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Chapter8


 彼からは何度か別れ話を持ちかけられたことがある。
 理由も思い出せないようなケンカを2週間ほど引きずり、連絡頻度が減り、LINE内容もそっけなくなったとき、彼から「ボクたち別れた方がいいのかも」と切り出されたのだ。
 あまりの唐突さに怒りが湧き上がったが、ここで別れるという選択をすることの方がくだらないと思い、私が謝り歩み寄る姿勢を見せ、ことなきを得た。

 彼の様子を観察していて分かったことがある。 
 小さなケンカも、大きなケンカでも、問題が解決しようがしまいが、彼は一晩眠ると何事もなかった日常に戻るのだ。
 翌朝になると当然のように「おはよう!」というLINEがあり、一緒にいるときでも同じように「おはよう!」と私を抱きしめた。
 デートをしてもケンカのことには一切触れなかった。

 オサムは「仲直り」にこだわるのだ。
 ケンカを引きずることを嫌い、すぐに仲直りしようとした。
 それはナニカを放棄しているようで、問題を解決しようとしない姿勢が理解できなかった。
 ケンカという名こそついているが、私にとってのケンカとは、お互いの価値観のすり合わせ作業だと思っている。
 流れている血液が違ければ、育った環境も違う。そもそも他人なのだから、すぐに理解しあえるワケがないのだ。だからこそ、時間をかけて対話を重ねることで問題解決に向かうのではないだろうか。
 ケンカ翌日の彼のあっけらかんとした態度を見ていると、どこか無責任さを感じてしまい、そのことが次のケンカの火種になることもあった。
 そして、原因をしっかり考えて欲しいと思い、わざと時間を引き伸ばそうとした時に「別れ」を告げられた。
 仲直りができないのであれば、別れる。

 オサムは頑なに「仲直り」にこだわる人だった。


1時間33分 736字 

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