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クライアントとの共創で描く未来:中古EV市場の拡大と商機

※2024年7月24日追記
マガジン『note pro運営がすてきと感じた法人noteまとめ』にてご紹介いただきました!

みなさん、こんにちは。
イグニション・ポイントでインダストリーフォーカス ユニットをリードしている川島です。
 
先日、中古電気自動車(EV)市場におけるワークショップを日本カーソリューションズ株式会社と開催しました。
 
本記事では、実施したワークショップの簡単な概要と、当日に事前インプットとしてお話ししたEV市場の未来に関してご紹介します。中古EV市場における経営戦略や新たな事業展開にお悩みの方のヒントになれば幸いです。


事業検討のためのワークショップ

通常2日間かかる内容を半日に凝縮し、ワークショップを実施しました。冒頭では事前インプットとしてEVの市場動向に関する発表を行い、その後、参加者をグループに分けて計5回の議論セッションを行いました。セッションの前半ではアイデア出しを行い、後半では出したアイデアをもとに活発な議論を重ねました。

当日は、当社から私の他に、執行役員の羽間とシニアマネージャーの伊藤もファシリテーターとして参画しました。

EV市場の未来

ワークショップの事前インプットとしてお話しした「EV市場の未来」に関して、次にご紹介します。

1. 2035年に向けてEV普及政策で変わる自動車市場

各国ともに2030年から2035年をターゲットに、新車販売の大部分を脱炭素燃料車や電動車にするように規制をかけるなど、EV普及政策を打ち出しています。
 
詳細は、日経クロステックにて寄稿した連載『EVビジネス2兆円市場の新芽』にて以前まとめましたので、よろしければご覧ください。

EUでは自動車分野において、2035年までに2021年比でCO2排出量を100%削減することが目標として設定されており、BEV・FCVまたは脱炭素燃料車(合成燃料を使用した車両)でなくては販売ができなくなります。

一方、日本では2035年までに、乗用車の新車販売で電動車(BEV・PHEV・HEV・FCV※)100%、商用小型車については2040年までに電動車および脱炭素燃料車で100%を達成するという方針が定められています。
 
つまり、近い将来既存のガソリン車が販売できなくなる時代に突入するということです。

▲ OEMメーカーの動向

こうした各国の政策に連動し、グローバルの主要な自動車メーカーは野心的な電動車販売目標を掲げ、開発を進めています。この結果、2035年にはグローバルの新車販売に占めるBEVの割合は5割を超え、電動車全体では9割近くに達する見込です(富士経済の予測に基づく)。

▲ 新車販売予測

今回のワークショップのテーマである中古EVに関しては、新車販売から一定期間が経った後に市場に車両が流通するので、この図からさらに10年ほど先の目線で見る必要があります。


BEV(Battery Electric Vehicle):(バッテリー式)電動自動車
PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle):プラグインハイブリッド自動車
HEV(Hybrid Electric Vehicle):ハイブリッド自動車
FCV(Fuel Cell Electric Vehicle):燃料電池自動車
脱炭素燃料車:合成燃料(CO2の排出が実質ゼロとされる燃料)を使用した車

2. EV普及に伴い生まれるニーズ/課題

では次に、EV普及に伴い生まれるユーザーのニーズと課題について、法人向け、個人向けに分けて具体的に考えてみましょう。

▲ EV化によって生まれるユーザーのニーズ/課題

法人向けの課題としては、

  • EVや充電設備の必要台数や適切な配置がわからない

  • 導入・運用にかかる費用と、その効果(収益・CO2削減)が試算できない

  • 車両の稼働率と費用を最適化できる運行計画/充電計画の策定が難しい

  • EVの充電での電力使用量の増加による電気代負担を軽減したい

などが挙げられ、EVの導入から運用/利用、再販までのライフサイクル全体にわたる視点が求められることになります。

また、個人向けの課題としては、

  • EV充電に関わる手間や不便、非効率が多い

  • EVのスポット利用をしたいが、充電の利便性などに不安がある

  • バッテリーの劣化状況を適切に評価できない為、EVのリセールバリューが低い

などが挙げられ、所有/利用段階で悩むところが多いわりに、手放す時には期待したほどの価格では売れずに経済合理性が見込めないリスクがある、などと言われています。

このような課題を受けて、EVの購入から運用/利用、再販に至るまで様々な新規ビジネスが登場しつつあります。
購入時や運用/利用時のサービスとしては、EV/充電設備の導入や運行・充電計画の最適化を支援するEVフリートマネジメントや利便性の高い経路充電を支援する充電サービス、充電などEV特有の付加サービスを備えたリース等のEVMaas、またよりエネルギーにフォーカスしたサービスでは、燃料費(電気代)を最適化するEVエネルギーマネジメントや、EVを蓄電池としても利用するV2X等が挙げられ、再販時にはバッテリーの劣化状態の適切な評価と適正価格での中古車売買等のリユースやリサイクルがあります。

3. 中古EV車は中古ガソリン車よりも価値が低い?

次に、中古EV事業を検討するうえで、現在顕在化している問題点について触れます。EVのリセールバリューはガソリン車と比較して低い水準にあります。
当社が2023年時点で特定車種を対象に市場価格を調査・比較したところ、例えば5年落ちのガソリン車の残価率が82%なのに対して、EV車の残価率は55%程度まで落ちてしまうことがわかりました。ガソリン車の価値は中古でも20%ほど下がるだけで済みますが、EVは車載バッテリーの劣化具合がおおよそでしか判断できない為、再販時に車両の正確な価値を定めづらいことが主因です。
 
ただ、ご留意いただきたいのは、EVの新車は別途補助金が支給される点です。この補助金により、実際はここまでガソリン車とEV車の経済合理性に差が出るわけではありません。

4. 中古EV普及の鍵を握るバッテリー劣化状況の評価

このため、中古EV市場における事業検討にあたり、バッテリーの劣化状況を正しく理解し、劣化具合に応じてどう活用していくのかが今後の鍵となります。
 
例えば、あまりバッテリーが劣化していなければ、そのまま中古車として使用できます。もう少し劣化が進んでいれば、ゴルフカートやフォークリフトなどの低速電動車、船やビルに設置する太陽光発電の予備用蓄電池など別の方法で活用することもできます。
 
さらに劣化が激しいなら、原料・素材リサイクルなど資源や素材として再利用していくことも考えられます。
 
ここで浮上するのが「本当にEV車のバッテリーはそんなに劣化するのか」という論点です。Teslaによると、Tesla Model S/X/3については、20万マイル走ってもバッテリー容量は93%を維持しているそうです。

▲ 中古EV市場の現状:EVバッテリーの容量推移

もちろん使用環境にもよりますが、EVバッテリーの容量劣化は比較的穏やかであり、残存価値を適切に評価できれば、リセールバリューを向上させることは十分可能と考えています。

5. 環境の変化をチャンスに変える-中古EV市場に参入、各社の取り組み事例

最後に、中古EV市場における企業の取り組み事例をご紹介します。
 
ひとつめは、世界的なドイツの自動車メーカーと中国の電気自動車用大手電池メーカーの連携プロジェクト。「クローズドループ」と呼ばれる車載電池のリサイクル体制を構築し、EVから使用済みバッテリーを取り出して、バッテリーに使用されているリチウム等の金属類を回収・再生し、再度バッテリーを製造してEVに搭載する、というものです。

▲ 事例:Mercedes Benz × CATL

続いて、試験・検査・認証分野で世界最大の独立系非上場専門機関の例です。約15分で中古車の高精度なバッテリー評価が可能な高速診断サービスを展開しています。

▲ 事例:DEKRA社

最後に、中古EVバッテリーの再生・流通事業に参入した日系総合流通商社の例です。EVバッテリーの検査・評価技術を確立し、最適な用途にバッテリーをリユースする仕組みづくりに取り組んでいます。

▲ 事例:AUCNET(オークネット)社

ワークショップを終えて

EV市場の未来と課題、様々な事業機会についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
 
イグニション・ポイントでは、イノベーションや変革を支援する一環として、企業様の課題に合わせて講師を務めたり、ワークショップを提供しています。

講義・講演・寄稿・取材なども、随時ご依頼をお待ちしておりますので、お気軽にご連絡ください!

〈執筆者プロフィール〉
イグニション・ポイント インダストリーフォーカス パートナー 川島
慶應義塾大学経済学部卒業。デロイト トーマツ コンサルティング、ベイカレント・コンサルティングを経て現職。自動車/モビリティー、医療/ヘルスケアなどの業界を中心に、事業戦略策定から業務/組織改革、デジタル/IT構想まで多数の案件を手掛ける。イグニション・ポイントでは、深いインダストリー知見と幅広いコンサルティングナレッジをもとに業界革新を支援するインダストリーフォーカスユニットの責任者を務める。主な著書に『自動車産業 ASEAN攻略』(日経BP)、『モビリティ革命2030』(日経BP)などがある。

※ 記載内容は2024年7月時点のものです


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