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Chapter21
「ねえ、オサム、朝倉大丈夫なの?」
久しぶりに会社で佐川オサムを見かけた。
同じ会社とはいえ、業務内容が違う部署の人とは会うことが少ないのだ。
文化芸術部と企画/制作部では、オフィスの階数も違ってしまっているため、1週間全く会わない人も存在する。
一部からは、そんな事態を憂慮して、デスクなどを振り分けない「フリーアドレス制にしたらどうか」という声も上がっているほどだ。
あらゆる部署が自然と交流が生まれるホットスポットは喫煙所になってしまっている。
オサムが同年代よりも違う部署の先輩と仲がいいのも、喫煙所での交流から始まっているらしい。
「うーん、どうだろう・・・そもそも頻繁に連絡を取る人じゃないから、最近あんまり話せてないんだけど、明らかに変だよね」
オサムは口をあまり動かさないように、静かな声で話した。
変な話をしているワケではないが、その場にいない誰かの話をするときには自然とコソコソと話してしまう。
「ウチの部署でも結構話題だよ? オーバーヒートしてる感じだよねって」
彼の話し方につられて、私までも口をあまり動かさない話し方になっていた。
一見地味だが、佐川オサムは不思議な求心力を持っている。
どうして友達が少ないのかが分からないほど、人の懐に入る能力に長けているし、落ち着いた口調で相手を引き込む力も持っている。
私も、それなりにプレゼンや相手を取り込む能力は高いと思っていたし、「岸田節」と言われるほど豪快に相手の胸にダイブするようなタイプだったが、彼と話していると、自分とは比べ物にならないほどの天性の魅力を感じた。
そもそもオサムとハルの関係を知るまでは、彼と会話もしたことがなかった。
8歳年下で部署も違う後輩との接点があるはずない。
しかし、どういうワケか、戦友であり親友の藤野ハルは、彼と交際を始めた。
「そうだよね・・・なんかやつれてるし・・・ちょっと聞いてみる。ありがとう」
ハルの希望だったらしく、私だけには二人の関係を教えてくれた。
馴れ初めなど野暮な質問はしていないので、二人の関係について深くは知らないが、二人の友達であり相談相手として3人で食事にいくこともあった。
「ほんと。元々一人だったけど、なおさら孤立してる感あるから、慰めてあげて」
オサムと初めて会ったときは、人の会話をじっと聞いているような静かなタイプだと思っていたし、むしろ、私のことを本当に味方なのだろうかとう猜疑の目を向けていて、感じ悪い若者という印象だった。
「みんなの愛人」の異名を持つ、あの藤野ハルが選ぶ男というから、相当な包容力や経済力がある人だと思っていた分、肩透かしにあったことを覚えている。
しかし、会う回数が増えると、彼に秘められた力を感じるようになった。
彼は面倒なほど思考を繰り返す人だった。
そのせいか、話が飛んだり、飛躍したアイデアがポンポンと生まれてくる。
そして、恐ろしいほどに学習意欲が高かった。
知らないことに出会いたいという欲望が強く、興味を抱いたら猪突猛進でのめり込んでいってしまう。
一度のめり込むと、しばらくは現実に帰ってこない高い集中力も持っていた。
ウチの会社では、文化芸術部がピッタリだと思う反面、もっと脳の使い方を変えたら、驚くほどの大物になれるだけのポテンシャルを感じた。
この才能にハルは惹かれたのかもしれない。
でも、彼の純粋さだけは、ハルにしかわからなかったんだ。
彼は、混じり気なしの気持ちで、朝倉を食事に誘ってしまった・・・。
1時間15分・1440字
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