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出産の時、う◯こは我慢できるのか問題

私が出産するうえで、どうしても受け入れられなかったことがある。
それはいきみすぎた拍子にう◯こを漏らすこと。ベビーカレンダーさんのアンケート調査では31%の人が分娩中に脱糞したという。
多いのか少ないのかは分からないけど、自分は漏らす気がした。
なぜなら私は小さい頃からお腹が弱かった。どれくらい弱かったかというと思春期の時は頻繁に腹痛に悩まされ「授業中に脱糞したらどうしよう・・・」という不安からどんどん症状は悪化し、中3の時はほとんど登校できないレベル。ストレスに弱い人にありがちだが過敏性腸症候群の下痢型とガス型と診断された。
高校、大学と進むにつれ、まぁ大事な場面にせよトイレ行ってきますと言えば済む問題かなぁーと気楽に構えるようになり、時たま電車の中やミーティングで危ない場面はありながらも無事に便器の中に納めることができてきた。
オムツが取れたであろう3歳くらいから約25年間、数々の試練がありながらも難を逃れてきた!!!
それなのにここに来て愛する夫の前で漏らさなければいけないなんて悲しすぎる。。。
出産の痛みも毎晩涙するくらい怖かったけど、う◯こ問題もまた深刻なトピックであった。
もう心配すぎて産科の担当医に相談した。
「あの、、事前に浣腸をして全部出し切れば分娩中に便を出さずにすみますか?可能な限り漏らしたくないんです」
「ひと昔前までは赤ちゃんが生まれて来る際に便と接触すると衛生面でよくないとされ、事前に浣腸をしていました。ただ最近は浣腸をしたからといって脱糞は防げないということが分かったため、浣腸はしません。出たら出たですぐに拭き取ります。また、出産というのは赤ちゃんが安全に生まれてくることが第一です。便が出るのははよくあることで、なんてこと無いですよ。というかそれどころじゃないと思いますよ(真顔)」
・・・もう正論すぎて何も言えなかった。

そもそもなぜお産の時に時にう◯こが出てきてしまうのか。
赤ちゃんの入っている子宮と腸は隣同士にあり、お産が進んで赤ちゃんが下に降りてくると直腸を圧迫せざる得ない。
助産師さんからするとう◯こが出てくる=いよいよ赤ちゃんが産まれる合図らしく「あぁ良かった良かった」という感じらしい。なんという包容力だろう。
簡単に受け入れられはしなかったけど、せめてもの償いとして夫に「私、出産の時立ち会ってもらうけど、う◯ち漏らしてしまうと思う。先に謝っておく。ごめんなさい」と事前のお伺いを立てておいた。いきなり脱糞するより驚かれるまい。
ちなみに名詞の最後を「こ」ではなく「ち」にしたのは私のなけなしの女子力をかき集めた結果だ。

予定日まではどんどん大きくなるお腹を抱えながら、歩く・水分をとる・ヨーグルトなどを食べるなどの一般的な便秘対策をしながら最後の追い込みをかけた。が、妊婦というのはホルモンバランスで便秘・下痢・痔を繰り返す。これといって便通をコントロールできないまま予定日を迎えた。
無痛分娩の私は計画通り7月7日に入院しずいぶん感傷に浸りノートを書きながら、来たる決戦の朝に備えた。

1日目の午前 う◯こへの懸念と痛みの始まり

緊張と痛み(と、う◯こを漏らすかもしれない)恐怖で眠れないまま窓の外は少しづつ明るくなった。
ついにこの日が来てしまった・・・無痛分娩といえど、完全に無痛ではないというし。
でも夜くらいにはきっと我が子を写真におさめているに違いないと鼓舞しながら、恐怖99.9%ワクワク0.1%で分娩が行われる個室へと移動した。
ニコニコした助産師さんが「調子はどうですか、ちょっと見させてくださいね」と言いながらサッとゴム手袋をしてズボッと私の子宮の中に手を入れる。内診だ。
「フォ!ィィイタタタタタタタ」
「ちょっと気持ち悪かったかな〜、うーん。指一本分くらいしか開いてないねぇ」
天気の話をするかのように内臓の具合の話をする。産科に属する人々は肝の座り方の次元が違うように思う。この内診は1時間に1回くらいのスパンで行われていくのだが、子宮に手を入れるたびに貞操観念が崩壊しスーパーアニマルヒューマンワールドにいざなわれていくような感じがした。

点滴を刺し陣痛促進剤を投与すると、2時間後にはお腹がきしむような軽い痛みと、少量の出血があった。赤ちゃんがそろそろ動き出そうかなぁという合図の『おしるし』というものらしい。
ちなみにこのタイミングではまだ無痛分娩の麻酔を打っていないので、点滴をガラガラ運びトイレにも行くことができる。腹痛の合間を見計らって出すものを全部出したいが、思うように出ない。
11時になり夫が到着。手に汗を握り何故かめちゃくちゃ緊張している。う◯こを私が漏らしたとしても処理してくれる覚悟で来てくれたらしい。ありがたいがそこまでは望んでいない。

お昼頃に産科の先生が登場。一切迷いのない話しだしと強い語尾は、彼女もまた肝の座り方がどうかしている頼もしさが垣間みれる。
内診をするため夫を一時退出するよう促し「じゃ!中見せてもらいますね!」と子宮口に鋭く2本指を入れた。
「今だけ我慢してね。この後は麻酔するから。今だけ・・よし。」
いきなり先生の指がこれでもかというくらい内臓をえぐると、ドロッと熱い羊水と血が出た。この時の内診はイタタタでは済まず、廊下まで聞こえる叫び声をあげてしまった。

子宮に指を入れ、赤ちゃんが覆われている薄い膜(卵膜)を強制的に剥がし破水させたらしい。
妊婦たちの間で恐れられている通称“内診グリグリ”正式名称・卵膜剥離。これをやることでお産が進みやすくなるという。
もうこの時点でワイルドすぎて怯えまくりだったが、先生の判断で早めに無痛分娩の麻酔を入れてもらえた。
背中に硬膜外カテーテルを刺すのも地味に痛かったが、投与から10分ほどで腹痛や子宮の痛みが引いていった。麻酔すごい。

1日目の午後 一旦う◯このことを忘れる

幸い麻酔が効いて、軽い生理痛程度の痛みが周期的に来る程度だった。
上の分娩監視装置の写真が自分で撮影できるくらいだから、結構な余裕だ。
モニターは常に赤ちゃんの心拍数・お腹の張り・母の心拍数が数値で見れるのだけど、だんだんお腹の張りの数値が高くなっていくから進んでいるのかぁ〜という感じはした。
下半身麻酔をしているため便意と尿意はよく分からなかった。

無痛分娩の副作用で39度の高熱が出てぼーっとはしたが、夫とおしゃべりをしたり少し寝たりしながら、まったりお産が進むのを待った。

がしかし、10時間経過しても子宮口は朝から1cmも広がらない。
生まれてくる10cmまで道のり遠すぎでは・・・?
この病院では無痛分娩ができるのは麻酔医がいる9~18時の間のみのため、泣く泣く18時で陣痛促進剤と麻酔の投与を打ち切り、明日の朝から再開することに。

案の定、麻酔を止めてから5分ごとに猛烈なキリキリする腹痛が来て、和やかなお部屋は拷問部屋のような空気に変わり、う◯このことも頭から飛んだ。
明日も長くなる可能性があるため、日付が変わる前に夫には一時帰宅してもらった。

2日目の午前 本当にそれどころではなくなる

一人の夜は本当に長くて、何度も時計を見ては「今何時?さっきからまだ5分しかたってない・・・麻酔医の先生の出勤まであと◯時間!?!?」という絶望的自問自答を何十回もした。
心拍数を測るチューブを引き剥がしたり、ベッドの柵に顔を何度もぶつけてメガネが破損したり、ひたすら唸ったりとナイトサファリ状態だったので、逆に一人でよかったのかもしれない。
看護師さんにしぶられつつ深夜に点滴で軽い鎮痛剤を処方してもらい2時間ほど睡眠をとることができたが、早朝4時 内側から刺されるようなお腹の痛みと砕けそうな腰の痛みで目が醒めた。
もう無理、これ以上の痛みなんて無い。そう思っても次の陣痛の波で軽くそれを超えてどんどん大きな痛みになる。しかもそこで力を入れてはいけない。赤ちゃんがおりてきてないのにいきむと母親の体力も消耗するうえ、赤ちゃんも苦しくなって心拍数が下がってしまう。
よくドラマで見る「ヒッヒッフゥー」というイキんでいい状態になるまで、こんなに長い先の見えない腹痛を何度もやり過ごさなくてはいけないなんて知らなかった。この痛みを逃す行為が、刺さったナイフを受け入れるような苦痛でとてもしんどい。
助産師さんからこのままだと、帝王切開になるかもしれないと言われたけど、もう何かを考えられる頭じゃなかった。

夫が再び登場した6時。
体を揺すりながら「フゥーフゥー、薬・・・薬・・・」とヤク中のようになった私に彼は若干引いていたけれど、痛みの甲斐があり子宮口は4cmに広がった。どうやら下から自然に埋めそうだ。
いっそ殺してくれ状態になった頃、麻酔医の先生が出勤し念願の硬膜外麻酔を入れてもらう。
10分ほどして痛みが落ち着き、なんとサンドイッチを食べ、いびきをかいて眠れるくらいスーっと痛みが引いた。最高最高!無痛万歳!100年前の与謝野晶子氏、無痛分娩を日本に呼んでくれてありがとう!!!!と思っているのもつかの間、腰から全身に、また別格のステージの違う痛みがやってきてたまらず嘔吐。
それ以降全く無痛の恩恵を感じることはなく、ただただ痛かった。

2日目午後 そしてう◯こを思い出す

割れるような腰の痛みに加え、今度は内臓が全部お尻から出てきそうなとんでもない痛みになった。
「肛門を押して!肛門!!!!」と言うと、夫は真剣な顔でテニスボールで肛門を押してくれた。不思議とほんの少しだけ楽になる。
でもまた3分後には内臓が出そうになる。というか猛烈な便意も出てきた。どうにかこの痛みから少しでも助かりたい。もう気休めでもいい・・・
そういえば赤ちゃんは出るときに直腸を押しながら生まれてくると先生が言っていた。と言うことは、う◯こを出せば通りやすくなって産道が広くなって楽になるのでは?!きっとそうだ。いや、そうに違いない。
むしろ、う◯こを積極的に出そう・・・!
しかし排便といきむのは似ているとスイスイさんの記事で読んだ。う◯こを出すことを公言したらフライングでいきんでいると思われ助産師さんに怒られてしまうかもしれない。それは避けたい。なぜなら何としてもう◯こをしたいからな。
肛門を一生懸命押してくれている夫には申し訳ないが、私も死にそうに痛いのでそのままブツを絞り出すことに集中した。分厚いオムツをしているからきっと大丈夫だ。
痛すぎて出ているのか出ないのか分からなかったが、全力で踏ん張っていると「あれ?もしかして、いきんでる?」と助産師さん。さすがプロだ。何でもお見通しである。
「もう我慢できません・・・」と白状すると「もう足開こうか」といきむ姿勢に入ることを許してくれた。
ベッドを分娩仕様にガチャガチャ組み立てながら、それとなくオムツを新しいものに交換しスマートに清掃してくれた様子を見ると、どうやら晴れて私は漏らしたらしい。
この瞬間を迎えることが耐え難く屈辱であったはずだけど、びっくりするほど何も感じない。
人間ってすごい。乙女ってそんなもんだ。

開脚すると、すでに頭がそこまで出てきているという!
う◯こでコツを掴んだ私は、スイスイさんの教えどおり思う存分ふんばった。
28時間のだらだらとした陣痛だったので、ここからも長いかと思いきや、いきみはじめてから2時間で我が子は私の体から無事に脱出した。

脱糞経産婦である先輩から漏らしてしまったことよりも感動の方が勝るよと聞きき、絶対に嘘だ。一生凹むと産む前は思っていた。
でも実際に強く覚えているのは、漏らしてしまったことではなく、とんでもない痛みの後に聞いたびっくりするくらい綺麗なホワギャホワギャという産声だ。3キロほどの体からどうやってあの声だ出せたんだろう。耳に刺さらない深い響きがあって、まだこの世のどこにも繋がっていない肺を持ってるんじゃないかと思う不思議な音だった。


結論として、う◯こは不可避という話だったんだけど、その安心感をくれたのは助産師さんや先生の包容力があり、夫の「イガが漏らしても掃除するよ」の一言があり、圧倒的な痛みからの脱皮だったような気もする。
どちらにせよ、健康に生まれてきてよかったです。
そしてう◯こが心配な妊婦さんたちに幸あれ!!

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