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大きな自然から受けたインスピレーションを萩焼に融合。繊細な絵付けで動植物を生き生きと描き出す、大井茉美さんの器たち

ー作り手

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茨城県を拠点に、普段づかいできる食器を中心とした「萩焼」の制作を行う大井茉美さん。大井さんがこの地で萩焼を制作をするのは、元々ご実家が山口県で窯元を営まれているからだそう。故郷の山口県から大道土を取り寄せて制作する作品たちは、萩焼特有の優しい風合いを生かした作品です。

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多くの作品には、「いっちん」(粘土を柔らかくさせた泥漿をスポイトで少しずつ絞り出し文様を描く技法)や「掻き落とし」(陶器の表面に施した化粧土をカンナ等で削って文様を描く技法)といった手法で絵付けを施しています。

細かい線で描かれた動植物のモチーフは、繊細で愛らしい魅力を放っています。

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それぞれ色が薄い土と釉薬同士を合わせることで優しい色に仕上げたり、逆に色の濃い土と釉薬を合わせて落ち着いた色に仕上げたり、材料の組み合わせを考慮しながら制作されているとのこと。

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動物や自然のモチーフは、本格的に陶芸活動を始める前に留学や旅行で海外を訪れることが多く、現地で得たインスピレーションが作品に生かされているからだそうです。

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烏瓜皿などは、子供時代に田舎の実家の周りでよく目にしていた烏瓜の花をデザインした作品であり、そういった過去も含め、自分の中に蓄積されたインスピレーション、イメージが自然と反映されていると思います。

大井さんの作品から優しい安心感を受け取れるのは、大自然から受けたインスピレーションが元になっているからでしょうか。

ーものがたり

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大井さんのご実家は窯元「玉祖窯」。玉祖窯の名前はご実家の近くの玉祖神社が由来しているとのことです。窯元のある山口県防府市には古くから「佐野焼」と呼ばれる、素焼きを中心とした焼き物の窯元が多くあったそう。

ご実家も元々は佐野焼をされていた窯元の一つでした。佐野焼ではかめ、壺、土管などの生活雑貨品が主に制作されていたそうです。そんな中、昭和初期に大井さんの曾祖父が「玉祖窯」を命名されました。佐野焼の将来的展望を模索する中で、佐野焼だけでなく萩焼の作成にも取り組み、茶器や花器など、美術工芸品へと作品の幅を広げていきました。

戦後、生活様式の変化とともに佐野焼の需要はなくなり廃れてしまいましたが、玉祖窯は残り、その系譜が大井さんの代へと引き継がれています。

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実は大井さん自身は子供の頃から陶芸を志していたわけではなく、当初は陶芸とは無関係の大学や仕事を選んでいました。

しかし、自分が本当にやりたいことを模索する中で、昔から身近なところにあった陶芸という「ものづくり」に徐々に魅力を感じるようになったそうです。時間を見つけて少しずつご両親から陶芸技術を教わり、3年前から本格的に活動を開始しました。

特徴的な動物モチーフの描き味は、メキシコの民芸品に由来するそうです。

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動物モチーフの作品などは、メキシコで出会った動物の民芸品たちに影響を受けています。特に、オアハカ州のアレブリヘと呼ばれる木彫りの動物たちの、表情や佇まいのユニークさ、細かく描かれた模様の美しさに非常に魅かれました。アレブリヘとの出会いは、ご好評頂いている動物マグカップシリーズのデザインに繋がっていると思います。

長い間、趣向を凝らしながら人々の生活に寄り添うものを作り続けてきたご実家の玉祖窯さん。そこから継がれてきた技術に、大井さんが得てきた経験がエッセンスとして加えられ、変化を重ねて完成されているのですね。


ー想い

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使って嬉しい気持ちになれるような、誰かのお気に入りになれるような、存在感のある作品を生み出したいと思っています。いっちんも掻き落としも時間が掛かるため、大量に作るのは難しいのですが、全て一点ものとして丁寧な作成を心がけています。

現在は萩焼の作品が中心の大井さん。今後は、表現の幅を広げるために色々な土を試していきたい、と言います。

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玉祖窯の先代の人たちが、時代の流れに沿った様々な作品を生み出してきたように、私自身も、現代的なスタイルも求めて作成したいと思っています。

若い世代にも興味を持ってもらいたい、と考える大井さんは、玉祖窯、萩焼という自分のルーツも大事にしつつ、新しいことにも積極的に挑戦されています。伝統を受け継ぎつつ、大井さんスタイルの新しい作品が生み出されるのがますます楽しみです。


ー作り手情報


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