ゲスの極み乙女。『戦ってしまうよ』-戦うために戦ってんだよ

僕にとって音楽は、言わば親指プッシュひとつで接種出来るワクチンのような、鎮痛剤のようなものだったりして、日々生きてゆく上で胸が痛んだり、物理的に身体が痛むような事があった場合にそれを少しでも和らげるために再生ボタンをクリックする事が多いわけだけれど、そのためにはその鎮痛剤――音楽を提供してくれるミュージシャン自身の挙動にもついつい安心感を求めがちである。

誰とは敢えて言わないけれど、昔っから音楽業界には問題児と言うか異端児と言うか、ちょっと人道的にアレな、エキセントリックな発言や素行を見せるひとと言うものが存在する。個人的にはそのひとがつくる作品が魅力的前提ではあるが、正直そう言う「見てるだけでよくも悪くもワクワクドキドキするひと」と言うのは嫌いではなく、自分が言いたくても言えない事をサラリと言ってのけるクレバーでチャーミングなふてぶてしさが羨ましくもあるのだが、正直そのひと(人々)のファンになってしまうと、ちょっと鎮痛剤の効果が望めなくなる時があるのは否めない。

先月発売されたゲスの極み乙女。のシングル『戦ってしまうよ』を聴いていて、そんな気持ちをふと思い出した。

ファンの僕が言うのもアレではあるが、皆さんもご存知の通り川谷絵音氏は間違いなく先述の「問題児」「異端児」だ。今となってはネタだったんじゃないかとすら思える一連の事件も含め、ブレイク前から結構な毒舌とシニカルが過ぎる歌詞が彼のアイデンティティのひとつであり、ゲスの極み乙女。と言うバンド自体のアイデンティティさえその部分に依拠していると思う(あとドラム・ほないこか様の美貌)。

正直言って、ゲスの極み乙女。を追いかけるのは心が休まる所業ではない。ブレイクしてしまった今となってはより一層、だ。いつ誰の心無い言葉にファン心を傷つけられるかわからないし、カリスマ・エノンカワタニはあのゆで卵のような飄々としたポーカーフェイスで、自ら嬉々としてその原因をばら撒きまくって挙句スキップで去っていくようなタイプだ。全く、怖いったらない。見ていて安らぐのは休日課長の安定感あるベース捌きとあの佇まいぐらいだろうか。

今作のイントロから冴え渡り続けるちゃんMARI女史の極彩色のシンセサイザーが想起させる、カラフルなレーザーを放ちながら超特急で走る暴走無人モノレール。僕の中でのゲスの極み乙女。のイメージは正にこれだ。怒涛の如く現れて、既成の概念や常識をぶっ壊しながら疾風のように去ってゆく。六分越えは当たり前のプログレロックをベースとした曲調を長い事売りにしていたゲスのイメージを覆す、ジャスト三分の見事な展開も然り。そのめちゃくちゃコンパクトなフィールドの中に詰め込まれた壮大さは、謎のカタルシスすら呼び起こす。

彼等にかかってみれば、いわゆる“炎上”的なイメージすらも全て音楽表現に取り込み、バンドのアイコンとしてちゃっかり役割を持ってしまう。このシングルのM2に収録されている曲タイトルは『イメージセンリャク』なのだけれど、曲名が発表された時はちょっと笑ってしまったぐらいだ。つよい。

日々の痛みを緩和・麻痺させてくれるような美しい音楽も勿論いいけど、痛みを誤魔化し続けるのは時に逆効果だ。必ずツケが回ってくる。身体の中に絶対にある、その痛みの原因をいつかはしっかり外へ吐き出さなければならない。痛みが強くなって熱を持ち、歩くのもままならなくなってしまったら、後は存分に寝込み、くしゃみをし、咳や鼻水を出して汗をかいて原因を追い出すしかない。言わば、「痛みの原因」と真正面から戦う必要があるのだ。

ゲスの極み乙女。の音楽はその手助けをしてくれる。ちょっと乱暴だけど、頭の上から布団と毛布をかけられて額に冷えピタを物凄い勢いでペターっと貼られるようなイメージ。

きっと彼等自身がそうなのだろう。その身に降りかかる痛みの全てをぶっ飛ばし、逆手に取り、おびただしい数の痛み達と戦い続ける歌を奏でるために、心無い言葉を受け取ったり外野にネタにされる事さえ厭わない。敢えて戦いの場に身を置く。

大サビ前にメンバー四人(+お馴染みのコーラス隊、佐々木みお氏とえつこ氏)と思われる声で何度も繰り返される「撃て、このゲームが終わらないように」と言うフレーズがとても意味深で、象徴的で、勇ましい。

彼等は「戦いの歌」を歌うために、「戦って」るんじゃなかろうか。それも、あくまで、飄々と。戦う事に対して快感すら覚えているように感ぜられる。

だから、もう鎮痛剤も効かなくなってどうしようもなくなった時、僕は意を決してゲスの極み乙女。を聴く。全然見ていて安心出来ないバンドだけれど。時々かえって痛みが強くなる事すらあるけれど。でも彼等も間違いなく、僕にとっては大切で最高なバンドだ。

生来のふわふわっとしたよく通る高音に加え、低音のヴィブラートが艶っぽくなった絵音氏の歌声は更に殊更しなやかで、フロントマンらしくゲスと言うバンドのスタンスを鮮やかに体現している。

正に、狂戦士(バーサーカー)。

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