなくよさげなこと」を根拠に制限される次の経済的自由は何になるのでしょう……大げさに聞こえるかもしれませんが,私には何か空恐ろしく感じられてしまうのです.

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