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記憶の奥に宿る「あの森」からの贈りもの。生命の美しさと神聖さを表現する、繭や草花の装身具

ー作り手

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白く包まれた繊維の膜の向こう、細かな糸くずや花片の淡い印象がうっすらと浮かび上がる。この何とも言えない不思議な存在感を持った作品を生み出しているのは、「あの森」という作り手さんです。

あの森さんは、ブローチを中心としたアクセサリーを作られています。その見た目はふわふわとした繭玉のようです。使用されているのは、絹糸やドライフラワーなど、自然からもたらされるものばかり。手にしてみると、糸や花が交わった繭の中で新しい命が宿っているように感じ、密やかな世界観にぐっと引き込まれます。

そんな作品たちを、あの森さんは「記憶のほつれ」と表現します。

あの森は、記憶の片隅にある物です。何故"森”なのかというと、学生時代、息詰まったときに裏山の森に入って木々に身を委ねていたことからです。木々の包容力は、それはもう母胎のようでした。

私はそこを当時、“あの森”と呼んでいました。
特に誰かに言っていたわけではないのですが、私の中であの森は静かに存在し続けていたんです。

そんな、人々の心を包み込んであげられるような装身具でありたいという思いを込め、大切な拠り所だった「あの森」を屋号にしました。

ご自身の体験の記憶の中にある “あの森” が制作活動の原点となっていらっしゃるそうです。

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「あの森」を生んだとき、ちょっと不思議で神聖なものお守りのような装身具にしてゆきたくて、架空の森の中で生みだされている絵本の中の物語のようなバックストーリーを持たせたかったんです。

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ブローチやバレッタにはたくさんのドライフラワーが入っていて、ふわりと森の香りが漂ってくるようです。裏地は生成りのオーガニックコットンが使用されています。見た目のボリュームとは裏腹に、軽くて柔らかな手触りです。

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縫い糸は、古道具屋で出逢ったオーガニックコットンや、ラオスの民族が紡いだ手紡ぎ糸などです。自ら糸を紡ぐ作業は、満月の夜に行われるとのこと。制作工程が進むごとに、そのストーリーも深みを増していくようです。

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こちらは繭玉を丁寧に縫い仕立てたアクセサリー。綿糸をたっぷり束ねたタッセルのボリュームもさることながら、繭の白さの清潔感も印象的です。

ーものがたり

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「あの森」を制作する渡邉さんは、元々インスタレーションなど大規模な作品を制作されていたそうです。それは、オーガンジーなど半透明のヴェールに包まれた空間を作り、その中に花を手向ける祭壇のようなものだったと語られました。

しかし、お子さんを授かってからは大きなものを作ることが難しくなり、制作物を小さくしていったことで生まれたのが「あの森」の作品達です。

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自然の中で、自分が受け止められる経験をした渡邉さん。自身が救われた自然を通し、今度は自分が人の心に寄り添うような作品を作っています。

オーダーの際は、「好きな色・好きな空気」を伝えると、それに合わせて草花を選んでくださいます。

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大事にしているのは、その人自身の空気感や言葉。「使う人の心のまま」を心がけ、出てくる言葉を汲み取り、作品の中へ紡ぎ込んでいきます。

ー想い

人々の心を包みこんであげられるような装身具でありたい。

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あの森さんは作品を制作する上で、自然から生まれたものや古物など、記憶の纏うものを素材として用いています。

それは、生き物と同じように日々を過ごしてきたものたちには、記憶が刻まれ、その記憶が人の力になることを経験されてきたからです。

作る人、使う人の記憶が“あの森”で重なり、ひとつ、またひとつと作品が生まれていく。繰り返されるこの営みこそが、世界に新たに綴られていくストーリーのようです。小さな繭玉を手に取り、指先から伝わる追憶に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

ー作り手情報




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