大切なのは価格ではなく、“お客さまとの繋がり”。
大阪の日本橋は、
古くから電器屋街として知られています。
そこに、大阪人なら誰でも知っている
電器屋さんがありました。
小規模ながら、周辺に数店舗を構え、
「電化製品を買うなら、ここ!」
という大阪人はたくさんいました。
このお店には、
大阪人とあきんどの笑顔の繋がりがありました。
「まけてぇなぁ〜」
「きっついなぁ〜」
いわゆる、値切り交渉です。
大阪では当たり前のことで、
それがお店とお客さまとのコミュニケーションです。
何度かやり取りが続き、
結果的にはお客さまが笑顔で帰ることになります。
しかし、お店としても、
こうしたお客さまが常連さんになることで、
確実な儲けに繋がっていたのです。
まさに、「損して得取れ」。
得することの大好きな大阪人の気質をうまく捉えた、
商売の基本を実践していたのです。
ところが、日本橋に大手家電チェーンが
進出してきた頃から、このお店が変わり始めました。
価格競争に巻き込まれ、値切り交渉を前提としない、
安い価格をつけたのです。
古くからそこで営業するお店が、
価格で負けるわけにはいかないと考えたのでしょう。
最初のうちは、まだ常連さんも来ていましたが、
徐々に減ってきました。
大手がさらに安値をつけて、対抗してきたからです。
しかし、常連さんは価格の違いだけで、
大手に移ったわけではありません。
私もこのお店の常連だったのですが、大手が来てから、
値切り交渉ができなくなったのです。
私が常連さんだとわかっていながら、
「まけてぇなぁ〜」と言っても、
「これ以上は無理です!」と、
非常に冷たい対応をするようになったのです。
しかも、申し訳ないという態度さえ見せません。
それから私も利用しなくなりました。
常連さんというものは、
他店と価格を比べて買うわけではありません。
馴染みのお店は、無条件で利用します。
家電に関しては、
値切り交渉をすることが大阪の文化なので、
それを楽しみながら、欲しいものを手に入れるのです。
このお店は、土着でありながら、
大阪の文化を切り捨ててしまったのです。
競争に勝つことばかりを考えてしまったために、
値切り交渉を楽しみに来ていたお客さまが、
離れてしまったのです。
店頭の表示価格は高くても良かったのです。
値切れることがわかっていれば、
お客さまは来てくれます。
値切りの末に、大手より多少高かったとしても、
満足できるのです。
信頼できるお店で買ったことで、安心感もあるのです。
数年後、このお店は潰れてしまいました。
当然です。
価格競争で大手に勝てるわけがありません。
なぜ、それがわからなかったのでしょうか。
小さなお店が大手に勝つには、
価格以外の何かが必要なのです。
大阪の文化である「値切り交渉」という
“お客さまとの繋がり”を大切に守っていたなら、
長く存続できたかもしれません。
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