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Family.24「家道」になろうよ

あらすじ

「100年経っても好きでいるよ」
醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもない。
横浜豚骨醤油に心奪われた男、家長道助。

“家系を食べる=家族を増やす”
ことだと思っている孤独な男の豚物語。

まずはこちらから↓

家系ラーメンとは?

総本山【吉村家】から暖簾分けを経て“家”の系譜を受け継ぐ、伝統文化的ラーメンであり横浜が誇る最強のカルチャー。大きく分け【直系】【クラシック系】【壱系】【新中野系武蔵家】4系譜。鶏油が浮かぶ豚骨醤油スープに中太中華麺「ほうれん草・チャーシュー・海苔」の三大神器トッピングを乗せた美しいビジュアルが特徴。また「麺の硬さ・味の濃さ・油の量」を選択する事が出来、好みにもよるが上級者は「カタメコイメオオメ」の呪文を唱えがち。



 東京にやって来て10度目の冬がやって来た。毎年彼が「始まるよ」と言う前にはもう部屋も身体も冷え込み、心がしばれて痛い。

 上京してからの十年はあっと言う間だった。かと思えばとてつもなく遠い過去の事にも思える。長い1日もあれば短い1週間もある。年輪の溝が深過ぎてここからじゃ数えられない。

 窓の外の空っ風の音を聞きながらひび割れた手で温度の下がったホットコーヒーに手を伸ばす。トウキョウでのストーリーが脳内に影を落としたーーー。



 昨年、横浜を代表するラッパーのワンマンライブを観に新横浜へと行った。揺れる横アリ。最高潮の盛り上がりだった。

 この感動を誰かと分かち合いたいと思いLINEを開くも、気軽に呼べる地元の友達は一人も居なかった。


そしてこう思った「東京に帰ろうと」

おかしいな、帰るべき場所は、横浜なのに。


 3年前、仲の良かった友達と連絡が途絶えた。5年前、親友と思ってた人の結婚式に呼ばれなかった。8年前、地元で大流行していたネットワークビジネスの誘いは誰からもなかった。騙す価値もないのかも知れないなと思った。

 東京と横浜。東急東横線で繋ぐ30分の道のり。物理的な距離が心の距離を生むのか。あの赤いラインは人を運ぶだけで、運命の赤い糸のように結びつけてはくれない。

 東京に馴染んだのか、東京に染まったのか。あたしが変わったのか。みんなが変わったのか。希望・人望を望んだ結果、疲労・心労が溜まり切り自暴自棄に。

 10年歩んだ道は、雪の轍のように黒とも白とも取れない薄グレーに汚れていた。

 夕日が傾き始めた部屋で窓から一筋の光がテーブルに伸びる。真っ暗になる前に東京で買ったコートを羽織り、家を出た。

アットホームな職人道「家道」


 東京都品川区「戸越銀座駅」から歩いて1分。食べ歩きするカップルや買い物帰りの主婦をかき分け辿り着いたのは、新中野武蔵家系譜『家道』

 高々と掲げる「家系中華蕎麦」と言う魅力的な文字にワクワク。空腹を満たす幸福の食券を買おうと暖簾をくぐろうとすると、八百屋みたいな魚屋みたいな活気のある声が店内から響いて来た。

 「カタメコイメオオメTシャツ」を着たお髭の大将が麺上げをしながら買うべきメニューをオススメしてくれる。

 すでに元気をもらったあたしは、お髭さんに食券を渡す。


「バリカタって出来ますか?」

「生でもいけるよ〜」

 微笑むお髭。素敵な笑顔だった。

 ちなみに以前、四大系譜のイメージはこんな感じだと書いたが

ちなみにココからは完全にあたしのイメージ
(ほぼ偏見)だが

【直系】はピュアでありながらも、どこかしらに極道臭を感じる。良い意味でヤクザ職人。

【クラシック系】は伝統工芸の作り手感がある。まさにTHE職人。

【壱系】は商売上手な印象を受ける。ビジネス型の商人職人。

【武蔵家系】は直系とはまた違う縦社会。ヤンキー職人。

この違いがなんとなく分かる人は相当「家系IQ」が高いと思う。

【家系ハンター”裏”試験①】直系編 より


 しかしここのお髭様は違った。ヤンキー気質な武蔵家系譜でありながら「バイヤー」だった。

 優しく危険な拳銃を笑顔で売りつけるタイプの「ヤバいバイヤー」なのだ(偏見)(褒めてる)

 早くお髭様の「家系中華蕎麦」を売りつけられたい。気持ちを抑えられなくてカウンターで一人ニヤニヤする。


 そして、待望のご対面。青磁の器が光り輝く。

 ささくれだった心に濃厚な豚骨醤油スープが広がり、乾き切った身体を温める。豚骨が強い武蔵家系譜の中でもクラシック寄りの味だった

もちろんライスは食べ放題だぞバカヤロー!!(最高)


 続いて「酒井製麺×家道」特製のバリカタ麺を啜り上げる。中華蕎麦のごとく、スルスルと体内に入っていく。これなら無限に食べられそうだ。

 もう『家道』は、事典に載る旨さだわ。

 スープ、麺を味わった後はもちろん「味玉」の出番。彼と同じようにドロっと心を曝け出したい。

 もう全てがぐっちゃぐちゃだった。ヤバイバイヤーの禁断の玉子でオーバードーズ寸前。

 空腹から幸福への誘いを経てあたしはこう思った。後ろに「未来」はないし、目の前には珠玉の「一杯」しかない。そう、我々人間は進むしかないのだ。



「横浜が良いな。でも東京も良いよな。」



 東京に染まるのではなく、東京が染み渡る。相いも変わらず魂には「家系」が刻み込まれている。

 これまで来た道とこれから行く道を確認しながら家までの道をゆっくりと歩く。地面には少し嬉しそうな道助の影が伸びていた。


――――――家道でする、東京でのリベンジ。


 こうして【家道】が道助の家族になった。幸せになろうよ。


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