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脚本におけるミッドポイントの研究(ゼミ課題)

2023/7/5 ゼミ課題 「ミッドポイントの研究」
※ヘッダーはAIに描かせた「Midpoint」です

①映画『透明人間』2020

SFが好きで、将来的にはSFを書きたいです。なので公開当時「透明人間」という古典的モチーフを2020年にどう料理するのかと気になっていました。なんと、モチーフはカップルのDV問題でした。脚本家は「ソウ」シリーズ監督脚本のリー・ワネル。単純な設定ながらさすがの脚本で、割と心に残っている作品です。
確かに考えてみれば「透明になったら何をしたい?」と言われれば、「身近な誰かにいたずら(嫌がらせ)したい」という欲求もあるだろうなと感じます。
主人公であるセシリアに対して、透明人間になりストーカーとDVを行う元恋人の天才科学者。前半はその見えない恐怖に翻弄されるセシリアの姿がホラーテイストで描かれ、何が起きているのか? というサスペンスで惹きつけます。
そして2時間のうちちょうど1時間で訪れるミッドポイントでは、『(セシリアにとって)透明人間がいることが分かる』のです。セシリアが透明化の秘密を発見します。
透明人間というモチーフで主人公が透明人間に脅かされる側で、「透明な人間の存在を認知する」瞬間がミッドポイントになるのはとても理に適っているし、上手い展開だと感じます。
そこで状況は反転し、見ている側の視点と興味も変化します。正体不明の何かが迫る恐怖から、今度はいかにしてセシリアが真相を暴き逆襲するのか。
後半は透明人間の秘密を知ったセシリアが行動し真相へと迫り、さらにラストにはセシリアが逆にそれを利用し、観客に対しても「見えない」ことを利用したトリックが描かれます。
ミッドポイントでガラッと観客が期待するものが変化することで興味が続くように作られており、改めて見直しミッドポイントの組み立て方の参考になりました。

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②   映画『スターシップ・トゥルーパーズ』1997年

言わずと知れたポール・バーホーベン監督の名作宇宙戦争映画です。
タランティーノ監督が本作が大好きということでも有名で、自分も大好きです。
巨大昆虫型宇宙生物と戦う人類側兵士たちの姿が描かれ、度々挟まれる国営放送調の仰々しいプロパガンダ映像とともに、戦闘シーンの残虐さと合わせ実際の戦争を戯画化するポール・バーホーベン監督ならではの映画です。
前半はその兵士たちの青春模様といってもいい群像劇が描かれます。スクールカーストや恋愛や嫉妬、訓練の失敗、切磋琢磨して成長する若き兵士たち。まるで学園恋愛モノのような爽やかな雰囲気です。
そしてちょうど1時間で訪れるミッドポイントでは、初の昆虫生物との本格的な戦闘シーンが訪れます。
ここで物語は一変します。今までの雰囲気が嘘のように、兵士たちが昆虫生物に食われグロテスクに死にまくります。脚を食いちぎられ、巣穴に引き込まれ、腹を貫通され、頭を食われ、呆気なく死にまくるのです。
後半のシリアスで残酷無慈悲でリアルな戦争映画としての展開を際立たせるために、前半あえて能天気で生ぬるい青春モノのように展開させ落差を作っています。
最初から最後まで見てもらえる映画であればこのように、見せたいものを際立たせるために前半に溜めに溜めてミッドポイントから一変する作り方もあるのだなと思いました。

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③   映画『500ページの夢の束』2017年

ダコタ・ファニング演じる自閉症の少女が、ある日行動を起こす話です。
彼女は「スター・トレック」が大好きで、「スター・トレック オリジナル脚本コンテスト」に応募しようと500ページの脚本を書き上げます。しかし郵送では締切に間に合わないことがわかり、直接届けるためハリウッドを目指すというロードムービーです。
この設定は大好きなのですが、この手のタイプの話はスタートからゴール(脚本を届ける)が明確に決まっており話も一直線になるため、途中をどう展開させるかが脚本家の腕が問われるところです。
お決まりですが様々なパターンでの障害が描かれます。自閉症なのでコミュニケーションもうまく行かず、一見善人だった相手に頼ればまんまと騙されお金を失い、バスに乗れば事故って病院へ運び込まれ、何とか抜け出したと思えば脚本の一部を失い……etc。
そんな話のミッドポイントで何が描かれているかというと、「彼女の家族が失踪に気付き捜索を開始する」です。
ここから家族側も色濃く描かれサブプロットとして本筋と絡みあい、観客も家族側視点での心配に感情移入することになります。「そりゃあ自閉症の子を持つ親の心配たるや生半可なものではないだろうな」としっかりこれまでの家族の苦悩を想像させ、観客にも新たな視点が加わるといった印象です。
ちなみにラストは何とか締め切り過ぎに脚本を直接渡すことができるのですが、当然ながらというか、後日不採用の通知が届きます。しかし、彼女はやり遂げたことに満足します。
そして、彼女自身ではなく周りの家族が変化します。家族が彼女のことを認めるようになるというハッピーエンドです。

●まとめ
セーブ・ザ・キャットなどでは、ミッドポイントでは「主人公が絶好調か絶不調に陥る」などと書かれていて確かにそうだと思うのですが、改めて分析すると、観客の視点や興味を変化させる、加えるという効果を持たせると上手くいくのかも、と発見がありました。


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