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三重県は東海?それとも関西?(地理交流広場第5号より)

 三重県は東海?それとも関西?____。

 これはこの本を手に取られるような地理に興味がある方なら誰もが考えたことのある話かと思いますし、仮に興味がそこまで無い方であったとしても社会科の授業を受けたりテレビなどを見たりして一度くらいは気になったことがあるのではないでしょうか。地理が大好きな三重県民である筆者も当然ながらこの問題についてはよく触れる機会がありました。
 皆様ご存知かと思いますが、三重県は名古屋と大阪・京都の中間に位置する県であり、地方区分では名古屋を中心とした『東海地方』や『中部地方』などに含まれることもあれば、大阪や京都を中心とした『関西地方』や『近畿地方』に含まれることもあります。公的に定められているわけでもないので、それぞれ個々人や各団体の判断によって所属地方が変わり、どれが正解であるとも、不正解であるとも言えません。
 しかし、いくら正式に決まっていないとはいえ、実態を踏まえればどちらの地方だとするのがより妥当だと言えるのでしょうか。本稿では『三重県の地方区分問題』について、実際における三重県の状況などを踏まえながら、三重県は東海地方だと言えるのか、はたまた関西地方だと言えるのかを様々な角度から検証し、そして地方区分が複雑化した経緯や原因についても探っていきます。

検証『三重県は「名古屋」か「大阪・京都」か』

方言

 まずは日本全国それぞれの地域で違いが最もよく出るものと言っても過言ではない『方言』について見てみます。
 東海地方(名古屋)では『東京式』と呼ばれるアクセントが用いられており、愛知県の他地域や岐阜県、静岡県などでも種類の差はあれ東京式が用いられています。東京式は広範囲で使われているものですが、その中でも特に中部地方で用いられているものは『東海・東山方言』と呼ばれます。一方の関西地方(大阪・京都)では「京阪式」と呼ばれるアクセントが用いられています。京阪式も同様に広範囲で使われているものですが、特に関西地方のものは近畿方言と呼ばれるもので、これがいわゆる『関西弁』です。
 それでは、三重県は東海地方(名古屋)と同じ東京式か関西地方(大阪・京都)と同じ京阪式かどちらなのでしょうか。その答えは京阪式、それも関西弁です。その中でも特に大阪や京都に近い伊賀地域(県北西部)では京都の方言(京ことば)や大阪の方言(大阪弁)に非常に似通った方言(伊賀弁)が用いられているので、完全に関西地方と同じ方言圏に属すると考えていいでしょう。
 木曽三川を境に方言が東と西に分かれています。ここには非常に古くから方言の境があったとされ、江戸期の書物『物類称呼』にも「桑名(木曽三川の西岸)の渉より言語音声格別に改りかはるよし也」と記されています。この『桑名の渉』というのは江戸時代に存在した『七里の渡し』という熱田(名古屋市)~桑名間の海路のことですが、この海路が存在していたということは木曽三川が容易に渡れるような河川ではなかったことを表しています。橋など無かった時代は今の三重県から見て名古屋、東海地方は海の向こうの簡単には交流が出来ない地域だったのです。

食文化

 では、三重県は食文化も完全に関西地方だと言えるのでしょうか。しかし、どうやら『うどん』について見てみると必ずしもそうだとは言い切れないようです。
 うどんも一般的には東日本と西日本に分かれます。東日本が『鰹だし』に『濃口醤油』、関西地方(大阪・京都)を含む西日本が『昆布だし』に『薄口醤油』というのは有名な話かと思います。しかし、厳密に言えば東海地方は東日本寄りながらも独自の文化があるようです。東海地方(名古屋)では『たまり醤油』と呼ばれる濃口醤油よりも色の濃い独特な醤油が好んで用いられており、だしも魚の節ではあるものの鰹節よりムロアジなどの『雑節』(鰹節以外の魚の節のこと)が用いられている場合が多いようです。
 さて三重県はどうなのかと言うと、伊勢平野に位置する北勢地域(県北東部)・中勢地域(県中部)・伊勢志摩地域(県南東部)は名古屋と同じ『たまり醤油』に『雑節』、つまり東海地方のうどん文化圏であると言えるようです。その分かりやすい例が伊勢市で主に伊勢神宮の参拝客に向けて提供されている『伊勢うどん』で、ほとんどたまり醤油そのものとも言える濃いだしが特徴的なものとなっています。食は舟運によって突発的に持ち込まれることも度々あったようであり、愛知県の濃尾平野と伊勢湾を挟んで対面している伊勢平野が東海地方寄りになるのも納得です。
 一方でそこから布引山地を挟んで西側にある伊賀地域では大阪や京都の影響を受けて関西地方と同じ『昆布だし』と『薄口醤油』の組み合わせが多く見られ、カップ麺の東日本版と西日本版もこの境界に準拠して売られています。

地理交流広場について

 ご無沙汰しております。「伊賀夕凪」ことみえうなぎです。
 さて本題ですが、過日、地理屋交流会さんとみんなで地理プラーザさんが共同で発行されている『地理交流広場』の第5号に寄稿させていただきました。
 上の文章はその寄稿したコラムからの一部抜粋となります。コラムの中では方言やうどんに東西の文化の差がある背景や、現代の三重県と過去の三重県の比較、そこから導き出される三重県の立ち位置などについて詳しく述べております。
 また、『地理交流広場』では多くの地理が好きな同好の士が集まり、多種多様でユニークな記事が書かれています。読み進めるのが楽しくなるような面白いものなのにとても勉強になる__。そんな記事であふれていますので、興味のある方はぜひ地理屋交流会&地理プラーザさんのBOOTHよりチェックしてみてください!


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