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再エネTF資料のロゴ問題について

 再生可能エネルギー導入に向けた規制改革をすすめる「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(以下TF)」の資料に中国国営企業のロゴが入っていたことが話題になっています.

 規制改革を担当する河野太郎大臣の説明では「チェックの不備」であり,ファイル自体が有害なもの(ウィルス?)などではないとのことですが...…そういう話じゃないんです.

 内閣府規制改革推進室の記者会見については以下の記事でまとめられていますが...

前置き

 内閣府で規制改革関連の案件を扱う部署が規制改革推進室です.同部署の主要な業務,そして内閣府における規制改革関連の会議体が規制改革推進会議です. 

 私は2016年から2019年まで内閣府規制改革推進会議の委員でありました.農業ワーキンググループ(以下WG,のちに農林WG)を中心に,保育・雇用WG,投資WG,規制改革ホットライン担当などを経験しました.農林WGでは座長として,農業用ドローン,都市でのいわゆる「野菜工場」(建屋内水耕栽培施設),森林経営管理,木造建築などの規制改革を議論しました.

 現在話題のTFは担当部局は規制改革推進室ですが,規制改革推進会議傘下の会議ではありません.ただし,むしろそこが問題でもあること,あわせてそれなりに土地勘のある分野なので今次の問題点を少しまとめておきます.

審議会・会議体委員について

 まず規制改革推進会議,現在話題のTFの「委員」はどのように決まるか.これは,

・政治家が推し込む
・官僚が推し込む
・業界団体が推し込む

の3パターンしかありません.政治家推しの委員は規制改革担当大臣や副大臣,またはその他有力政治家のブレーンもしくはスポークスマン的な立場の人が多いです.ちなみに私はこれ.
 官僚が推し込む委員は 1)主要官庁のOBなど各役所の意向を会議の中で押してくれる人,2)振り付け(大臣や官庁の意向)に異議を唱えないおとなしいタイプの人の2パターンです.
 そして第三が業界団体が推し込むケース.もちろん業界団体や企業に政府委員の人事権はありませんので,政治家・官僚のだれかを経由して業界や自社の意向の代弁者を送り込むことになります.

 今回の問題で,国民民主党や日本維新の会が注目しているのは大林ミカ氏について,「どの国?企業?業界団体?」が「どの政治家?官僚?」を動かして推し込んだのか明らかにすべきだという論点でしょう.書類のロゴはきっかけにすぎません.今回の問題に限らず,政府委員全体について任命の経緯は透明化すべきです.

資料のロゴ問題

 今次の資料について参考資料として用いていた中国企業の資料をコピペするうちにマスタースライドが混在したといった説明が行われることがあります.これはパワポ等のプレゼンソフトを使ったことのある人ならわかると思いますが...かなり無理のある説明です.
 マスタースライドが保持されているという事態は,資料全体を作成する際にこの中国企業が作成したスライドをベースに加筆した場合にしかおきません.自分の名前で出す資料を他人のパワポに加筆して作成するというのはいったいどういう仕事の進め方なのでしょう? 経産省・金融庁での資料でも同様のロゴが入っており,偶然のミスとは考えづらい.
 担当室長による記者会見では,

「研究者が国際交流でお互いにスライドをやり取りすることはあると聞く。固い言葉でいえば、使用を許諾するということになる」
「実際、何か問題があるとは思わないが、今回の騒ぎをみると、やはり(問題は)ロゴがあったことになる。」

中国企業ロゴ問題 内閣府「資料中身に中国由来ない」、大林氏の解任是非は「調べてから」 規制改革推進室の記者会見要旨(下) - 産経ニュース (sankei.com)

との答えですが,意味が分かりません.スライドを渡したら使用許諾なんてことになったら著作権もなにもあったもんじゃない.そして,くりかえしになりますが,ロゴがあったことが問題なんじゃないんです.

 ちなみに,業界・企業推しの委員がその企業・業界団体が作成した(と思しき)資料を会議に提示することはそれほど珍しいことではありません.そもそも,政府委員の中には大企業の代表・代表経験者も多く,彼らが自分でしこしこパワポ作ったとは考えられませんしね.今次の問題は,

大林委員の資料はそもそも国家電網公司が作ったものなのではないか
→大林委員は中国国営企業の代弁者として会議に参加しているのではないか
(or大林委員が事務局長を務め,もうひとりのTFメンバーである高橋洋法政大学教授が特任研究員をつとめる自然エネルギー財団が中国政府の影響下で活動する組織なのではないか)

という疑いをもたれているわけです.政府の審議会や会議体に利害関係者を入れることに私は反対ですが...現実として特定企業・特定業界の意向をうけて委員となっている人はたくさんいます.というか特定企業・業界の代表者が委員になることもありますしね.
 そのため,「特定企業・特定業界の意向をうけている」ことそのものが現下の問題なわけではない.問題はその企業が中国国営企業であり,中国政府なのではないかという点にあります.再エネの拡大による原発再稼働の抑制や火力発電の縮小といった主張を繰り返してきた大林氏や自然エネルギー財団と中国政府・中国国営企業の関係性の問題です.

 さらに言葉を重ねると,個人や個々の団体の主張が「たまたま中国政府と同じ」こともあるでしょう.また,個人や個々の団体が特定国・特定企業から思想的・人的・金銭的な影響をうけることも自由です.そして,中国政府が推奨する日本のエネルギー政策が日本の国益にも叶う(つまりはwin-winの関係)可能性も論理的にはあり得ないわけではない.

 したがって問題は,中国政府や中国国営企業と主張を同じくする彼らについて,

この会議体に推した政治家or官僚は誰なのか

なのです.中国政府や中国国営企業からの影響について「不当な圧力があったなら問題」といった議論がありますが,不当な圧力はないと思われます.繰り返しますが,問題は中国企業の影響下にある(疑いがある)組織を誰が会議体に推し込んだのかです.

事務的なミス?

 なお一部メディアでは今次の問題を「事務的なミス」と報じています.全くその通りで,事務的なミスだと思います.問題は...事務的なミスから重要な事実が垣間見えた(かもしれない)という点なのです.

再エネTFの不思議

 そして現在問題になっている「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の不思議はその組織形態です.通常の規制改革関連案件は

・規制改革推進会議内を親会議として,
・その下に部会・ワーキンググループ・タスクフォースが設置され,
部会等での議論を経たものが規制改革推進会議で承認され,

ることで報告書・答申書となります.各部会・WG・TFのメンバーは規制改革推進会議委員+専門委員それぞれ数名で構成されます.親会議の委員は通常2~3の子会議に所属したり,子会議の座長や座長代理を務めます.

 しかし,「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」はこれらの組織構造から独立しています.

 これは内閣府のweb pageのデザインにも現れていて... 規制改革推進会議とは独立のTFとして位置づけられています.私が所属した規制改革推進会議でもTFは設置されましたが,あくまで最終的な答申前には規制改革推進会議の議事を得ていたと記憶しております.
 そして,「規制改革推進に関する中間答申」(2024.12.26)は規制改革推進会議による答申書ですが,なぜか「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の結論が「参考」なる形で取り入れられている.

内閣府web page

 なぜ再生可能エネルギー関連だけが他の規制改革関連案件とは別立てで議論され,規制改革推進会議の議事を経ない形で進行し,それにもかかわらず答申にはなぜか取り入れられている状況です.
 再エネに関する議論が他の規制改革関連の案件とは別格の重要性をもっている・・・との認識でしょう.それだけ別格の存在において,どのような人選が行われているのか.議論は妥当なのか.

 「事務的なミス」によって注目されるようになったテーマではありますが,これを機会に真摯な議論が望まれるでしょう.

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