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Chapter6.5
高校時代を思い出す。
友達は「清純が一番だ」と言っていた。
何も知らないウブな女の子を自分の色に染めたいらしい。誰かの色が見えてしまうと、気分が下がるようだ。
自分の色が分からないボクは、彼の話が理解できず「意味不明」と呟いた。
「なんでだよ! オサムはヤリまくってる女子が好きなのか?」
彼はこめかみをピクピクさせ、まるで異臭が漂っていると言わんばかりの表情をしていた。
「いや、別にそういうことじゃないんだけど、清純って頑固そうじゃない?」
ボクは情感を込めて優しく気遣って話しているつもりだったが、受け取る側には伝わらなかったようで、彼は鼻息を荒くした。
「頑固じゃねえよ! ビッチな奴ほど人と比べたりするだろ! そっちの方がタチ悪いわ! 清純ってのは、ウブってことなんだよ。何色にも染まることができるのが魅力なんだ!」
同じ日本語を使っているのに何も理解できないことがある。
赤らめた顔で口をパクパクさせている友達を眺めていると、彼がエサを欲しがっている鯉に見えてきた。
頭の中で「恋がしたい鯉」という言葉が浮かび、つい笑みが溢れてしまうと、彼は諦めたかのように「ダメだ、オサムには通じないわ」と去っていった。
結局、彼が何を言いたかったのか分からなかったことは悔やまれるが、いつも誰かの側にいて、誰かの影響を受けて、誰かの色に染まっていたボクは、たぶん、清純ではないということだろう。
たくさんの色に染まっているはずなのに、皆、ボクのことを「孤独」とよんだ。
ハルと付き合うことになって、ボクは彼女の過去の話をたくさん聞いた。
どんな人間だったのか、誰の影響を受けてきたのか。建造物を解体していくような感覚で、彼女の人生の軌跡を追った。
不思議なもので、わざわざ過去の恋愛話を聞いて自分から嫉妬に飛び込んで行くことがあった。そして、外国人との恋愛の話を聞いた時が一番嫉妬した。少しだけ「清純」にこだわる友達のことを理解できたような気はするが、その経験がなければ今の自分はないと言い切る彼女の姿は美しかった。
人のエピソードを聞くたびに、自分には語ることが一つもない現実を突き付けられる気分になるが、彼女の話は現実に戻ってこれないほど飛躍していた。
ハルは幼い頃、念が使えたそうだ。
使えるようになったキッカケは幼少期の頃のイジメ体験らしい。
外履きを泥まみれにされた帰り道。泣き顔を冷まそうと公園のベンチに座っていると、「御神木(ごしんぼく)」と近所の人たちに愛されている大きなクスノキに声をかけられたようだ。クスノキはハルの話を静かに聞き、「大丈夫」と励ましたらしい。
それ以来、クスノキが彼女の人生の相談相手になり、次第に彼女の恐ろしい願いまでも叶えるようになった。
「あの子に復讐したい」「懲らしめたい」「いなくなってほしい」と語りかけた数ヶ月後、念じていた子が大怪我を負ったり、自殺してしまったそうだ。最初は偶然だと思っていたが、その後も同じようなことが続き、彼女は確信した。
「こんな話、誰も信じてくれないでしょ? だから今まで話してこなかったんだけどね」
遠くに焦点を合わせながら、少しの照れを混じらせるハルの表情を見て、ボクは彼女が本当のことを言っているのだと思った。
「そのせいなのか、自分が想像したこと、やりたいな! って思ったことは大抵実現するようになったんだ!」
ハルは自分の過去を肯定し、今の自分の背中を自分で押しているように見えた。
これから言うことに、ハルはなんて思うのだろうか。
「意味不明」だと思うだろうか。「殺したい」と思うのだろうか。
その時、ボクはどうなるのだろうか。
「たぶん、ハルと結婚はできない」
自分が放つ言葉にどこまで体温を宿すことができるのだろう。
言葉で説明はできるのだろうか。
「恋がしたい鯉」の顔を思い浮かべても、少しも笑えなかった。
1時間55分 1600字
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