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サバイバーと心の回復力:逆境を乗り越えるための七つのリジリアンス

すばらしい本に出合いました。
『サバイバーと心の回復力 逆境を乗り越えるための七つのリジリアンス』
スティーヴン・J・ウォーリン、シビル・ウォーリン 奥野光・小森康永訳
金剛出版 2002

この本は二人の臨床家によって書かれた「問題の多い家族の中で生き抜いてきたサバイバーたちのための」ものです。
いままでいがらっしが読んできた本との大きな違いは、サバイバーの受けてしまった(今も引きずっている)ダメージに注目するのではなく、難しい環境のなかで(既に)身につけてきた強く生きるスキルを数え上げるという点です。サバイバーとしてこの本を読む人は、「あ~あ、こんな目に遭ってしまった。そのせいで今の私はこんなだ」という視点ではなく、「そうか!自分では気づいていなかったが、私にはこんな知恵や強さやモラルがあったから、切り抜けてくることができたんだ!すごいぞ私!」という視点に出会うことができます。

ます、リジリアンスとは「回復する力、苦難に耐えて自分自身を修復する力のこと」です。
この本は、問題の多い家族の中で成長することが取るに足らないことだとか、誰だって大変な目に遭っているんだとか、辛い目に遭ってこそ人は立派になれるんだ、などとは云いません。傷が完全に癒える日が来るとも言いません。
でも、そのような環境にあっても、リジリアンスを育てることができると語ってくれます。
これって、サバイバーや、次の世代に苦労を掛けてしまっているかもしれないという自覚のある人にとっては、まちがいなく福音となるでしょう。

この視点をもって、自分の人生というストーリーを組み立てなおすことができます。
「ひどい目に遭ってきたかわいそうな人生」から「あしながおじさん」の主人公ジュディのような人生へ。

残念なのは、日本語訳が非常にまずいこと。DeepLのほうがよっぽどましな仕事をしてくれるんじゃないでしょうか。まあ、タイプするのが大変でしょうが。
「鍵概念」という訳語を目にした時は、愕然としました。おそらく原文ではkey conceptだと想像しますが、序文に「アカデミックな書物や専門雑誌に限られて」語られてきたレジリアンスという概念を「サバイバーたち自身に手渡すこと」を目的としているとあります。その本でkey conceptを訳すなら、「中心となる考え方」ぐらいが妥当なのではないでしょうか。
鍵概念という単語に限らず、「直訳なんだろうなあ…」という部分が多く、初めの数ページが辛すぎました。よっぽど投げ捨てようかと思いました。慣れてくれば、憶測で読めるようになりますが、英語に馴染みのない方は辛いかもしれません。

しかーし、投げ捨てないでよかった。本当に良かった。この本で示されていることは、かけがえのないものです。
日本語で紹介してくれなければ出会えなかった本ですので、その点では翻訳者に感謝です。

ぎこちない日本語に打たれ強い方、その苦労と引き換えにしても価値のある本です。
ぜひ!!

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