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Chapter27


 「今日、MIUに会ったよ!」
 毎日連絡が来ることをあれほど嫌がっていたのに、私から連絡をしているのはナゼだろう。
 朝から晩まで日常生活を実況するかのように送られてくるメッセージには、私に対するピュアな好意と同時に狂気を感じ、困っていた。
 なんとか諦めさせようと、マキコに相談して連絡を無視する理由を考えたり、彼の要求に応えるために食事会を用意したりと奮闘する日々。
 こちらが「脈ナシ」反応を何度示しても、心折れることなく立ち向かってくる手強い相手。
 その戦いが、突然、理由なく終わった・・・。
 終わったことが嬉しいはずなのに、どこか物足りなさを感じてしまうのは、女の性なのか、私の性格のせいなのか分からない。
 再び気を引こうとしているのか、時々、意味のない連絡をするようになっていた。

 「お疲れ様です! それはそれは! MIUはハルさんのこと尊敬してるので、喜んでいたと思いますよ!」
 数時間経って、浅倉アオイから返信がくる。
 今までの立場が逆転したかのようで腹立たしくなった。
 女は“追う恋”よりも“追われる恋”をした方がいいと昔から言われていたが、オサムが分かりやすい愛情表現をしない分、いくらストーカー的とはいえ、心の底では“追われる恋”を楽しんでいたのかもしれない。
 
 「今日はお疲れ様。最近、痩せたみたいだけど大丈夫?」
 連絡が途絶えた辺りから、彼は猛烈に仕事に励むようになった気がする。
 会社を巻き込むような仕事はしなくなり、一人粛々と誰よりも働き、担当しているガールズバンドHIRON A’Sの格を上げる方向に大きく舵を切った。
 代理店からの転職ということもあり、コネクションも多くある彼にとっては、ある程度大きくなったバンドが担当になってしまえば、一人で舵を取ったほうが仕事がしやすいのだろう。
 結果はすぐにでた。
 バンドはますます存在感を増し、上司たちからの評価も上がり、朝倉は出世街道まっしぐら。
 しかし、同時に、社内ではアンチ朝倉勢が増えてしまったのだ。

 人は都合がいい生き物だ。
 好きでもない人からのアプローチに嫌気が差していたのに、こちらから連絡をとってしまう。
 新たな才能の誕生を喜んでいたのに、出世を疎ましく思う。
 変わり者だ、狂人だと言われてきた人が、明日には天才だと呼ばれる。
 お金の価値と同様に、人の価値も変わっていくのだ。
 だから矛盾が生じてしまう。

 「大丈夫ですよ! ありがとうございます」
 
「みんな、心配してるから、あまり、無理しないようにね」

 「ハルさん、好きです」

 煙たがっていた人間からの突然の告白に面食らった。
 冗談なのか、本気なのか分からない。
 いや、どちらであろうと、私には彼氏がいるから気持ちが変わることはない。
 ハッキリと断ればいい。
 彼氏がいると返せばいい。
 それなのに、私はただ一言「ありがとう〜」と送ってしまった。
 

 1時間28分 1185字
 

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