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[臍]バイオリンのお化けが出る

 臍は透き通ったガラス玉を眺めるのが好きだ。
 渓流に身を委ね、
 ちょうど窪みに嵌まるように
 ガラス玉を載せる。
 うまく嵌まって
 ひやっとすると
 なぜか少し赤くなる。

雨の粥『ガラス玉』

 小さい頃、近所にバイオリンを扱う会社がありました。確かに看板が出ていたはずですが、アルファベットなので読むことはできませんでした。いえ、漢字であっても読めないぐらいの年頃のことです。どうしてバイオリンを扱う会社と分かったかというと、看板にはバイオリンの絵が描いてあったからです。

 しかし成長したわたしは気がつきます。看板にバイオリンの絵が描いてあったとしても、音楽に関する会社とは限らないことに。

 ある日、叔父の運転する車に乗っていました。叔父がバイオリンの看板を指して言いました。「バイオリンのお化けが出ると言って泣いていたのを覚えているか」わたしは覚えていませんでした。というか叔父の作り話である可能性が結構高いのです。叔父はいかにも悪戯そうな表情をしていました。

(この瞬間に戻れるならバイオリンのお化けって何? と聞きたいです笑)

 わたしは看板とオレンジ色をした煉瓦風の壁を見て、別の想像をしていました。あれはバイオリンではない。あれはお腹であると。

 湿っぽい空気で満ちた空間に、お腹が集められている。

 大した話ではないのです。多分、いつの間にか会社がなくなり真っ白いトルソーだけが残されていた、ということなのでしょう。しかしその場合、もれなくバイオリンの看板とトルソーを擁する廃墟が誕生してしまいますが……。

 また、すぐ近くには後に廃墟になる外科の病院がありました。

 バイオリン、トルソー、病院の廃墟……。なかなか素敵な組み合わせだと思うのです。

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