Mrs. GREEN APPLE『Love me,Love you』-誰が心にも春は来る

Mrs.GREEN APPLEの新曲が、めちゃくちゃお洒落だ。
今年二月十四日(ヴァレンタイン!)に発売された『Love me,Love you』と言うタイトルのシングルなのだけれど、毎回違った顔を見せてくれる彼等がまた新しい形態に変身した事がよくわかる楽曲になっている。前回のシングルでシンセサイザーバッキバキだったバンドが一体どんなメガシンカ遂げたらこんな事になるのか、甚だ謎である(※褒めています)。

ゴスペルみたい。
ゆったりとした高揚感が曲全体に行き渡っていて、ビッグバンド編成とかも似合いそうな雰囲気。テンポも遅めで全体的に大人っぽい印象の曲だ。でもミセスの曲に特徴的な、何処かお伽噺のような可愛らしい雰囲気も相変わらず健在で、まるで春の暖かい夜に空飛ぶベッドに乗って千夜一夜物語の世界に連れて行かれるようなドリーミーさがある。あと、なんと言ってもりょうちゃんこと藤澤涼架くんの鍵盤が良い仕事していて、本当にマジりょうちゃんと言った感じだ。アウトロのピアノが特にイイ。

音楽批評などでよく用いられる言葉に、「普遍性」と言うのがある。これはなんとも漠然としたイメージの言葉なのだけれど、僕は「年代や性別を問わず誰もが抱きうる感情や感覚」の事だと理解している。

最近のミセスはその普遍性を表現する意識がめちゃくちゃ高くなっている気がする。今回のシングル表題曲でも誰もが共感出来る恋心や友愛の感情がキラキラハッピーに描かれており、聴いているだけでどうしようもなく楽しくなってくるのだが、もしかしたら今の僕がこの曲の良さに気がつけたのは僕自身が色々な音楽を聴いてある程度耳が肥えた状態だからこそなのかもしれない、とも思う。完全にいち音楽好きである僕の主観だが、ロックバンドの音楽は普遍性を手に入れれば入れる程、わかりやすく明るく、優しい音楽に変わってゆくからだ。

椿屋四重奏に青春を狂わされた五十嵐十四歳当時、普遍性を湛えた音楽――わかりやすく明るく優しい音楽は「僕の棲むべき場所じゃない」と感じていた。明るく優しくわかりやすい音楽はメインストリームで、僕の居場所はそこではないと思っていたのだ。思春期真っ只中十代の子達の多くが、当時の僕と同じような感情を抱いた事があるんじゃないかと思う。

ミセスは元々十代の若者を導くような音楽をやりたい、と言う志とセルフプロデュースの美学を持っているバンドだ。でも皮肉な事に、楽曲が明るく優しく普遍的になればなる程、かえって当時の僕のような捻くれ者の十代にはその良さが伝わりにくくなってしまうんじゃないかと思う。
捻くれ者の十代に寄り添い、導く音楽を目指しているはずのミセスは、今捻くれ者が生理的に敬遠しがちなメインストリームの音楽に近づいているんじゃないか?

なんて言ったものの、バンドの根幹ってもんはやっぱりそうそう変わるもんじゃないのかもしれない。

この曲は、表題曲のカップリング『春愁』。
一音目から静謐に展開される大森元貴のボーカルが印象的なこの曲はタイトルそのまま、「出会いと別れの季節・春の愁い」についての歌だ。山中あやちゃんと高野キヨカズ兄さんの手による、歩くスピードの優しいリズムが全体を包み込むサウンドに乗せたバラードで歌われるメッセージは、表題曲と比べるとちょっと暗い。しかしここにこそ、彼等の音楽の根底にある美しさが現れているんじゃないかと思う。

ポジティブな感情を素直にポジティブに鳴らせるミセスは、ネガティブな感情さえも同様に、素直に鳴らす。自分の気持ちを相手に――リスナーに押し付けるような事は絶対にしないが、「嫌い」「好きになれない」「醜い」と言った気持ちさえそのままの状態で提示する。しかも、まるでその気持ちを否定も肯定もせずただただ認めるかのように、美しいメロディと柔らかな歌声に乗せてみせるのだ。

もう一曲のカップリングであり彼等の友人のシンガー坂口有望さんとのコラボ曲『Log』も、『春愁』と同じくネガなテーマを惜しげもなく描いた曲だが、90’s風の涼しげなシンセサイザーと高音ボーカルが春一番のような人肌の温かさをもたらしてくれる優しい曲だ。ひろぱこと若井滉斗くん謹製のギターソロが狂おしく切なげでイイ。

 カップリング二曲に通底する、「ネガな感情を否定も肯定もしない、ただその存在を認める」と言う点の根源には、彼等――と言うより、ソングライター大森元貴の創作の根源にある人類愛があるように思える。アルバム『TWELVE』のリードトラック『パブリック』の中で歌われた「醜いなりに心に宿る 優しさを精一杯に愛そうと 醜さも精一杯に愛そうと」と言うメッセージを、彼は今存分に体現しているんだろう。そしてその大いなる人類愛は、表題曲で描かれている普遍的な「恋」や「愛」にも通じる部分がある。

彼等の人類愛の歌が、果たして本当に届いてほしい人々――捻くれ者の十代の若者達にちゃんと届いているかは、いちリスナー(しかも二十代のおじさん(自称))である僕には知る由もない。でも、明るい音で普遍性を鳴らす反面、こういう曲もちゃんと多くの人々の目に触れるところに置いておいてくれるその心意気、抜かりのなさには、やっぱり惚れぼれせざるを得ない。

お伽噺のような浮かれた春の夜を喜べない根暗の枕元にも、等しく春はやってくるのだ。Mrs.GREEN APPLEはどんな春の訪れでも、否定も肯定もせず、ありのままを受け止めてくれるだろう。モヤモヤとネガティブに渦巻く春の愁いすら、美しいメロディに生まれ変わらせてくれる彼等なのだから。

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