Chapter9


 8歳下の彼女ができたら、自分の弱みを見せることが出来るか分からない。
 対等な関係でいたいと思っていても、どこかで年齢差を感じるに違いない。
 共通点を探すことの方が困難になりそうだ。
 8年の人生経験の差は大きい。
 当たり前のように価値観は違うだろうし、体力・肉体的な差は可視化されてしまうだろう。
 一番の違いはやはり精神面の部分だろうか。
 思い返してみても、8年前の自分は物事を一面的に考えることしか出来なかった。
 相手の言葉の一部分だけを切り取ってしまい、その前後の文脈から見えてくる奥行きにまで想像力を働かせることはなかった。
 では、今が出来ているのか問われれば答えはNOになるのだが、少なくとも考えようとする姿勢は少しずつ芽生えてきている自覚はある。
 逆にいうと、物事を一面的にしか捉えることができない8年前の自分が目の前に現れた時、そのことを理解して接することこそが年長者としての責任になるのだろう。
 人それぞれ性格は違うかもしれないが、そう考えると、やはり年長者はナニカを背負わなければいけないんだと思う。

 藤野ハルは大人だった。
 共通点が少ないならば、共通点を作ってしまえばいいという考えだったに違いない。彼女は8歳下のボクに知らない世界を沢山教えてくれた。
 ボクに旅行経験が少ないと分かると「じゃあ、宝塚行かない?」と、兵庫県宝塚市にある宝塚大劇場へ観劇旅行に連れて行ってくれた。
 「いきなり誘っちゃって申し訳なかったから、チケットは奢らせて!」と笑いながら差し出されたチケットを観ると、交通費に匹敵する驚きの金額が印字されていた。
 ここで彼女は交通費やホテル代など全てを払うことはせず、舞台公演のチケット代だけを負担してくれたことが、ボクと対等に接してくれている気持ちにさせた。
 旅行経験が少ないため、電車に乗るだけでも気分が高揚し、メインとなる舞台公演を観た後は、恍惚とした気分になっていた。
 終演後には生写真を購入するほど舞台に魅せられ、グッズ売り場で「ここでの売り上げも、彼女たちがスターになるための一つの力になるんだよ」と誇らしげに語るハルの横顔には、共通点を作ることができた安堵のような明るみが差していて、とても美しく可憐に見えた。

 彼女は、年長者としてのナニカをしっかり背負っていた。
 それはどれだけ年月が経過しても変わらず、それこそが彼女のアイデンティティになってしまっているようにも思えた。
 ケンカをしても、絶対にボクを論破しようとはせずに、時間をかけて仲直りしようとした。
 
 時間が経つほど、彼女が大人であるほど、ボクは、藤野ハルを超えたいと思うようになってしまった・・・。


1時間45分・1105字


 


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