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中京テレビ:メタバースをHRでどう活用するか。エンタメ×テクノロジーで組織開発に挑む新規事業「社員クエスト」

インターネット上の仮想空間「メタバース」の新たな活用方法に注目が集まっています。

中京テレビ放送株式会社(以下、中京テレビ)の新規事業の可能性をHR領域でさらに広げられないかと始まった新サービス『社員クエスト』
メタバースを活用したRPG型のワークショップで、社員のホンネを引き出し、円滑なコミュニケーションによって組織開発を促進するサービスとして今後の企業利用が期待されています。

今回は本サービスの開発背景や魅力、今後の展開などについて鼎談で深掘りします。

話し手
中京テレビ放送株式会社 ビジネスプロデュース局 ビジネス開発グループ 中山志緒理氏

聞き手
イグニション・ポイント株式会社 コンサルティング事業部 ワークデザインユニット ディレクター 石橋、マネージャー 福井、コンサルタント 志村


課題──メタバースをHR領域に活用する可能性を模索

▲ 中京テレビ放送 ビジネスプロデュース局 ビジネス開発グループ 中山志緒理氏

プロジェクトの発端は2023年9月のこと。中京テレビでは新たな収入源として、自社開発のメタバース空間およびメタバース事業の可能性を広げようと模索していました。その中で、コミュニケーションが必要な人事評価制度などのHR領域とメタバースの親和性が高く、活用の可能性を見出したと中山氏は振り返ります。

中山氏「これまでも、タレントのファンミーティングやVTuberのイベントなどでメタバースは活用していましたが、もっと拡張できるはずだと信じていました。ゲーム性のあるメタバースとアバターの匿名性を活用すれば、法人向けのソリューションとしても使えるはずだ、と。
 
そこで、調査を経てHR領域に可能性を見出したのが、9月でした」

中京テレビが組織人事や新規事業の領域に明るい人を探していたところ、ご紹介経由でイグニション・ポイントの福井に相談が舞い込みます。

福井「ご相談を伺ってみると、組織人事周りの知識や、人事部門の方々に対してプロダクトやサービスを販売する方法などの知見があまりないことが分かりました。
 
そこでアドバイザリーのような立ち位置で支援させていただければ、スムーズにプロジェクトが動くと考えました。例えば、中京テレビさんが持っているアイデアに対して、私たちが考え方を肉付けしたり、抱えている不安に対して根拠付けや動き方のアドバイスを行ったりすることで、中京テレビさんの生み出すサービスに、納得感と自信を持ってもらえると考えたのです」

中山氏「元々テレビ制作を担ってきたメンバーのため、商品企画を考えることは得意でも、研修フローの組み方や人事部のニーズの解像度が低く、知見も足りていませんでした。
 
その点、HR領域に実績と経験、知見があるという点で、イグニション・ポイントさんはぴったりでした」

福井「中京テレビの皆さんはクリエイティブ集団なので、新しいアイデアはドバっと出てくる。ただ、ビジネス観点でこの方向で合っているのかと不安を持っていたので、私たちは、大丈夫です、心配であれば、こういうやり方もあります、と道筋をお伝えする動きが多かったです」

決め手──理念やミッションなどのパッションが合致

▲ イグニション・ポイント コンサルティング事業部 ワークデザインユニット マネージャー 福井

HR領域に強みを持つコンサルティングファームはほかにもある中で、中京テレビがイグニション・ポイントを選んだ最大の決め手は「パッションが通じ合った点」だったと中山氏は言います。

中山氏「ご支援を受けるかどうかの検討段階での対話で、すでに私自身も頭の中がすごく整理できたのです。私たちが矢継ぎ早に出したアイデアに対して、的確なアドバイスをぽんぽんと返してくださる。
 
一緒にやっていきたいと思いましたし、イグニション・ポイントさんも新しいことに挑むことを信条としていて、私たちの理念である『地域の信頼と共感を育み、豊かな社会の創造に貢献する。』に通じるものがありました。このサービスは他部門とハレーションを起こすからやめておこう、という後ろ向きの議論には一切ならずに、新サービスで新たな体験が起こせるのではと、両社が共鳴しあったのです。この関係なら、新しいチャレンジを一緒にやれると確信しました」

福井「一般的な人事コンサルティング領域に留まらず、より社会や企業にインパクトをもたらす取り組みをどんどん進めていきたいですし、それが『ゆたかさを生みだすあらゆる革新のプラットフォームになる』という当社のビジョンでもあります。
 
今回のような新しいテクノロジーと新しいプラットフォームを組織人事領域で創造する取り組みは、私たちのビジョンともとても合致しています」

取り組み──エンタメ視点とHR視点のハイレベルな融合に成功

▲ イグニション・ポイント コンサルティング事業部 ワークデザインユニット ディレクター 石橋

プロジェクト発足から1カ月後にはプロトタイプ(β版)の完成に至り、PoC(概念実証)、社内テストが実施されました。

中山氏「今よりもメタバースのUIビジュアルはざっくりしていて、機能だけが揃っているような状態。進捗度合いとしては60%程度。
 
それでも実際にユーザーから本音は出てくるのか、有意な意見が収集できるのか、人事部のニーズに響くかをいち早く検証するためにも、β版の作成を急ぎました」

社内のβ版への反応は想定外のものもありました。

中山氏「上司が気づいていなかった部下の本音や想いが現れ、データを収集するのにメタバースが有効だと分かりました。その一方で改善点も多く出ました。例えば、上司の仕事やマネジメントへの評価・要望である360度評価の結果に対して、想像以上にショックを受けてしまうケース。そこで、RPGゲームのようで操作が楽しく、匿名性により心理的安全性が担保されるので本音で話せる、というメタバースのゲーム性&匿名性を活かす今の『社員クエスト』になりました」

福井「このサービスの肝はやはり生感。いかに生々しい従業員の声を拾えるかどうかにかかっていると当初より考えていました。しかし、想定以上にインパクトのほうが強く出てしまった。従業員の生の声が人間関係のトラブルの元になってしまうリスクを避けつつ、どうマイルドに届けるか。ここを論点にして、マネジメント層へのフィードバック研修を両社で練り上げていきました」

中山氏「このフォローアップ体制を整えるにあたり、上司向けの研修をイグニション・ポイントさんが行ってくださったことも大きかったです。具体的には、360度評価制度は上司を否定しようという意図はなく、ただ理想の姿とのギャップ値であるので、その差を一緒に埋めましょうとフォローアップしてくださいました。私もとても学びになりましたね」

石橋「組織開発において要となる管理職の行動変容を目的とし、多面観察(360°評価)は多くの企業で取り入れられていますが、本人評価と他社評価のギャップをスコアで示したときに、どれだけそのギャップのコンテクストを豊かに本人にコメントでフィードバックできるかがポイントになります。しかし、一般的には、本音で書いた内容が暗に漏れたらと警戒し、無難なことを書きがちです。そこをメタバースで解消できるのが社員クエストの大きな特徴の一つといえます。
 
フィードバックの際に多くの管理職・上司は、なぜ部下は理解してくれないのだとショックを受けるものです。そして恐ろしくモチベーションが下がります。ただ、そこで現れたギャップは能力によるものではなく、期待値のギャップであることが多いです。
 
さらに、被評価者であるマネジメント層がグループで評価を受ける形式にすることで、お互い似た立場だと連帯して受容でき、一緒に課題解決も考えられる。そんな組織力学も導入しました」

福井「石橋が語ったようなノウハウはなかなか伝わりづらいところもありますので、一度研修講師として事例をお見せしながら、ナレッジを移管させていただきました」

中山氏「記名にすると本音が出づらいのでメタバース内で深堀をして、最後にフィードバック研修でアウトプットの捉え方を伝える。こうすることで、管理職が360度評価の結果をポジティブに捉えられるようになりました。β版で得た一番の成果でした」

成果──HR展示会に300名超の来訪。確かな手応え

▲ イグニション・ポイント コンサルティング事業部 ワークデザインユニット コンサルタント 志村

2023年12月に正式版をリリースし、24年より本格的にセールスを開始した『社員クエスト』。これから船出というタイミングながら、すでに大きな手応えを感じていると言います。

中山氏「まだスタートを切ったばかりですが、HR展示会にて300名近い方に体験していただき、実際に『アバターになることで楽しみながら人事の質問に回答できるのがいい』とご感想が寄せられたことからも、大きな手応えを感じています。
 
メタバースだからこそできる価値提供が、私たちのコンテンツ力とイグニション・ポイントさんのHRの知見の相乗効果で発揮されているし、その手応えの大きさから、確かな販売につながると自信を持っています」

社内でも評判は上々だそうです。

中山氏「社員からは『β版よりもこんなにポップになると想像以上に楽しい』『新しいバージョンも早速使ってみたい』など前向きな言葉をもらえたので、ブラッシュアップは成功だったと感じています。
 
社員クエストを多くの企業に、長く使っていただくためには、導入後のサポート体制を整えていく必要があります。
 
その上で、クライアント側の社内稟議の通し方や、導入後に定着するまでの継続的なサポート体制、課題やニーズに応じた活用方法の拡張など、乗り越えるべき課題がいくつかあります。
 
私たちの価値のコアは『エンタメ力』。これによって改善できるコミュニケーションはたくさんあります。これからもイグニション・ポイントさんが持つHR領域の実績と経験、知見を頼りにしながら、サービスを広げていけたらと思います」

志村「HR視点だけでは出てこない、エンタメ企画を作っている企業ならではのアイデアがたくさん出てきた点が、このプロジェクトの大きな特徴です。それらが差別化要因となり、メタバースの技術と融合してシナジーを起こしていると思います」

福井「テレビ局のようなエンタテインメント企業と、堅いイメージを持たれているコンサルティングファームが、メタバースという最新のテクノロジーで共存している点では希少な試みです。だからこそ、サービスを使っていただく人事部門や人事評価を行う現場の方々に対して、日常では得難い体験や価値を感じていただけるサービスを一緒に作れると自負しております。
 
今後も二人三脚で肩を組みながら前に進んで行きたいですし、ぜひいろんな企業の方に社員クエストを体験して良さを味わってもらい、効果を知っていただけたら嬉しいです」

夢が理想論で終わらないようにサービスとして実装し、現場に取り入れてもらえるように体験までデザインする。そんな想いが形になった好事例です。

(記載内容は2024年3月時点のものです)

取材・文:山岸 裕一


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