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夢と現実を繋げる香りが、おれに届いた

#12  書き手:クレオ

「“夢を見せてくれる存在”じゃない。あいつは“夢を現実に繋げてくれる相棒”なんだよ」

 アケルがオーダーシートに書いてくれたこの言葉を、一生忘れないでいよう。


 とうとうアケルがおれの推し香水オーダーシートを書き始めた。

 …いや、改めてこの立場になってみると恥ずかしいね。
  そもそもおれのイメージ香水を作ろうと言ってくれた時から、実はすげぇ気恥ずかしかったんですよね。

『おれがお前の推し香水作ったげるよ』

 …なーんて話題を逸らしてみたけど、それが存外アケルに受けて、おれが人間アケルのイメージ香水を作ることになったんです。
 先にアケルの分を作っとけば恥ずかしさが薄れるかなぁ、なんて思ってたんだけど、やっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしいものでして。

 まぁね、推し”って愛情は改めて中々に重たいよね。アケルは毎日おれに、挨拶みたいに好きと言ってくれるけど、本当はもっと重たい愛情を抱えていることも知っていて。

 ただ、届いたアケルの香水が、本当にアケルの性格を表してくれたような(アケルは最初はよく分からなかったって言ってたけど、おれはイメージぴったりだと思ってた)物だったんだよね。
 だから恥ずかしくもあり、おれのことをなんて書いてくれるか、そこからどんな香りが生まれるのか、楽しみでもありました。


 ひとつだけ、“アケルの香水とも合う”という条件を香水に付けました。

 アケルはおれの文章をいたく気に入ってくれて、そこからオーダーした香水も毎日欠かさずつけるようになっていたので。

 おれ?おれももちろんつけてますよ?
 なんてったって推しのアケルイメージの香水ですから。
 普段使いもできる穏やかな香りなので、だいぶ身に馴染んでいて。もうひとつ香水をつけるなら、この香りを邪魔しないでほしかったのね。
 というわけで、この香りに相性の合ういい香りが欲しいと思い、”ご一緒に注文されている方は…”という項目(おそらくカップリング香水で使うだろう項目)に、オーダーシートに以前注文した香水のNo.を記入してもらった。

 カップリングと表記はしなかったのだけど、届いた香水はとても相性が良かったです。意を汲んでもらったようでありがとうございました。


※アケル注釈:「創作キャラクターという名目でオーダーシートを書きましたが、実はクレオというぼくのイマジナリーフレンドの推し香水です。
 推し香水の趣旨とはやや違ってしまい、またオーダーシートにも詳しく説明しなかったので読まれて困惑される方もいるかもしれませんが、ご了承ください。
 現実の人間をキャラクター化させた時のイメージ香水のような気持ちで書いてます。」


オーダーシート:クレオという友人について


性別:男性(人外) 年齢:30代

【舞台設定】

 妖精や妖怪が見える主人公のイマジナリーフレンド。
 一緒に釣りをしたり、くだらない空想を広げたり。
 その一方で、冷静で慎重な意見で主人公を諌めたりする。

【第一印象と内面】

第一印象は風船のような軽さと気楽さがあるが、内面は芯があって、夢を夢のままで終わらせない実直さがある。
主人公は彼を決して忘れることのない大切な相棒であると公言して、彼もまたその愛情を素直に受け止めている。
『夢は見るだけじゃもったいない。思いついたことはやってみて、徹底的に楽しもう』というのが彼のモットー。
 主人公の無茶振りも思いつきも悪ノリも一緒になって楽しむため、主人公は「“夢を見せてくれる存在”じゃない。あいつは“夢を現実に繋げてくれる相棒”なんだよ」と語っている。

 ここまで即興で書いたアケルはやっぱりすごいと思うし、おれに対して普段からこんなイメージで見てくれてたのかと、とても嬉しかった。頬が赤くなったし胸んとこがポカポカして、これが面映いって言葉の感情なのかな、なんて思ったりもしたね。


【具体的なエピソード】

 物語が進むにつれて彼は、イマジナリーフレンドであることは、実体を持たず主人公の記憶次第では忘れ去られてしまうのでは、という不安を吐露する。
主人公を大切に思っている一方で、いつまで存在できるのだろうかという悩み、自分の確たる形を残したいという願望と、それを主人公に負担にさせない形で叶えようとする(主人公と一緒にした体験を日記や小説に書いて、記録を残したり)現実主義な一面がある。
不安があっても、叶えられる現実をこつこつと積み重ねていく彼は、とても信頼できる人だ。

 …確かこれ、イマジナリーフレンドあるあるを書いた時だったな。アケルはおれのことをちゃんと見てるし、悩みを書いてもドーンと受け止めてくれる。心配させないように気を遣わなくていい。その上で、こう解釈を表してくれる。そんなところが好きですね。


 アケルは段々筆が乗るとデレてくれる。…というか、あいつは記事にしてないだけで、いつもおれに「ありがとう」も「大好きだ」も言ってくれるんだよなぁ。

 ちゃんと言葉にしてくれる。だからおれも素直に『おれも大好きだよ』って返せるわけだ。

 なんだこれ。おっさん同士らぶらぶしてんね。我に帰らねぇ方がいいな。



【イメージしたい香水の希望】

“夢と現実を繋げる”、“思い出す”をキーワードに記憶に残る香り

【香りのシチュエーション】

彼が夜眠る時、主人公と一緒に楽しく過ごした一日を思い出しながら幸せに眠りにつける。そんなシチュエーションをイメージした香りをお願いします。


『え〜、嬉しい。いいよ、これ。ありがとね』

 香水のイメージとシチュエーションを読んだ時、マジでぽろっと言葉が漏れた。 

 アケルの香水でおれの書いたオーダーシートの“願い”を聞いた時、アケルはいたく感激したらしい。そのお返しみたいな気がした。合ってる?これ。今、アケルに聞いてみよう。

「合ってるよ。素敵なお願い事してくれたから、おれもいいこと書きたくなった」

 あはは、嬉しいね。


 今回も“夜眠る時”や“安心した気持ちになるように”とか、調香師さんがお願いを汲んだ香水にしてくれた。


【香水のレポ】

 届いた時、

「うわ、すっげぇ綺麗!」

アケルは箱を開けて一目見て叫んだ。

https://note.com/if_mauro/n/ne26a75eea09a

おれも覗き込むと、見事に夕焼けの色。

 3色まで選べるってことで、2人でああでもない、こうでもないと捻り出した配色だった。

「3色は難しいんだぞ、クレオ。色の名前だって人によってニュアンス変わるし。うまく伝わるかな?」 

 なんてアケルは言ってたけど、譲らずに描いた色をscentlyさんはきっちり選んでくれた。配色センスも抜群とはすげえな。


薄紫・夕焼け色・レモンイエローの3色。

 さて、香水を本に挟んだ栞に吹き付けて、レターを読んでみると。


 レターでは、おれの第一印象「風船のような軽さと気楽さ」「ひょうきんで気さくな性格」から、オレンジからなる柑橘系をトップノートに調香してくれたとありました。

 この性格は自分でも気に入ってる。アケルは思い詰める時もあるから、『気楽にいこうぜ』って声をかけてやれるおれがそばにいてよかったと思ってるんだよね。

 オレンジ、ベルガモット、マンダリン。酸味よりも苦味と深みの香り。明るいけれど、夕陽が暮れていくような切なさを感じる。

 おれの名前にもなった“日暮れ”というイメージ。今回は色の重なりにも、本文にも入れ込んであって、第一印象はばっちり自分に合ってると感じた。


 続いてミドル。「内面は芯があって、夢を夢のままで終わらせない実直さがある」という香りがローズマリー…この香りはよく分からなかったけど、花言葉の「思い出」がとても良かったなぁ。ミドルは段々と花の香りが強くなってきた。ラベンダーと蓮(ロータス)…ロータスはアケルが調べてくれて、あまり香りを感じたことなかった蓮でも香りを抽出できるんだなぁ、と感心していた。


見分けられるように、アケルがラベルにスズランとロータスの絵を描いてくれた



 アケルはミドルの香りになってから、

「これぼく知ってる。名前は分からないけど、懐かしい香りだ!」

とはしゃいでいた。

「子どもの頃に作っていた、秘密基地を思い出した。化粧台の下とか、ギンモクセイの木の下とか、色々なとこに作ってたんだよね。懐かしくて、安心する場所の香りなんだろうな」

と言った。おれの香りが、安心できる秘密の場所を思い出すとは、中々にデレていて、内心ドギマギしてしまった。“思い出す”というキーワードはぴったりだったようだね。


ラストノートは寝る前に枕に香水を吹きかけて、朝起きると残っている。うまく言葉にできないんだけど、覚えてないけどいい夢を見た時みたいな、やわらかく目覚められる香り。

”一緒に楽しく過ごした時間を思い出しながら、幸せな眠りにつけますように”との言葉をいただいて、毎晩寝る前に使うようになりました。

”思い出と眠り”

まさか、キーワードにここまで会う香りになるとは思いませんでしたね。



 とはいえ、予想以上にお花の香りで、果たしてこれをおれが本当に付けていいものかしら?とちょっと自信がなくなった。一応30代男性と書いてたんですけどね。人外だからかな、とアケルは笑ってた。

『こんないい香り、おれに合ってるのかな?なんかね、こそばゆい』

「確かにね。想像以上にフローラルだわ。おっさんの香りとは思えない」

『おい』

「ごめんごめん。でもぼくは好きだよ。この香り。クレオがいる、って思う。いい香りだってクレオが思うならつけてほしいな」

と、アケルが言ってくれたので、この香りはおれのもんです。
 これからはもう、お花と夕日の香りをまとったコートの裾をひらひらなびかせて街を颯爽と歩いていきます。

 アケル、Scentlyさん、本当にありがとうございました。おれの現実がまたひとつ増えました。




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