Family.33「町田家」になろうよ
あらすじ
「100年経っても好きでいるよ」
醤油でも味噌でも塩でも豚骨でもない。
横浜豚骨醤油に心奪われた男、家長道助。
“家系を食べる=家族を増やす”
ことだと思っている孤独な男の豚物語。
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家系ラーメンとは?
総本山【吉村家】から暖簾分けを経て“家”の系譜を受け継ぐ、伝統文化的ラーメンであり横浜が誇る最強のカルチャー。大きく分け【直系】【クラシック系】【壱系】【新中野系武蔵家】4系譜。鶏油が浮かぶ豚骨醤油スープに中太中華麺「ほうれん草・チャーシュー・海苔」の三大神器トッピングを乗せた美しいビジュアルが特徴。また「麺の硬さ・味の濃さ・油の量」を選択する事が出来、好みにもよるが上級者は「カタメコイメオオメ」の呪文を唱えがち。
「私、恋人が途切れた事ないんです」天使のような微笑を浮かべ、悪魔みたいな事をある女性が言う。
「明日、地元で結婚パーティーがあって」金メッキのような薄っぺらい自尊心を見せつけ、虚像の中である男が華やかに踊る。
「マスクつけろ!店を開けるな!」あんなに活発だった活動も今や自粛し、何でもない顔で自粛警察が生活を送る。
とある国の具体性も頼り甲斐もないトップが口にする「もっとも強い言葉で非難する」それと同じ気持ちになる。もっとも強い言葉ってなんだろうか。
あたしたちは、学生時代『前略プロフィール』や『mixi』など、SNSの走りど真ん中だった平成世代。であるからに、虚勢に敏感なのである。あの頃、知り合いのプロフを読んで嫌な気持ちになった事なぞ星の数ほどあった。
昭和にもきっとあったろう。上京した男が帰省で東京自慢したり、地元に残った女が子供の多さを誇ったり。令和も同じか。いいねや再生回数を競ったり、加工した自撮りで偽りのモテを求めたり。
マウンティングに優越感。戦う気も無ければ戦う場所も違うのに、無理やりフィールドに上げられ決闘を挑まれる。あなたの物差しとあたしの物差しじゃ長さが違うでしょう。それで叩き、斬り合ってどうするの。
他人を「奈落の穴」に蹴落としてほくそ笑む人間は相手にしないのが1番。心の「ビッグシールドガードナー」を守備表示に。勝手にやってろ。ずっとお前のターンで良いよ。
Like a アナ雪。肩肘張らず、ありのまま生きていたいもんだよなぁ。
汚ねぇ街の唯一の光だ「町田家」
社会の縮図、欲望が首までどっぷり浸かったカオスな街に道助は来ていた。
至る所でネズミが駆け巡る。大久保公園には立ちんぼと言う闇のシンデレラが並び、TOHOシネマズの横にはポップコーンも買えない若者が溜まる。そして歌舞伎町にはピンク色の姫とお金に汚い王子が蔓延る。
朝には吐瀉物のエレクトリカルパレード、まるで新宿は「地獄のディズニーランド」みたいな場所だった。
そんな汚く大嫌いな街に唯一輝く光がある。それは緑色の光だった。
クラシック系最高到達地点。
たかさご家系譜『町田家 新宿南口店』
師匠『たかさご家』と同じく「緑看板」が、腐敗する新宿に癒しを与えていた。
家系マイナスイオンを感じながら店内入りいつものように食券を購入しようとすると、ある変化に気付く。
家系アイテム「プラスチック食券」は残しつつ、食券機がLevel.4に進化している事に。
ちなみに昔は黒Tを着ていたが最近は赤Tに変わっていた。あたしはそれにも気付いていた。
安心感抜群の黄色い看板で味の好みを確認。よし、油多めに出来るぞ。
そして食券機Level.4から吐き出された「プラスチック食券」をセット。
デュエルスタンバイ!
先攻は「町田家」。
1ターン目から極上に煌めくウルトラレアな一杯をフィールド「カウンター」に召喚してくる。
なんたる美しさ。なんたるクラシックさだ。三浦よりマイルドなこのクラシック。
予告いらずの確定演出。
家長道助、死す。
後攻はあたし。山札から割り箸をドロー!!にんにくを召喚し、スープを一口。
滅びの爆裂疾風弾!!!!
それくらいの破壊力。旨みのバーストストリームを喰らい…
1ターンキル。
たった1撃でやられてしまった。
「死者蘇生」を使い、我らが家系界の誇り「酒井製麺」を啜る。
もうやめて!道助のライフはゼロよ!!!
なんたるコンボだろうか。最高過ぎる。
並で800円。「ヂェミナイ・エルフ」や「ブラッド・ヴォルス」顔負けのコスパの良さ。完全な敗北を味わった。
そして後日、再び決闘を挑みに行った。
この日の『町田家』はなんと「明太子デッキ」を用意してきていた。
家系なのに明太子?
この明太子の赤はアメリカの赤。バンデット・キースの「機械族デッキ」かよ。
だが相対してすぐに違うことに気がついた。
これは梶木漁太の「海デッキ」だった。そりゃ明太子はタラの子供だもん。
「伝説のフィッシャーマン」の如く、水中からの家系お茶漬け攻撃。
こんなにも明太子がマッチするなんて。
またしてもボロボロにやられてしまった。
さらにお昼に決闘を挑んだ際、またしても戦略を変え『町田家』は「ゴロチャーデッキ」で待ち構えていた。
「これ、サービスです」とカウンターフィールドに行かれた大量のゴロチャー。
勝ちとか負けとかではなかった。
まるで「無限の手札」
山札からコロチャーをドロー出来るだけドローした。
ドロー!!
ドロー!!!
ライフと山札が底を尽きる。だが満足指数は満タンだった。
本店にお邪魔させて頂いた時は「キャベチャーデッキ」で迎え撃ってくれた。
本店の「キャベチャー」はなんとゴマダレと言う名の装備魔法で強化してくる。
もう言葉はいらない。強い、強すぎるのだ。
「ULTRA PIG BONE NOODLE」の豚さんがあたしに問いかけてくる。
「美味しかった?」
当たり前じゃないか。美味すぎてサレンダーだよ。
家系ラーメンを食べた事がない人に優越感を感じてしまう。
この素晴らしさをmixiにでも書こうかな。
『町田家』を口に出来たきょうと言う日に感謝を込めて。
――――――町田家、明日は明日の風が吹く。
こうして【町田家】が道助の家族になった。幸せになろうよ。
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