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Chapter23
「好きな子いないの?」
岸田マキコは子どものような眼差しをしていた。
あの質問にはどんな意図があったのだろう・・・。
今思うと、あの飲み会メンバーはいささか不思議だった。
藤野ハル、佐川オサム、岸田、オレの4人。
しかも、ハルとオサムは付き合っていて、岸田はハルの親友だ。
オサムはオレがハルに好意を寄せていることを知っていたのだろうか。
岸田は二人の関係を知っているのだろうか。
ハルは、どうしてあの二人を呼んだのだろうか・・・。
頭の中がグルグルと回り、よくない方向へと憶測は進んでいく。
「朝倉、お前、最近大丈夫か?」
コーヒーを飲んで一息ついたところに話しかけられた。
運営部長の阿部は、オレの能力を高く評価し、社内でも推してくれている恩人的な存在だ。
「はい、全然大丈夫です!」
“大丈夫”以外に答えはない。
いくら恩人とはいえ、年長者が無自覚に権力を振り回すような姿がオレは嫌いだった。
どうせ、“大丈夫”と答えられたら、それ以上は質問することができなくなる。
少し想像すれば分かることを放棄して、心配しているフリをしていることに苛立ってしまう。
「・・・そうか、まあ、あんまり無理するな」
少しだけ静寂が生まれたことに好感を持った。
阿部は、さらに励ましの言葉をかけようとしたのだろう。
しかし、それは上司として、年長者として、首を突っ込みすぎてはいけないという若者に対する気遣いが滲む温かい静寂だった。
「先輩、飲み行きませんか?」
上司との会話が案の定、一瞬で終わったことに少しの笑いが込み上げてきていたところに、オサムから連絡があった。
咄嗟にLINEを開いてしまったことで、考えたくない一番の問題を突き付けられて気分が悪くなる。
オサムは、この後に及んで、なぜオレに連絡してくるのだろうか。
もしかしたら、彼はオレがハルに抱く気持ちに気付いていないのだろうか。
惚れた女の彼氏から慕われてしまっている奇妙な状況が、さらに気持ちを落ち込ませたが、数時間後には「ごめん、今日は無理」と嘘の返信をした。
暇な時間があるから余計なことを考えてしまう。
考える暇を与えなければいいのだと仕事を詰め込むと、徐々に体重が落ちていった。
単純に食欲が減って、食べる量が少なくなっただけなのだが、人が痩せていく様子は恐ろしいらしい。
社内でもオレを見る目が変わっていくことを感じる。
自分的には体調が悪いワケではなく、むしろ毎日燃え尽きていると思えるくらい疲弊ため、仕事終わりに飲む酒が異常に美味く感じるという、ちょっとした喜びすらあるが、世間はそう思わない。
バーのマスターだけが「充実してるってことじゃない?」と言ってくれた。
仕事量に比例するように飲酒量も増え、バーに行くことが多くなっていた。
お酒を飲んで溶けるほど酔っ払うと、気持ちよく1日を終えることができる。
今までの自分だったら考えられないバー通いの日々。
その日も酒の魔法にかけられたくて、気分よく定位置のカウンターテーブルについた。
飲む酒は固定化されていたが、注文をするという行為に意味がある。
「モルガンロックで」
常連になったからこそ味わえる店の空気があり、マスターは「はいよ」と言いながら背を向けて作業を始めた。
酒が出てくる前に仕事のメール確認をしようとすると、身体の右側から弓で射られたような強烈な視線を感じ、言語化されないコンマ何秒かの世界に、未来が見えた気がした。
視線の先には、一番会いたくない、佐川オサムがいたのだ・・・。
1時間51分・1460字
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