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右手の空想の指輪と、胸元のネクタイリング

#19 書き手:アケル

「これ買ったら、君にあげてもいい?」

『んん?』 

 クレオは一瞬、言われた意味が分からなかったようだった。

 空想のパートナーと暮らしている。結婚証明やフォトウェディングはまだ当分先だけど、実は去年、彼に指輪を1つあげていた。

 トロールビーズというアクセサリーがぼくは昔から好きだ。

 日本では馴染みが薄いけど、北欧デンマークの職人が手がけるとんぼ玉と銀細工だと思ってもらえればいい。(一陽日記のヘッダー画像の亀も、このブランドだ。)


 かなり高価ではあるものの、一粒ひとつぶの中にこことは違う世界が広がっているような美しいビーズ。

 社会人になってから、ようやくこつこつ集められるようになった。

 ある日、新しいビーズの入荷を見ていると、シルバーの薔薇のリングが目に入った。

 たっぷりと満開に咲いた薔薇に3枚の葉が密やかについている。薔薇のシルバーアクセサリーなんてゴツゴツ棘が生えてたり近寄りがたいような印象が強かったけど、これは全体的に柔らかい印象だ。

 だからかな、目に入って一番に「これ、クレオに似合いそうだ」なんて思った。


「クレオ、これ見て」

『なになに?指輪だ、綺麗だね』

「これ、買ったら、君にあげてもいい?」
『んん?』

 クレオは一瞬、言われた意味が分からなかったようだった。ぼくは気が急いたな、と頭をかいた。

 食べ物やイベントは別としてあんまりプレゼントを送る間柄でなかったし、同姓に指輪を送るというのも、ジェンダーにあまりこだわらない彼とはいえ、色々考えてしまうだろうか?


 クレオは視線を上に向けて、言葉の意味を捉えたようだった。

 視線をぼくのスマホに戻して

『これ、くれるの?おれに?嬉しいなぁ』

 クレオはにこにこと笑う。

 彼はやっぱり心の自由な奴だった。

 ベージュ色の手袋に銀の花が咲いている。
 海外のブランドだったからか、サイズを合わせたつもりが、届いた指輪はかなり大きく作られていた。手袋の上からでも、少し緩いようだ。
 

『ふへへ、綺麗ですね』

 照れくさそうな笑い声で、それでもクレオは、大事そうに指輪を着けた指を光にかざした。目を細めて笑う。

 人にアクセサリーをあげた時の笑顔が、こんなにも綺麗なのだと、それは異性でも同性でも関係ないのだと、初めて知った。 

『せっかくだから、アケルも使いなよ』

 クレオに“あげた”後は、箪笥にでもしまっておこうと思っていたが、ぼくの身にもつけているのを見たいという。

 デザインはぼくも好ましいと思うものの、親指でさえ落ちてしまう。困ったものだ。


 考えた末、ネクタイの結び目近くにタイリングとして付けた。

 銀細工が大きめなので、シンプルなネクタイでも見栄えがする。大きめサイズがかえって功を奏した。


 クレオの右の指には、想像の指輪が咲いている。
 ぼくの胸元には、現実の指輪が飾られている。
 ペアリングではない。でも、同じものを身に付けている。

 ※新年書き初めなので、明るい惚気の記事にしました。本年度もアケルとクレオをよろしくお願いします。

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