見出し画像

海の中の友情【短編小説】

気づけば海の中にいた
なぜか呼吸ができる 
魚のようにエラ呼吸でも獲得したのだろうか、
周りにはその魚もいない岩もない
いや、なにもない

あるのは海水にただ彷徨ってる自分のみ
辺りは薄暗く視界は十分とは言えない

兎に角、このまま海流に流されるのはまずい
流されている方向、行き先、上下感覚すらわからないのだ

ゆっくりと流されていることだけはわかる
水泳の経験があったからかなんとか水中で態勢を安定させることはできた

このままどこへ行くのだろうか、、


しばらく流れを楽しみながら流れていると
大きく綺麗な岩が見えてきた

久しぶりにモノを見ることにとても面白みを感じていた。見いいってしまうほどだ。


しまった、この流れだとあの岩が通り過ぎてしまう。また退屈な日々が来てしまう

そう思い流れに抗おうとした時、流れが変化した。そのおかげで私はなんとか綺麗な岩を掴むことができた。

なんて綺麗な岩なんだ。そして実に面白い。
よく見てみるとその岩には魚や、海藻、様々なものがあった。

1番驚いたのはその岩が喋りだしたことだ
初めは驚いたが様々なことを何日も何日も会話した。
楽しんだ。
嬉しかった。
喜んだ。

すると、なぜかその岩から自分と全く同じ匂いがした。水の成分を嗅ぎ分ける能力まで得た訳では無い。ただ、その岩が自分と似た感覚を持っているように感じた。
こんなことは初めてだ
私はこの岩に夢中になっていた
そんな岩が
「あなたは水みたいだ。私にとって欠かせないものであり掴んでいたい。しかし、掴んでも手からすり抜けてしまう。あなたはそんな存在だ」

私は非常に喜んだ。
が、私も似た感覚を持っていた。
ただ彷徨う日々から岩に出会うことで、とても豊かな日々を送ることができていた。
そんな岩は私にとってとても大事なものだ
手放したくないものだ

しかし、岩との会話のなかで、私はずっとここに居れないことは察していた。
なぜか感じていた。
もし、私のモノにできるのなら非常にこの上ないことだ。しかし、それは同時に岩を傷つけることのように感じた。

魚たちの居場所を奪い自分のモノにしたとしても、また私は海中に流れていく。
それは酷いことだ。
私だけ傷つくのなら良い
綺麗な岩が、絶対に傷つくことはあってはならない


私は泣いた。
泣いたと言っても海中で涙なんか見えないが
私は泣いた
とにかく泣いた、、
泣きすぎていつのまにか身体の力がなくなっていた



そうだ、流れているうちにまたこの岩と出会えるかもしれない
その時に今よりかっこよく、きれいに、魅了できるようになっておこう
その時は魚たちなんて知らない
全力で奪いにいく
奪えるように自分を磨こう
靴を磨こう
歯を磨こう
服を磨こう
学力を磨こう
向上心を持たないものは馬鹿だから

そう決意したのは岩と離れてしばらく経った後だった。

そういえば、離れるときに小説を貰っていた
友情というタイトルだ
私は小説を読むのが苦手なのだ
それを知っていたはずなのに、、
なぜ小説なのだ
びしょ濡れになるだろうが

今これを読んでも私の力では理解できないだろう
意味合いを理解できないのは失礼だ
読解力を得た時にこれを読もう

そう、もしもの時は懺悔しよう



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?