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【NHK創作テレビドラマ大賞】 16年間分の感想まとめ(※現状2020~13、随時更新)

脚本において何を書くか。書くべきこと、好きなことを書けばいい。表現したいことを徹底的に掘り下げて書く。

それしか無いんだと常々考える。
それでも、語るべき主題をどう表現するのか、という点においては様々なテクニックや考え方があって、先を考えても身につけるに越したことはないはず。

さらに卑小な話をすると、所謂シナリオコンクールでメインとなっている1時間モノというのは話のサイズ感がなかなか難しい……。

そこで、創作テレビドラマ大賞の2004年以降(未入手の2007年を除く)の大賞受賞作と選評を雑誌「月刊ドラマ(映人社)」にてすべて読み、その備忘録として各年度の大賞・佳作・最終に残った作品概要と所感についてまとめてみることにした。

個人的には、ヤンシナ・テレ朝新人シナリオと比べると、いちばん人間ドラマが描かれる作品が受賞するのがこのコンクールだと思っていて、単純に受賞作はそれぞれの作家の個性迸るものがあって心震えるシーンにも出会えたし、気付きがあったり参考にもなる部分も多い。

以降はその2004~2020年までのNHK創作テレビドラマ大賞の受賞作と選評の引用と、感想まとめを随時更新。良かったら語りましょう。
(画像は実際に集めた月刊ドラマ誌。毎年12月号が創作ドラマ発表号。何故か2010年だけ2011年2月に発表)

■更新履歴

5/20:2014を追加
5/19:2015を追加
5/17:2020~18の選外の選評を追加、2017~16を追加

■2020年「カントリーロード」他 

大賞:『カントリーロード』
あらすじ:父から「会って欲しい人がいる」と言われた小5の少女。ひとり、滋賀からその叔母の住む東京へ。叔母と時を過ごしながら、五年前に自死した母を想い……
選評抜粋:少女の痛みが正面から描かれていてしかも暗くない / 画が浮かんでくる脚本 / 台詞に無駄がなく気持ちが乗っている  / 全体を通して情感が豊か / 小道具の使い方のセンス / 主人公の少女が魅力的 / 投げかけ、テーマ、深い問いがある / 遺された側の、自分がなんとかしてあげたいという想いがベースに / 台詞に頼らず人間の行動と描写でドラマを描いている / 自分(作者)が言いたいことのような邪念がない

【大賞作品感想】
非常にじんわり、じっくりと、そして映像的に死への向き合いが描かれる情感に溢れた脚本。説明台詞、心情を直球で吐露するような台詞がほぼ無い。自然体の行動で母の死への向き合いを描いている、レベルの高い脚本だと感じた。
劇的な事件は無くとも、ささやかで何気ない出来事の端々にはるかの母を亡くした痛みや、かすかに覚えている母のぬくもりを表現していてじんわりと染みてくる。
金魚の死などの死に関連した映像的なモチーフが上手い、そして特に叔母のゾンビ役など、死に関連したモチーフながら笑いを入れて軽やかにしているのが上手い! 選評で言われている通り和歌子に会うまでが長いとは思うものの、歴代でもこれだけ映像的な大賞作はなかなか見たことがなく、個人的にも大賞文句なし。

【シナリオ構成】
※台詞や切り口は作家性による部分が大きいのであまり触れず

キャラクターと人物配置
:主人公はるか(小5)と叔母の和歌子(31)2人の交流がメインで描かれる。はるかが活き活きと小5らしく描かれているのが良い。叔母もとっても自然体のキャラクター。
脇はほとんど登場せずはるかの父(44)とはるかは不和、他に和歌子の父母程度。創作ドラマの受賞作でよく見る2人の交流を描ききるパターン(50分無いので結局それがいちばん良いということかと)。

三幕構成
:PP1和歌子と出会う、MP祭りで取った金魚を渡す、PP2母の墓へとやってくる(強いて言えば。あまり三幕構成が意識された構成ではないと思われる)。

感情の流れ
:父から叔母に会うように言われるが乗り気ではない→行く道中の細やかな描写、出来事で主人公の抱えるものをちらりと感じさせる→和歌子がでしゃばり過ぎず説教臭くなく向き合い方を伝える(まだ不服そう)→母のエピソードを聞いて母の自死を思う→金魚の死、ゾンビ役などの間接的な死への向き合い→母の墓前で改めて泣き、鎮魂歌を歌い踊ることでわだかまりを昇華させる

クライマックス
:母の墓の前で母の死を思い泣いたはるかが、和歌子と共に下手な鎮魂歌を歌い、踊り、笑う。

主人公の問題と変化
:母の自死を乗り越えていないはるかが、和歌子との交流で母を知り、少しだけ前を向く。

シナリオ構成的な気付き:金魚の死と鎮魂歌に母の死を重ねるなど、映像的に魅せる技。母の自死をどう乗り越えるのか、というときに、自然体で鎮魂するという映像的なクライマックスの持って行き方。自然体過ぎて解釈が微妙な台詞はト書き等で補足している。ホームで母子を見つめる視線など、ささやかな行動で心理描写していて、このくらいでいいんだなと。母の自死の原因なども描かない、現在進行系で遺された主人公がどう向き合うか、が焦点。この辺りのブレない描き方も参考になる。
自死から遺された側がどう向き合い乗り越えるのか、という強いテーマ性に噛み合った説得力のある映像描写と、自然体で魅力あるキャラクター性が素晴らしく、評価された印象。

佳作1席:「その川の先に」
あらすじ:親が残した遺産で働かずに暮らし、その日々の日記を出版することが目的の青年が、隅田川端で出会う中年男性や大学時代の友人と交流するうちに……
選評抜粋カードの切り方が上手い / 夢追い話だが切り口が新鮮 / キャラクターが魅力的 / 湿っぽくない / モノローグが多いのでオーディオドラマ向き
佳作2席:「花時計」
あらすじ:小説家を目指し働かず生きる女性、夢を諦めた友人たちを「落後者」と呼んでいたが、働きながら小説を書き続けていた友人が賞を取ったことを知り……
選評抜粋:人物描写が映像的でリアル / 生きている人物になっている / 主人公含め全員ダメな人なのが良い / 葛藤が無い、ドラマとしての芯が弱い / 主人公に味方が多すぎる / 主人公がどうやって生計を立てているかが謎
その他最終候補作:
「見えない星」大学休学中でコンビニの深夜バイトをする青年がそこに集う人々と交流する(設定はありきたりだがラストの交流が心に響いた /「見えない星」が何だったのかもう少し見えたら)
「ぺたんこの恋」就活中の女性が書類を男性として面接へ行き、男性として採用され、男性として働き始めるが……(設定が面白くキャッチー、その分小さい話になっている / プロジェクト内容にリサーチが足らない / 他局のドラマと偶然だろうがかぶってしまった)
「モテギマコトから逃げられない!」漫画家を目指しアシスタントをしている青年が、若い後輩モテギマコトに先を越され、売れっ子になった彼に嫉妬する(コメディセンスを感じる / 登場人物も愛すべき設定 / どこに嫉妬しているのかが分からず人物の掘り下げが浅い)
「ピンポンダッシュ」少年の頃今は亡き幼馴染と行っていたピンポンダッシュを今もしている中年男が、亡き幼馴染の息子と出会い……(ピンポンダッシュという軽やかさ / 歳の離れた2人の友情がいい / なぜピンポンダッシュなのか哲学がない)
「協奏曲・第二楽章」挫折して今は予備校の講師をしているヴァイオリニストが、仲間との再会によって再びヴァイオリンと向き合う(未来がある子達に対するメッセージがいい)
「空色パンツ」普通に結婚を考えていた女性が、トランスセクシャルの青年と出会い、自分がアセクシャルだと受け入れていく(夢を諦めない、世の中がつまらない、生きるのがしんどい、などの作品が多い中で異色 / 偶然の展開、台詞ですべてを言い過ぎ、脇の人物が描けていない、など初稿っぽい)
その他総評・次回へ向けて 抜粋
人間を描くことがいちばん大事 / 素材と切り口で目立つ(夢追い物語が多いのであれば、夢なんて知らねえよという切り口で書くとか) / 説明していない台詞でないと残っていかない / 登場人物の気持ちや設定について深く考えること、同時に自分の心を掘ること / これは面白いだろう!という荒々しさと輝きに加え、肯定力が欲しい

         ※引用元:月刊「ドラマ」2020年12月号 映人社

■2019年「星とレモンの部屋」他 

大賞:『星とレモンの部屋』 NHKオンデマンド映像リンク
あらすじ:長い年月引きこもる男女がいて、インターネットを介して会話している。主人公の女の子の母が急死し、母の遺体と向き合ってどうするか
選評抜粋:リアリティを感じる一方で独特の雰囲気や気配を作っている / 特殊な状況を寄り添うように描きとても力がある / 死体が出てきてからがすんなり進んでしまった印象 / 作家性が見えてきた作品、不器用な主人公たちの生き様がよく描かれている / 引きこもり作品の類型を抜け出している / 台詞に筆力がある / 作者の強烈な意志が迸っている 

【大賞作品感想】
冒頭の会話から、まだ見ぬ架空の星のファンタジーと仮想通貨のリアリティを行ったり来たりする跳躍力で、これは大好きな雰囲気だなと一気に惹き込まれる。引きこもりというテーマには個人的に興味は無いんだけど、それでも主人公の生きづらさと苦しさがしっかり伝わってくるキャラクター描写が上手い。「一人前のプライドとか、強がりとかも、持って生まれてきちゃった」いいセリフ。ティッシュがきっちり区分けされている描写など、引きこもり(パーソナリティ障害)の取材もしっかりされているんだろうなと感じる。
外に出られない引きこもりが夢想するあまりにもファンタジーな星。死体から香る好きだった母の料理のレモンの匂い。この2つの象徴的なモチーフの置き方がとても綺麗でしっかり伏線にもなっており、効果的に使われているのが素晴らしい。そこでこの印象強いタイトルは完璧。
選評で言われている通り、作家性を強く感じる真似の出来ない作品で、シナリオを読んだだけでは演出がどうなるか気になるが、実はとても映像的な力強さがあると感じた。チャット相手の涼と中学時代に出会っていたら……、母の死体と話す箇所など、ファンタジー要素が自然に展開に馴染んでいる。
主人公が最後に踏み出す一歩にとても清々しい感動を覚える名作。

【シナリオ構成】
キャラクターと人物配置:引きこもりの主人公いち子、その母、ネットのチャットでの会話相手の涼、涼の父。この4人のみで、いち子と涼の話に絞り込まれている。

三幕構成:いち子と涼の2人がすでにチャットでやり取りしているところから始まり、入が早い。PP1で母が亡くなり、きっかりMPで涼も父の死体を放っている事がわかり、PP2で死体の母と会話

感情の流れ
:同じ引きこもりのチャット相手の涼とは打ち解けているわけでもない、母とは悪い関係ではない描写→涼とお互いの不安を吐露しあう→不安が実現し母が亡くなり、救急車を呼べないことへの罪悪感を覚える→涼の父の死を放置しているという告白、自分たちは変われないという涼に反発→母への謝罪、好きだった母のレモンの香りに決意→一歩を踏み出した

クライマックス:いち子が死体の母と会話し、自分の気持ちを吐露する。まだ世の中に好きになれるものがあるはず、頑なな気持ちを解いてくれる人がいる、と教わる。

シナリオ構成的な気付き
:星とレモンをしっかりモチーフとして主人公の問題や展開と紐付け使い切っているのが上手い。同じ境遇で”先輩”であるという涼のキャラクター設定の発想が凄くて、これは所謂”敵対者”としていち子を引きずり込もうとするポジションだけど、この同じ境遇の2人同士をやり取りさせることで、引きこもりの生きづらさをより鮮明に描けている。引きこもり対そうじゃない人物より、同じ境遇にすることで効果が出ている。
チャットや死体との会話、妄想の回想などのファンタジーを退屈にならないよう映像的に上手く見せている。最後は主人公の変化で一歩を踏み出したことにより、涼も救われるという変化のパターンは良かった。

佳作1席:「もやすゴミの日」
あらすじ:学校でいじめを受ける女子高生と清掃員の男性の物語。「怒りを盗まれた」、という女子高生と清掃員が最後には校庭でゴミに火を付けささやかな復讐をする。
選評抜粋展開がほぼないが、一つ一つのシーンに重きを置いている / 周りに出てくる善意の暴力者、いじめ問題だけでなく「怒りを盗まれた」というテーマはとても面白い / ひりひりする肌感覚を持ち続けるキャラクターに説得力がある / 小さな世界ではあるが、世界観がよく書けている

こちらはシナリオ教室に掲載された作品を読んだ。ミニマムな展開の中で一つ一つのシーンにおける心情の動きをしっかりと描いていて、テーマ性を中心に据えた作品。「怒りを盗まれた」という、作者の訴えたいテーマの一点突破で貫き通す作風と世界観はとても力強かった。

佳作2席:「激情のフィスト」
あらすじ:いじめっ子を殴ったことで停学になった女子高生が、大阪にやってきてどつかれ屋をやっている父親と再会を果たし……
選評抜粋:主人公を行動で表しているところがわくわくしたが大阪に行った辺りから説明台詞が増えた / 映像になったときに楽しめる作品 / 主人公のキャラクターがはっきりしていて最もドラマ性、エンターテイメント性があった / 物語の都合のためにどつかれ屋を置いている印象 / 展開に必然性が感じられない
その他最終候補作:
「夜に虹を」タクシー運転手が、自分が30年前に組んでいたバンドの曲を路上ライブで聞き、問い詰めると中年女性ホームレスの元へ連れて行かれ。そのホームレスは30年前のバンドの元ボーカルで、別れてから転落の一途を辿っており……。(作り物感があって響いてこない / 希望のあるラストに好感 / 暗く儚い話を美しくまとめすぎている)
「この雨について」中学3年の女の子が主人公。1年前に姉が自殺し、自分のアルバムが無かったのでアルバムを作っていく。(今何故これを描かないといけないのか分からなかった / キャラクターが弱く心に染みない / 母、姉、塾の友人、主人公で話が進むが散漫で絞るべき / 思春期の心情描写が良い)
「きれいな遺体」30代で緩和ケアをしている医師が主人公。元高校の同級生が末期ガンで入院してきて……。(主人公が冷たい医師である、という大前提が緩くスタートしているため、その後の葛藤が描きづらくなっている / 医療に詳しくリアリティがある、がヒロインとの因縁が曖昧)
「Re:Re:Re:の紡ぎ」長年妻と別居し、離婚手続きを開始した主人公。両親の古い携帯電話が見つかり、メールや留守電で両親の過去を辿る。(よくある構成だが、クライマックスが弱い作品が多い中、きちんとクライマックスが盛り上がっている / 読み手が努力すること無く情報が得られるのがドラマチックではない)
「バカ3回!」仕事は出来るが平気で部下の事をバカと呼ぶような主人公。交通事故で死にかけ死神に出会うと「バカ!」と3回言われたら現世に戻れると言われ……(お話自体はオーソドックスだが設定が面白い / ストーリーが直線的 / この先どうなるか、3幕が無い状況になっている / 着眼点が面白くエンタメ作品として面白い / ドラマとしてのカタルシスがない)
その他総評・次回へ向けて 抜粋
貧困が関連しているドラマが多い / テーマや題材、主人公と作者の距離が近く、ちゃんと寄り添って描いている作品が最終に残った / 逆に残らなかった作品は「テレビドラマってこんなもんでしょ」と感じる / 入賞作は生きづらい日本への作者の怒りが強く出ていてよかった / どの作品も作者の勉強不足、もっとプロの脚本を読むべき / ベースの文章力自体が近年落ちている印象 / 主人公を通じて見ている人に何を感じさせたいのか、そこはしっかりメッセージを込めて

         ※引用元:月刊「ドラマ」2019年12月号 映人社

■2018年「ゴールド!」他 

大賞:『ゴールド!』 NHKオンデマンド映像リンク
あらすじ:地元の名士であり、免許取得から50年以上一度も違反をしていないゴールド免許の主人公(75)。認知症の妻を抱える彼がある日、警官に違反切符を切られ……
選評抜粋: 題材としてテーマをドラマ化する意味があるのが良かった / 話が入れ替わってしまっている、警官と最後までやりあって欲しい / ゴールド免許と地元で築いた地位と名誉を表す良いキャラクター / 主人公のプライドや色んなことが衰えていく悲しみが表現されている / 小道具の使い方が上手い / 最近あまり無い演技が楽しめそうな脚本 / 主人公が偏屈で苦手 

【大賞作品感想】
構成、小道具、キャラクター、テーマなど全てに於いて技巧とレベルの高い作品。主人公のキャラクターが非常にキャッチーで分かりやすい。社会問題をテーマにして描くというNHKっぽさのお手本のような作品。
テーマへの作家としての視点もきちんとしていて、高齢者の交通事故問題をテーマに若い世代と高齢世代の断絶を表現しつつも、優しく人間を見つめてどちらの良いところも描いている。75歳より80歳の方が先輩であり全然違う、という表現、SNSでの拡散を知らない主人公に女子高生が「今はこうやって知らない人同士助け合える時代」と言うなど、きちんと人間を見つめて出てきている優れた台詞。「年寄りだって、死ぬまでは行きていかなきゃならん」という年寄り側の主張の台詞も上手い。
ビデオカメラ、ファミレスなどの使い方も映像的で巧みだった。選評ではもっと警官とのやり取りが見たかった、(同じ高齢者の孫である)女子高生との話に変わっているのが良いのか?という指摘もあったが、うーんこれは難しい。おそらく作者は若い世代と高齢者、という対立軸を設定していて、しっかりそれに沿っていて良いと思うものの、警官が消えてしまった感は確かにある。また、最後の落とし所が夫婦の認知症問題というのは少し脇道にズレた感じもする。プライドがあり、妻にも厳しく当たっていた主人公が変化して妻と向き合う、という形だが、妻の事件は世代間断絶という主テーマに沿っていないのが問題といえば問題。
それでも構成、キャラクター、台詞、人物配置、小道具などが上手く、とても参考になった。この作者の方は高齢者問題にとても興味がある、というよりは、このテーマを問題であると考えここまで表現できているのがプロいと感じた。自分だったらそれほど興味が無いテーマでここまでの視点と内容で描けないな、と思う。しっかり向き合って深堀りしている。

【シナリオ構成】
キャラクターと人物配置:主人公(75)と認知症の妻。違反を咎める若い警官。そして主人公の地元の名士としての姿を知る警官の上司。地元の同じ高齢者(この配置が主人公と同じ境遇、似たキャラでの対比として、かつ80歳で少し先輩という表現が上手い)。そして若い世代代表としてこの高齢者の孫の女子高生。人物配置と登場のさせ方がとてもスマートだと感じた。

三幕構成:入りが早い、事故のシーンから主人公を描写して説明している。ひとしきり事故の流れが終わり、PP1で妻の認知症が明らかになる。MPで同じ高齢者である松永の事故が起こる。PP2で妻が行方不明になる。

感情の流れ
:冒頭、プライドがあり事故など認めない→病院で高齢者の免許返上話、まだ認めない→(視聴者側に対してビデオカメラやファミレスで老いの表現)→年上の80歳の高齢者に諭される(味方がいなくなりますよと)→その高齢者が事故を起こす(この高齢者もゴールド。でも息子が連絡をくれてよかったと言い、それに感じ入る)→高齢者の孫の女子高生と交流、若い世代とのやり取り→妻が行方不明になり、若い世代に助けてもらい認める→自分の事故と過ちを認める
とても分かりやすい流れ。

クライマックス
:行方不明になった妻が、女子高生の美咲のSNS拡散、若い警官の保護で見つかる。そして主人公は冒頭の事故がやはり自分のせいだったと思い出す(若い世代に助けられ、自分の過ちを認める)

シナリオ構成的な気付き
:冒頭、事故シーンと警察署内のシーンを交互に配置し上手く説明する展開は上手い!こういうやり方があったなと。登場人物の配置と登場順がとても自然で無駄がなく(警官とのやり取りの話になるかと思いきや少なかった点以外は)、キャラの役割もそれぞれ明確。クライマックスが妻の事件になるのは主題と少しズレる印象もあるが、しっかり感情的な山場になっている。シーンもそれぞれ映像的でシーンごとの意味合いがはっきりしていて無駄なシーンがない。

佳作1席:「52歳、親の介護が待ってます」
あらすじ:両親と一緒に暮らしている、中学校で体育教師をしている女性。このまま行けば介護が待つため、婚活を開始し……
選評抜粋親の介護を軽やかなコメディで魅せている / 登場人物を戯画化しすぎている / 同じく親の介護をするババ付き男性と出会うラストは良い / 主人公が可愛らしく人間愛を感じる / 暗くなりすぎないテイストが良い / キャラクターは良いが既視感があり、ドラマの成立にもう一声要素が必要では
佳作2席:「ロボ恋」
あらすじ:主人公の女子高生が転校してきた学校には分身ロボットが。新天地での暮らしを助けてくれるロボット。実はそのロボットは難病で視線しか動かせない少年が操作しており…。
選評抜粋:分身ロボットのアイデアが素晴らしい / 高校生のキャラクターが魅力的で、恋愛と友情が爽やか / 味方が多くドラマになるべきところがスーッと流れている / 後半事件が起きてからの展開が投げやりに感じる
その他最終候補作:
「理想の貧困」主人公は福祉予算削減をミッションに持つ厚労省のキャリア。貧しい子供のための食堂を運営する弟を懐柔しようとするが……。
(社会問題はいいが、主人公が貧困問題をどう思っているのか、最も大事なところが何も書かれておらず欠けている / 登場人物が図式的 / このテーマを社会派で描くと難しい、コメディなら上手く着地できたのでは?)
「いびつで愛しい僕らの声」少し冷めた中学3年生の男子、合唱祭に向け、吃りの女子に協力することになり……。(キャラクターが全体的に弱い / 合唱、吃音という題材で想像したストーリー通りになってしまっている )
「この十年で何人の友達を失くしましたか?」夢やぶれて10年ぶりに故郷に帰ってきた主人公。再開した男友達と過去を振り返るロードムービー。(具体的に主人公がどんな夢を持ち破れたのかが描かれていない / 友情が終わった、というラストが曖昧 / いちばん台詞が良い )
「3分の2の余白」他人の葬儀にサクラとして参列するアルバイトをしている女子大生。大学の清掃員のおばさんと出会い写真のとり方を教わり……。(アイデアは面白いしタイトルのフレーズは魅力的 / 葬儀における死と就職の悩みを対比させた不思議な読後感 / 登場人物に魅力がない)
「オレ」振り込め詐欺グループ一員の26歳の男性。逃亡し祖母と会うと祖母はアルツハイマーで……。(主人公とおばあちゃんが魅力的 / 振り込め詐欺に手を染める経緯、なぜ祖母のもとに留まるのかが分からない)
その他総評・次回へ向けて 抜粋
キャラクター選択には成功しているものの、後半の構成でバタバタしている作品が多い印象 / 中間世代を取り上げる話が抜けていた / 書きたくて書いたのか熱量を感じない / 登場する主人公がどれも孤独で、やや暗い印象 / 登場する人物がどれも自分の生活するベースから出てきていない / チャレンジングな企画を期待したい / 「この人しかいない」と思わせる作品がなかった / 自分が見たいドラマ、という視点を / 自分の周りの人間から物事を探してくること

         ※引用元:月刊「ドラマ」2018年12月号 映人社

■2017年「週休4日でお願いします」他

大賞:『週休4日でお願いします』 NHKオンデマンド映像リンク
あらすじ:社員食堂の正社員である主人公は忙しく働き憔悴しているが、週休4日でパートに入ることになった女性に一目惚れし、日々の暮らしを大切にしようとするその女性に影響を受け……。
選評抜粋: (最終に残った中で)唯一の恋愛ものとして際立った存在感がある / 主人公が今ある現状を引き受けているのが良い / 恋愛と新しい社会の道筋がきっちり描かれていて気持ちが良い / 2017年の今を描いている / タイトルもキャッチーでユーモアがある / 働き方改革が言われている時代に、人が生きる上で何が大切か考えさせてくれる良質なラブストーリー / 驚愕の台詞の数々でとても上手い / とにかく台詞が達者、結末も申し分ない / 砂漠のような日常が人を死にまで追い詰めるという今風の絶望が、小さな出会いや恋愛で救われる図式

【大賞作品感想】
シナリオを先に読んだ段階からとても好きだった作品。選評もここに取り上げる16年分の中ではいちばんの高評価。今年度でもダントツとの評価。
こけし好きというヒロイン華のある種独特の趣味は、あくせくとした労働に囚われないキャラクターを表していてとても良かった。「こういう生き方もあるよ」というヒロインの提示がチャーミングでユーモラスだし、作者の優しい目線が光っていると感じる。
構成や切り口自体はいたってベーシックなのに何故ここまで惹かれるのか、それはやはり、現代の労働問題を的確に捉えた描写と、華の説教臭くない人生観を表す台詞やキャラクターにあると思う。
また、主人公もとても受け身ながら、夢のない仕事環境でもしっかりそれを引き受けてがんばっているところがまず良い。最初のモノローグが「できれば働きたくない」。できれば、である。このさじ加減がいい。おそらく同世代視聴者の98%くらいが同意する。そんな主人公が華のために最後は一歩踏み出す姿に素直に心打たれた。
そして繰り返しになるがヒロインの華がいい。こんな職場だったら華みたいな子にいて欲しい、そりゃ惚れるよね、と読んで思ったもんそれは。作者は女性の方なのだけど、何故華がここまで主人公を気にかけて好きになってくれるのか、そこはちょっと不思議だな男のご都合ファンタジー的だなという感じはしたものの、ただ主人公も仕事を頑張り応援したくなる優しいキャラクターではあった。とにかくもどかしい2人がようやく気持ちを表現しあって進展するラストシーン、ささやかな行為が映像的で抜群にいい! このラストシーンだけで100点満点中1500点あげたい。
ちなみにシナリオでは華はこけしの趣味以外にアフィリエイトなどネットで食べているという現実的な一面を持つんだけど、映像化ではカットされていた。それからシーンが結構カットされ順番が整理されることで見やすくなっていた。キャストが素晴らしく、シナリオの魅力が十二分に伝わる素敵な映像化だった。

【シナリオ構成】
キャラクターと人物配置:主人公(28)と職場にやってきたヒロイン(28)の交流がメイン。他に働き方について語る相手である父。職場の上司やメンバー。きっちり2人の話として絞り込まれている。

三幕構成:入りが早い、主人公の職場紹介が1分、2分目ですぐヒロインの面接になって出会い、「週休4日」という台詞が出てくる。PP1で一緒に帰り交流し「こけしイベント」を知る。MPで主人公がふらっと電車に吸い込まれそうになる(自殺しそうになる)。PP2で主人公が別の店に異動になってしまう。(映像では確か出会うまでもっと仕事紹介に割かれていたので、出会いは早すぎかもしれない)

感情の流れ
:主人公は多少いやいやながらも日々の苦しい仕事をこなしている→週休4日欲しいというチャーミングな華と出会って、華の価値観にも心惹かれる→父や職場のメンツとのやり取り、辛いが仕方なく働く状況→こけしのイベントなどで華と打ち解けていく→仕事の状況が辛くなり、ふらっと死にたくなるが、華に助けられる→(華に感化され)会社を辞めようかと考える→華から半ば告白のような言葉をかけられる→主人公異動になる、勇気がなく結局やめられない→華にこけし越しにバカと言われ奮い立ち、有休を初めて取得し、こけしのイベントに華に会いに行く→出会った2人、主人公は勇気を出してささやかな告白をする

クライマックス
:異動になり華と会えなくなった主人公。こけしのイベントのために、7年間取得しなかった有休を初めて取得し、華に会いに行く。

シナリオ構成的な気付き
:この作品に関してはあまり構成でどうこうというのが浮かばないほど、自然と2人のやり取りや気持ちの動きが伝わってきた。
うーん、これに関しては本当にどこがどう、というよりもちょっと少女漫画も連想させる瑞々しい台詞の掛け合い、似たもの同士の弱者である2人の交流が心地よかった。ヒロインである華の台詞は全編に渡って現代社会への批評と示唆に満ちていてそれでいて説教臭くない。展開自体はよくあるラブストーリーの形を取っている。
ここまでの3年分読み返して、映像で心理やキャラを語るト書きの部分は、きちんと流れにそって分かる内容になっていれば本当に簡素で十分なんだなと感じた。

佳作:「やらずの雨が上がる時」
あらすじ:早くに父を亡くし病弱な母を支えてきた73歳の男性が主人公。彼の家に居場所を失くした69歳の女性が転がり込み、つかの間、2人の時間を過ごすというストーリー。
選評抜粋2人の関係性の変化だけで55枚を読ませたのは凄い / 激しい事件や凝った設定、辛い過去話がない代わりに、台詞と気の利いた小道具で2人の気持ちの移り変わりを繊細に描いている / 老人の描写がステレオタイプから抜け出していて、若さの描き方がリアル / 老人も誰かの子供である、などの描写があり今まで描かれたことの無いドラマ / 今まで見たことのない、想像したことのない感情ラインや人物が描かれている / 2人が本当の意味で葛藤していない、ラストが納得いかない / 後半の展開が弱い
奨励賞:「みんな、明日があるって」
あらすじ:幸せな日々を送る清掃員の夫と主人公であるその妻。妻は夫宛に届く入院中の幼馴染の女性からの手紙が気になり……。夫は幼馴染との関係や過去を告白する。
選評抜粋:台詞の言葉遣いが非常に繊細、生身の人間として描いている / とてもミニマムな話だが、どういう秘密があるのか人間関係がどうなるのかミステリーになっている / この小さなネタで60分を読ませるのは力がある / 淡々と流れる夫婦の時間が手紙によって変化するのはとてもドラマ的 / 設定を活かしきれいていない、主人公の魅力がない / みんな明日がある、というタイトルなのに(死んでしまい)明日がないキャラがいるのはどうなのか
奨励賞:「ノッキン・オン・ヘヴンズ・ドア」
あらすじ:一度も会ったことのない自分の父が殺人犯だと知った少年は引きこもっていたが、ある日記者から、父らしき人物がネットカフェで人々の告白を聞いては赦しを口にする「ネットカフェ神父」をしていると聞き……。
選評抜粋:シーン立てなど書き方が上手く、登場人物が多く複雑な話を上手くまとめている / 登場人物を上手く配置して着地点を決めているなど手練ている / 全体的な構成力はあるが、記者から聞いて変わっていくのはもうひと工夫欲しい / テーマ曲から逆算して考えた物語のための物語という印象 / ネットカフェ、宗教、母殺し、などあまりにも少年の見る現実に夢がない
その他最終候補作:
「穴を掘る」父が畑に大きな穴を掘り出したと聞き故郷に帰ってきた男と妊娠中の妻、理由を語らない父に、埋蔵金探しの憶測が持ち上がり……。(導入部は面白いが尻すぼみ / 要素を盛り込みすぎて散漫 / 台詞はコミカル)
「MR彼女」会社員生活のトラウマから引きこもりになった青年。恋愛シミュレーションゲームの複合現実カノジョによって少しづつ外の世界へ出ていくようになり……。(支え続ける母が非現実的 / チャレンジ精神は買った / 主人公に都合のいい話になりすぎている)
「しあわせさん」いじめを受けている女子高生。街で善い行いをする人に感謝の声をかけるピンクのスーツの男(しあわせさん)。女子高生はしあわせさんに感謝の言葉をかけられると幸せになると聞き、探しに行くが……。(設定の面白さ、冒頭の掴みや勢いはいい / ありがちな話に落ち着いてしまった / 途中から展開が強引で感情がついていかない)
「でれすけロック」食品会社のお客様相談室町「謝罪の栗沢」には容姿に劣等感があり不登校の娘がいる。娘に外に出て欲しいと願う主人公は、人気ロックンローラーに会ってツイストを習うようになるが……。
(王道でラストは踊ってという練られた構成 / キャラクターも皆明るく気持ちいい / 元気な作品だが既視感 / 地方の現実など、リアルな台詞が欲しい)
その他総評・次回へ向けて 抜粋
引きこもりのテーマが多かった、ドラマでは夢を見させてほしいが、落とし所が似てしまっていた / 賞に選ばれなかった作品は、大事なところで対峙せず描かれるべきシーンが描かれず逃げてしまっている / 切り口に既視感があった / 作者の想いがきちんと描かれている作品が賞に選ばれた / 傾向と対策より、自分が書きたいものをどうすれば面白いと思ってもらえるか試行錯誤したほうがいい / 現代を描くのは難しいが「週休4日」はそれと戦っていた / 自分の個性を極めてほしい / 孤独を抱えた人物が相手を見つける、という話が多いが、その先どうなっていくかが見たい

         ※引用元:月刊「ドラマ」2017年12月号 映人社

■2016年「デッドフレイ」他 

大賞:『デッドフレイ』 NHKオンデマンド映像リンク
あらすじ:自分で作った人工知能だけが話し相手という青年が、写真画像を加工するバイトを通じて謎めいた人妻と出会い……。
選評抜粋: (最終候補が)どんぐりの背比べの中で、直すと面白くなるイメージ / 現代性の部分と展開力を買った / 最後までどう転ぶか分からないスリリングな展開 / 台詞もよく締まっている、入りとラストとタイトルに工夫がある / 道具立てが面白く新しい素材が揃っている / 主人公により添えない、スタイルが先行している、心情がわからない / フィクションを作ろうとする意思を感じた  

【大賞作品感想】
発想がいい。まずはそれに尽きる。それ以外は正直あまり入ってこなかった。人妻紗耶の心情がわかりづらく、最後なぜその選択をするのかがよく分からなかった。また、主人公の最後の変化も心情がわからない。
主人公が抱える父親の問題、人妻紗耶の夫婦の問題と画像捏造行為、人工知能エリナ、これらが噛み合っていない印象……。
そのため(もちろん個人的な主観で、自分が理解できなかった可能性は十分あるけども)、感想として語れることがあまりない。
ただ、2016年にこの感覚、この素材はとても新鮮だと感じたのと、この題材でドラマを作ろうとした点、どうなるのか分からないワクワク感は凄く良かった。その点のサスペンス的な良さと、人間ドラマが食い違っていると感じたのかもしれない。まだ映像を見ていないけど、映像でどこまでどう整理されているのかが気になるところ(※後日見たらこの部分更新します)

【シナリオ構成】
キャラクターと人物配置:主人公の青年(21)と謎の人妻紗耶(32)がメイン。その他主人公の問題の象徴としての父(と母)、人妻の夫、仕事の上司。そして人工知能エリナ。
登場人物は無駄がないが、エリナの意味があまりないのと、上司もあまり意味がない、と感じた。

三幕構成:入りが少し遅い印象。エリナと主人公の紹介、職場の面接があり、PP1(13分程度の箇所)でようやく人妻紗耶が職場に訪れる。MPで主人公が紗耶の家を訪れ、紗耶の実情を知る。PP2で紗耶の旦那の処分(と思っている)を手伝う。
三幕が強引に感じるので、入りを早くして最後を膨らませても良いように感じた。

感情の流れ
:主人公の父との問題→自分に合う仕事(画像捏造)を見つける→客である紗耶のことが気になる→紗耶の旦那の件、子供のこと分かってきて更に気になる→紗耶の家に行き疑問をぶつける→父とのさらなる確執→紗耶の過去を知り驚くが、紗耶に惹かれていく→紗耶の旦那の処分を手伝い、悔いる→旦那が出てきて冷める→父と向き合う(ここの流れがよくわからない)

クライマックス
:紗耶の旦那の処理を手伝った(と思っていて)後悔しているところへ、旦那が出てきて復縁し紗耶の謎が明らかになる。そして紗耶に対しての気持ちが冷める。
(サスペンス仕立てなので、謎が解けるところがクライマックスになっている)

シナリオ構成的な気付き
:どうなるのか分からないワクワク感があるが、素材の良さに対して心情がわからないので、逆にそう感じた可能性もある……。ただ、ありきたりな展開にはなっていないのが良い。どちらかといえばヒューマンドラマではなくサスペンスの構成なので、その点で心に入ってこなかったのかもしれない。サスペンスだとすれば、最後の展開は不明なものの、面白く先が気になって読み進めたので、成功していると感じた。
そう考えると、サスペンス仕立てと主人公の人間ドラマが噛み合っていないので、サスペンスにもっと振っても良いのかなと感じた。

佳作1席:「ルナティック・ペイン」
あらすじ:六年前に起きた社長夫人殺人事件を切っ掛けに、三つの家族の時間が満月の下で交差するオムニバスドラマ。
選評抜粋面白い構成でとても読ませる力がある / 加害者家族、被害者家族、事件を起こさせてしまった女、の3つ視点で、技術がある / ダントツで力がある / 3つの話をひとつの話に着地させるアイデアと筆力がある / 3つの主役がいるので(制作に)お金がかかる

※これは作風が面白そうなので、シナリオ教室掲載分を持っているので後ほど読んでこの箇所を更新したい

佳作2席:「HEART NOW ON AIR」
あらすじ:声優アイドルとして活躍していたが挫折した主人公が、子供の頃に聞いていたラジオ番組に触れ再生していくストーリー。
選評抜粋:ドラマ的な見せ場が用意され、そこに向かっていく強さを感じた / 後半、モノローグで説明するくだりは減らしたほうがいい / 音のイメージに頼って画の魅力に欠ける / 「お話の蝋燭を立てる」という表現が素敵 / 朗読、というテレビ向きじゃない素材を活かしている / モノローグで全て語ってしまっていてラジオドラマ向き

※こちら、邪推だけどタイトルといいモチーフといい選評での内容といい、ラジオドラマとして書いた作品を転用したような気が。でもそうだとしてもそれで入賞しているのだから凄い。

その他最終候補作:
「特売肉とブランド牛」夫の脱サラによって牧場で働くことになった女性。仕事の厳しさを思い知らされる中、夫が亡くなってしまい……。
(酪農の跡継ぎ問題の面白さで最終に残ったが、まとめる力が圧倒的に足りない / ト書きを読んでも映像が浮かんでこない、シーンが変わると台詞が真逆になっている、など色んな問題が)
「女鍛冶屋のいる夜」鍛鉄作家を目指し、師匠についているが芽の出ない青年。同じ道を行く美しい女性が現れて……。
(どんぐりの背比べの中で、明確な敵役を作って話がまとてまっている作品はこれだけだった / ヒロインの気持ちがわからない / 旦那が類型的)
「夏、眼鏡の少年」若い男との子供を身籠ったが、男と連絡が取れなくなった女性。不安な気持ちで発作的に、昔住んだ田舎の、中学時代好きだった相手の家を尋ねるが……。(情景描写が静かで独特 / 山間の旧家、盆踊りなど夏の風景が美しく目に浮かぶ / シーンや台詞も語りすぎていない余白の美学 / 描写は良いが、主人公の内面、少年を想う理由もわからない)

※この年は最終候補がこれしかない

その他総評・次回へ向けて 抜粋
最終候補にはアイデア、構成力、最後までお客さんを楽しませたいという意欲があった / 魅力的な台詞、すごく面白いシーンなど、これだけで選んでしまった、というのが欲しい / 想いをぶつけて欲しい / うまくまとまったものは求めていない、挑戦的な、刺激をくれるようなものが欲しい / 一点、これを描きたいんだ、ということさえ拾えれば / お客さんのことを考えた脚本を書いて欲しい / 私の想いをどうか分かって欲しい、という祈りが欲しい / どれもストーリーが弱い、もっと大事にして欲しい / 技術やストーリーを凌駕する強い想いがまずあって欲しい / 全体的に主役の魅力が乏しい(主役のキャスティングが難しく、ラブレターのような側面があるので)。主役をもっと見たい / 自分の価値観を変えてくれるような出会いが欲しい / デッドフレイは人間のドロっとした部分にアプローチしていた 

         ※引用元:月刊「ドラマ」2016年12月号 映人社

■2015年「あなたにドロップキックを」他

大賞:『あなたにドロップキックを』 NHKオンデマンド映像リンク
あらすじ:自分を脇役と思い込む、婚約者に捨てられた看護師の秋子。引っ越した先で女子プロレスラーのモモと出会いドロップキックに魅せられ、ジムに通い、やがて自信を持つようになっていく。
選評抜粋: 白飯をつまみに発泡酒を飲む主人公のイメージがまず強烈 / 等身大の女性の日常 / 心地よい読後感 / テレビ的なキャラクター / どこかで見たシーンが続く / 脚本全体に躍動感があり、モモが魅力的 / ビックリマークが多すぎる脚本 / 「百円の恋」に近いものを感じた / 主役、脇役の話が立っていない、主人公から遠いところで回っている話 / 最後にドロップキックをする相手が痴漢でいいのか? / (作者が人間を好きだから)  登場人物が可愛く思える嫌われないホン / キャラクターがとても良く書けている

【大賞作品感想】
この作品は問答無用に好き。こういったダメ人間が少しだけ成長するという作品がツボ過ぎる。この構図の場合やはりキャラ立ちが不可欠だが立ちまくっている。自分が書きたい方向性、書いてる方向性にも近いし、16年分読んだ大賞の中で、いちばん今のテレビドラマっぽい躍動感、面白さがあった。選評でも「現代のドラマっぽいテクニックが上手いから逆に既視感があるのでは?」と言われていた。
おそらく作者が自分に近い人物を描いているんだろうな、と思わせるエピソードのリアリティが支えているからキャラクターが強い。展開も入りが早く、細かいネタも豊富に展開されている。トンマナとして、情景描写や背景を感じる染み入る会話、ではなく小ネタや会話のテンポ感で引っ張る感じ、これが確かにテレビドラマっぽい。
物語の構図としてもなかなか珍しくて興味深い。主人公は女子プロレスラーモモと出会って影響されることで自信を持つ、自分はフラれるが、モモの恋の成立にバイプレーヤーとして専念して、クライマックスは自分で何かを成し遂げるのではなく、モモの恋を成し遂げるため尽力する、(自分は脇役ながらも、主人公が思う物語の主役である)彼女の試合を真剣に応援する、という図式になっている。そして実はモモも脇役であった(ヒールだった)ことがわかり、そのモモを応援し、モモが勝利することで、自分も最後には一歩を踏み出す。こういう図式は他に何があったか有ったような気がするけど思い出せない。ただ「自分は脇役だ(それでも主役になれるときもある)」というテーゼ通りになっていて、よく考えられていると思った。
選評で「主人公から遠い話」と言われているのはそれ故だけど、それでもしっかり感情の流れが成立しているし感情移入できる。おそらく、「(脇役は脇役でも)納得の行く脇役をやるんです!」という途中の主人公の決意に共感できるからで、キャラクターの良さが担保されてその価値観・想いに説得力があれば、クライマックスに成し遂げることは他人の応援、でも成り立つんだな、というのは参考になった。
もちろん、相手役となる女子プロレスラーモモのキャラクターも良くて、あんまりそう見えないが実はバリバリのヒール、という意外性も良い。
ひとつ、選評で言われている通り、最後にドロップキックを決める相手がそれでよかったのか、というのは言われてみれば確かにという気もする。最後はやはりフラれた彼氏にドロップキックを決める(と思いきや隣りにあった何かに決めるとか)くらいがいいんじゃないかと思ったりもした。
ただ、結婚を約束していたのにこっぴどくフラれた彼氏相手に何も出来ず、その上さらに情けをかけられ悔しくて汚い顔で涙を流す、というシーンは抜群に良く、胸を打つから、それを活かすためには彼氏の件はそのままで終わりがいいのかもしれない。こういう感情の迸るシーン(かといって、ただ叫ぶ、怒る、などではない)があるかどうか、というのは重要だと改めて感じる。
映像では主人公がイモトアヤコさんで、あぁハマり役、それしかない、とすぐ思ったので、キャストが浮かぶ脚本というのはキャラクターが立ちまくっている証拠。

【シナリオ構成】
キャラクターと人物配置:主人公の秋子(29)とジムに務める女子プロレスラーのモモ(29)がメイン。その2人の交流によって主人公が変化する、という構図の人物配置。その他主人公を振る彼氏、彼氏の新しい恋人、モモの彼氏、主人公の思いの吐露の相手役・相談役として同僚の広美と、ジムのまり。
強いていえば広美は相談相手なので絶対に必要ではないが、連続ドラマでよく見る配置(自分も書きがち)。

三幕構成:入りが早い。このテンポ感が全体に効いている。冒頭1分フラれるエピソード、2分主人公紹介(白飯をつまみに発泡酒の強烈エピソード)、3分でモモとの出会い。早い。PP1(13分程度の箇所)でジム入会。MPでモモの相手が分かる、主役と脇役について。PP2、試合でモモがドロップキックを決める。

感情の流れ
:彼氏にフラれ自暴自棄に→更に不幸が→自分は脇役だと認識→ジムでドロップキックに魅せられる(フラれた悔しさがベースにあり、ここの感情がよく分かるのが良い)→幼馴染に彼氏を取られており、脇役だと自嘲→その彼女に謝られ怒り→自分の望む脇役として(主人公が思うところの)主役であるモモの恋を手伝うと決意(この辺りも気持ちの流れが腑に落ちて応援できる)→元カレに情けをかけられ悔し泣き→(実は脇役だった)モモのドロップキックを見て奮い立つ→自分もドロップキックを決め、脇役でも主役になれる、と前を向く
(とても分かりやすく筋の通った感情ライン、ただこのタイプの話はキャラ立ちやクライマックスのひと工夫が無いとありきたりになりそう)

クライマックス
:モモの試合にやってきた主人公は我を忘れて本気で応援する。モモがピンチになりながらもドロップキックを決め勝利するのを見る。脇役(ヒールのモモ)が主役になる瞬間を自分に重ねて見る。
珍しいタイプのクライマックス。

シナリオ構成的な気付き
:まずフラれて、フラれたあと飲んで路上で寝込み、そのとき見た夢として手っ取り早く彼氏との過去を凝縮して見せているのが上手い。
路上で寝込んでモモに助けられ、その時のジャージを返すためにジムに行って入会することに、という流れもよくあるけど上手い、韓流ドラマなんかで見たような気がするようなシーン。台詞中の()の芝居指定が多いのはちょっと気になるけど、それも味かもしれない。
それと、やはりこのくらいのお話のサイズ感、設定が1時間には適していると感じた。欠落と欲求を抱えた強烈なキャラクターが主人公、現在進行系の悲劇が起こる(そんなに重くはない)、自分の憧れとなる人物との2人の交流がメインであり余計な人物は出さない、そしてドロップキックという象徴を絡めて話が進み、クライマックスを経て主人公が変化する。過去の複雑な設定や背景などがほぼ無いため、現在の展開と気持ちの流れ、主人公の人間ドラマに集中できる。

佳作:「希望が眠る島」
あらすじ:三重県の答志島を舞台に、寝屋子制度を絡め、友人を亡くした少年と、亡くなった少年の母親との、葛藤と贖罪の物語。
選評抜粋心の痛みというテーマを正攻法で正面から描いており好感 / 事故があってから3年間のスパン(の心の動き)が何も考えられていない、一週間後のよう / 全員作家が喋っている、登場人物が喋っていない / 出てくる父親2人がどっちがどっちだか分からない、母も子供も全部作者が喋っている / 人物設定が類型的なのが欠点 / 最初に少年に何があったかバラしてから話が進むのがもったいない、バラさずに進めた方が良い / テーマや題材はいいが脚本力が圧倒的に足りていない / 1時間でこの大きな命題に答えを出すこと自体が難しい / 凄いテーマに果敢に挑んだ姿勢は良い
奨励賞:「絶滅危惧種人間の反乱」
あらすじ:フリーのルポライターである主人公が、ヤマンバギャル、靴磨きなど「絶滅危惧種人間」の取材を進めるが、自分も絶滅危惧種だと言われ。
選評抜粋:登場人物が多く群像劇風になってしまっている / キャラクター描写が好きなのか、キャラを描写して終わっている / 着眼点は面白い / 素材はゴロゴロある / キャラクターを深く掘り下げて欲しかった / 登場人物が多いので散漫 / 人に対する興味、想いをドラマにしようとしたところは魅力
奨励賞:「幽かな友だち」
あらすじ:定年退職後、妻の尻に敷かれやるせない日々を送る主人公。ひょんなことから幽霊の野中と出会い、その姿は主人公にしか見えず、遺体が荼毘に付されるまでに彼に代わり彼の妻にメッセージを伝えようと奮闘する。
選評抜粋:幽霊設定はよほど新鮮でないと…… / 幽霊のルールがおかしい、大嘘を付くのだから細部のルールはきちんと / 手練れていて落語を聞いているような、読みやすくて入ってくる / 作者のこだわりが薄く、書きやすい、書けるレベルのものを書いている / 大事なところが先送りされている
その他最終候補作:
「から揚げ、あの夏。」生物教師の主人公が、からあげ屋の匂いで小学校時代のヒナの飼育を思い出し命の循環や自然の摂理を学ぶ。
(あまり推した審査員はいない / 主人公の一生懸命さは良い / からあげを通じて命を考える子供の姿が丁寧に描かれていた)
「実況!」ヘタレなせいで就職活動が上手くいかない主人公のもとに、生前アナウンサーだった曾祖父の霊が現れ実況しだし……。
(実況でヘタレを克服するのが理解できた、発想が新鮮 / アイデアは良かったが、最後に主人公がいきなり実況を上手く出来たのが違和感 )
「契約母16才」10歳の少年涼太は頭脳明晰だが母親を事故でなくし他人との交流が苦手。父が契約母を雇うと、居場所のない茶髪の少女が現れ心を通わせ……。(何を描きたいのか、物語として成立しているか欠点の多い脚本 / 作者はキャラクターを台詞一発で描く持って生まれた感覚がある / 設定に無理がある点が多く漫画チック / 台詞を作る力はある / ライトノベル向き)
「この川を下れば、きっと海に行ける」小学校6年と3年の姉弟に両親の離婚話が降りかかり、父の会社の再建のため祖父の田舎に会いに行くが……。
(子どもたちの台詞が良い / 両親の造形を頑張ってほしい / アクションで心情を表現するところなど随所にグッと来た / 要素が多すぎる上、無理やり極端な設定)
その他総評・次回へ向けて 抜粋
※この年は各作品の選評のみ 

         ※引用元:月刊「ドラマ」2015年12月号 映人社

■2014年「川獺」他

大賞:『川獺』 NHKオンデマンド映像リンク
あらすじ:名門小学校の教師が、かつて実父が関わった偽カワウソ騒動に巻き込まれた苦い経験から、生徒の自殺の真相を知りながら口をつぐみ……。
選評抜粋: カワウソの話と小学校のイジメ問題がラスト見事にリンクした / 要素の多い話をうまくまとめている / 構成的に並びをちょっと変えた方がいい、SDカードの映像は絶対必要(写すべき) / 日本の原風景の漁師の怒り、夏休みの友人の死など、雰囲気がある / 映像化は相当難しい / 非常に要素が多くきちっと整理しきれていない / 主人公の心情は揺れ動いていていいが、一貫性の無いところなど表現が不十分、だがそれ以上に総合点としてストーリーが優れている

【大賞作品感想】
雰囲気がある、という選評に深く頷ける、昭和の原風景に残した父の過去が主人公の今に暗い影を落とす、という大変好きなタイプの設定を活かした物語。
過去16年分の中でも、力強い人間ドラマ、というよりは「お話」、ストーリーの面白さが際立っている作品だった。配置した要素が多いためそうなっている。
しかしなんと……! この作品の映像では(※まだ見れていないので後ほど見たら更新)、「主人公が(過去の苦い経験があるため)勤める学校の自殺問題に頑なに口をつぐんでいるが、父の真相を知り最後には変化して自分の処遇を顧みず真相を記者に明かす」というくだりが全カットらしい……。
確かに要素が多いため、表現しきれないという判断だったのかも知れないが、(まだ映像は見れていないものの)それでは本当にただの「お話」(父親の過去はこうでした)になってしまうのでは……。
この辺りは映像化の問題であり、シナリオの受賞とは関係なく、逆に言えばシナリオは映像化とあまり関係なく選ばれている(全く関係ないとは思わないが)、という点ではまあ、良いのか……とも思わなくもない。ただ主人公が過去に傷を抱えていて間違った行動をしている、その原因が父のカワウソ騒動である、そしてシナリオではパラレルに進み最後にひとつになる、という図式がとても良かっただけにもったいない。
とにかくシナリオとしては、この図式をサスペンス調にまとめ、父はただ嘘を付いていたわけではない(「ビッグフィッシュ」的な)という、父の権威が復活する話、父と息子の話になっており、その構図には弱いのでたまらなかった(なんせ好きな映画上位に「フック」が来るので)。
シナリオでは教師をクビになる覚悟で真相を明らかにするラストが、父が守りたかったものの対比として非常に効いている(そもそも父のカワウソ騒動のせいで、教師になって自分を保っているという設定もかかってくる)。実際にクビになるし、父とは和解せず亡くなってしまう。その切ないラストの美しさだけでグッとくる。要素のまとめ方も上手いものの、大筋として「嫌だった父の過去(実は父が守りたかったもの)を知り、自己犠牲を行う」という鉄板の構図のラストが美しく決まっているのでそれだけで強い話になっている。鉄板の構図は上手く決まればやはり強いのだ……。
そしてそこに昭和の原風景、高度成長の痛みとそこで失われていくもの、などが関わってきて、それが現在とも巧みにリンクしているので、全編の芯が通っている。こういう話の構成は好きだし、この構図を使うと、それぞれの年代が重みを持って最後に響いてくる(父子で年代を超えて受け継がれていくもの、過去の風景が現在の問題にリンクしてずっしり効いてくる)。なので、読後感の余韻が凄い。
50分弱でこれをまとめる技量は凄いし、この構図の見せ方は大変参考になった。その点はもうとにかく好き。これが物語の雰囲気があるということ、自分の仕事でもよく「色気がある」という表現をするが、これか、と思った。
どちらかというとテレ朝に向いてそうな作風というか、「相棒」やサスペンスをすぐ書けそうな方だと感じた。

【シナリオ構成】
キャラクターと人物配置:主人公(29)とその父がメイン。主人公の現代の小学校のイジメ問題の関係者として、理事長や同僚。父の過去編として、父の幼馴染やその家族。そして過去と今を繋げる役割として、現在の問題の真相を追求しようとつきまという弁護士、最後に真相が明らかになるための父の幼馴染の母、という配置。完全に世代ものサスペンスの配置。

三幕構成:PP1、自殺の真相を隠すことを糾弾される。MPで父の田舎を訪ね、父の幼馴染の写真を見つける。PP2、父の行動の真相が明らかになる。ラスト、変化しクビ覚悟で真相を明かし教師を辞める。

感情の流れ
:主人公は父のカワウソ騒動にうんざりしているため、学校のイジメ問題に関わろうとしない→弁護士に糾弾されるも断る→父の病状が悪化し帰郷を催促される(が、今の問題があることから帰れないと考える)→真相を明らかにすることはやはりできない→主人公が地元に戻ってくる→意識のない父に会う→父の騒動の真相を探ろうと考える→父の幼馴染の母に会い、真相を知る→父が守りたかったものを知り、変化する→クビ覚悟で真相を明かす

クライマックス
:サスペンスの作風なので、父の騒動の真相を知る、がクライマックスとなっている。疎んでいた騒動に実は切ない真相があったこと、父が守りたかったものを知る。

シナリオ構成的な気付き
:サスペンスとして過去と現在を行ったりきたりしながら描く構成が非常に巧み。刑事モノサスペンスが得意ではないので、こう書くのか、と参考になった。フラッシュ的な回想の挟み方も適切。主人公のイジメ問題に対する呵責と、父の件のトラウマから騒動に巻き込まれたくない、という主人公の気持ちの葛藤があって、それが縦軸として、ちょうど良い塩梅で揺さぶられる様がよく描けている。

佳作:「終のこと」
あらすじ:35年間、夫と義母の介護に明け暮れてきた主人公が、ようやく自分の道を歩き出した矢先に、今度は実の娘が若年性痴呆症と診断され……。
選評抜粋母と娘の葛藤をちゃんと描こうとしている / 母親が認知症かと見せかけて実は娘が認知症という展開の面白み、母と娘のぶつかり合い / 娘のほうが認知症という展開が展開上入念に仕組まれている / 母と娘の葛藤が非常にリアル、痛いしシビア / 母親が一時間の中で変化し、関係が変化する様がよく書かれている / 介護し続ける気持ち、逃げたいけど逃げられない気持ち、娘がそうなったときに最後引き受ける母の気持ち / テーマがテーマだけに切迫感があり重苦しいが、もうひとり別のキャラクターがいてもいいのでは、もう少し表現の幅が広がる

※設定が面白い上にかなりシビアな話で、これぞ正統派ドラマという感じで読んでみたいと思った

奨励賞:「夢見る朝顔」
あらすじ:中学生の少女2人と、アーチストになることを諦めた青年のひと夏の物語。
選評抜粋:作者のセンスの良さは第一 / リズム感があり、台詞もテンポが良くイメージが浮かぶ / 3人のキャラクターが非常に面白く描けている、ただ三角関係プラス若い男の夢の追いかけ方、というのは既視感 / 台詞が非常に上手い / 最初から最後までマンガ、コミック感 / 才能としてはいちばんある、クオリティーも高い / 主題が弱い、もう少し強い主題があればグランプリ / 葛藤が薄いのでマンガっぽい、キャラクターが幼い
その他最終候補作:
「ルーツ二分の一」DI(非配偶者間人工授精)で生まれたOLが、自分の生殖上の父親と探そうとするなか、同じくDIで生まれた医師と出会い……。
(扱う題材としては現代的で面白い / 描き方が登場人物2人により添えない / 非常に難しい題材、難しい展開……、説明のために喋りすぎ / 主人公の気持ちが、なぜ父親を探すかが書けてない)
「僕と俺の罪悪感」箱根駅伝を足の故障で棄権した大学生が、実家近くの小学生と触れ合い陸上を続けることで、自らの罪悪感と向き合おうと覚悟を決める話。
(題材として新鮮味があるかどうかは疑問 / 普段教室で読む生徒の作品と一線を画していてほしいが、画しきれていない / シンプルだが登場人物の行動に力強さがあり、交流が素直に描かれている / 少年がなぜ自転車に乗らないといけないのか、そこが描けていない)
「あひるのリベンジ」恩師の葬儀に出席した男性デザイナーが、元同級生や元校長と三人で、見知らぬ相手に恩師の遺品を届けに行く話。(ロードムービーの面白さを工夫すればもっと良い作品になる / 会話のやり取りで済ませていたりして惜しい / 狙いは面白い / 意外性というのはびっくりする事実ではなく、心情ラインの中での大きな変化
「結いの義姉妹」結婚を控えたOLが、山形鶴岡に残る「けやき姉妹」という風習で義姉妹になった幼馴染を救おうと、祖母に言われるまま奔走するうち、婚約者との絆も深めていく。
(けやき姉妹という風習の面白さ / ありがちな話から抜けきれていない / キャラクターはそれなりにハッキリしている / あまりにもコメディに行き過ぎていて、けやき姉妹という風習の切り口を間違えている)
「飛べない奴ら」身に覚えのない罪で解雇された男が自殺を図ろうとしたとき、見知らぬ男から人殺しを依頼され、いつしか死ぬつもりだったことを忘れ……。
(事故の加害者の女の開き直り加減とか、被害者の両親が加害者の女と和解していってるとか、とにかく普通と違うことをやろうとしていて好感 / リアリティに欠けるところは問題 / 巻き込まれ型だけど意外なキャラクターを割り振っている個性的なドラマ / 振り切れておらず中途半端、悪ふざけに感じる / 人物像が浅い)
その他総評・次回へ向けて 抜粋
書き手にとって切実なものが描かれているかどうかが基準 / 皆ト書きが下手、ト書きをもっと考えて書いて欲しい、ト書きが良いとリズム感があって高得点が取れる / ト書きは「詩を書くように書く」 / 光と影を書く。向田邦子であれば「カーテン越しの朝の光のだんだら模様に斜めに光がなだれ込んでいる」 / 自分が書きたいことがあったら、必ずどこかで破綻とか難しいところが出てくる。そこで諦めて無難なストーリーに流れるか、頑張って突き抜けるか、というところで作品に力強さが出てくる / 結局、意外性とかどれだけ人間が書けているかが勝負 / 気持ちが変化していくのがドラマ / 思いもよらないものが読んでみたい / ドンデンではなく、人間の不可解さとか、想像と違ったもの / こういう時にそういうことを人は言うのかも知れないな、というような思いもよらない展開と台詞に出会いたい / まず書きたいものを書くのがいちばん大事 / ドラマとは人間を書くということ / 人間を書けるようになるにはどうすれば……これはもう、日々を生きる中で個々人が掴もう

         ※引用元:月刊「ドラマ」2014年12月号 映人社

■2013年「佐知とマユ」他

大賞:『佐知とマユ』 NHKオンデマンド映像リンク
あらすじ:母親に捨てられたという記憶を強烈に持つ二十歳の佐知。一七歳の家出少女が居候するようになり、妊娠していて、いつの間にか気持ちを合わせるようになり出産を手伝い、別れた母親との再会を果たす。
選評抜粋:とても良く出来たお話だが、数年前の大賞作「夜明けのララバイ」の構造に似ている。寂しさの作り方や人間関係の作り方も既視感 / 佐知とマユの描き方、台詞も上手い、シナリオのレベルが高い / 対象的な女の子を対立させ友情を成立させる話でパターンではあるが、面白く読ませており力がある / 母親の出し方が中途半端。もちろん安易な決着は無くていいが、もっと主人公たちに関わって欲しい / 自分を捨てた母親を許せるか、というテーマは1時間では難しい / そこまで上手く書けていたのに最後の出産で母親が手伝う必要があるのか、バタバタと収めてしまっている / 母親がいない中で出産させたほうが、母親の想いがフィードバックできたのでは? / 非常に既視感のある題材だが、本人の筆力によって、ありがちなところに陥っておらず、甘くない / 母親が助産師を目指していた、というのはある意味描き過ぎでは?(※この台詞は決定稿および映像でもカット)

【大賞作品感想】※この年のみ、2016年6月号に別途掲載の「決定稿」を先に読んだため、決定稿(ほぼ映像と同じ)での印象で記載(※また、作者は後に「百円の恋」を書く足立紳氏)
選評にもあるように、ありがちなところを回避して今までにない話になっており、脚本としての表現のレベルが高い。
例えば主人公が(過去のトラウマから)マユの妊娠判明時に病院について行って即堕ろすことを提案して聞くくだりなど。この辺り予定調和になると悩んだりするところが、即断で堕ろすことを聞いている。予定調和を突き破るこういったキャラクターの一貫性、行動描写が上手く、それによって驚きを持ちながら読み進められる。選評でも触れられている通り、その点コンクールではレベルが高いな、例年と一線を画している、と感じる脚本だった。
こういったキャラクターの独自描写は枚挙にいとまがないというか全編そうなっており、気を抜くと安易な描写に流れがちな自分にも驚きがあった。
そしてキャラクター自体が強烈。佐知は人との関わりを絶っており、スーパーでひとり佇む小さい女の子を助けようともしない。公共料金の支払いも止まっている。マユは38円のコロッケ2つを買い、3000円で見ず知らずの男に援交を持ちかける女(援交していることは決定稿および映像ではカット)。
また、それぞれ描きすぎていない。これも上手い。例えば冒頭十数分、主人公である佐知の台詞はほとんど「……」である。驚異的な「……」の連続。これでも厭世的な主人公の描写としてしっかり成り立っている。
それから初稿と決定稿、さらに映像化の流れにおいて、心情を直接表現している台詞がどんどん削ぎ落とされて映像で魅せる流れになっている。これも興味深いというか、そこまでカットしていいのか、書かなくていいんだな、というのが分かった。ただそれはもちろん、それまでのキャラクター描写、展開によって自然と心情を理解できる作りになっているため。
キャラクター描写、人間としての一貫性、安易な予定調和を回避する展開。これら学ぶところの多い脚本だった。
ラストの出産に母親が立ち会うところだけは、たしかに最後まとめた印象は少しあって、別の形でも良かったのかもしれないとも思えるがそれまでのキャラクター描写の積み重ねがあるので自然と感情移入が出来てグッとくるものがあった。ただ母親が看護師を目指していた、という台詞がカットされているので、そこにいてバッチリ手伝える流れが多少唐突。
それでも映像版では門脇麦さん演じる佐知が素晴らしく、完璧に脚本を解釈していたおかげでさらにグッと来た。マユは広瀬アリスさんが少し上品さが出てしまっていてもっと貧民ギャルが似合う配役でもいいかなという気はした(色々活躍されている今、昔の映像を見ているからかも)。

【シナリオ構成】

キャラクターと人物配置:佐知(20)とマユ(17)その父がメイン。そして佐知の母親由美。マユの彼氏。あとは佐知の勤めるスーパーの面々とスーパーの客。ほぼ佐知とマユ、母親で展開するソリッドな配置。

三幕構成:PP1、マユが佐知の家に転がり込んでくる。MPで中絶についての決意等。PP2、由美と佐知の出会い(からのマユの出産)。そしてラスト、希望を感じた佐知は変化し客の少女に少しだけ優しく関わることが出来るようになる。

感情の流れ
:佐知は母親に捨てられたトラウマがあり、かなり厭世的で人との関わり合いも面倒そう→マユが勝手につきまとい家に上がり込んできて、嫌々ながら交流が始まる→母親の記憶や、金をせびる叔父の描写で佐知の孤独が描かれる→佐知の妊娠が発覚するが(自分の母のこともあり)堕ろすことを提案→佐知とマユで大量の餃子を食べ(安い餃子パーティーというのもキャラクターに合っていてとてもよい)似た境遇を明かし打ち解ける→中絶のお金をせびろうと母に会いに行くが優しい言葉をかけられ反発する→マユの出産が訪れてしまう、由美が居合わせて手伝う、マユが良い母親になりそうで希望を感じる→ラスト、少しだけ人と関わるようになる

クライマックス
:由美と出会い気持ちを消化しきれない佐知は走って逃げ涙を流す。そして由美とともにマユの自宅出産に立ち会う。

シナリオ構成的な気付き
:とにかくキャラクターを突き詰めて描けているので生きている人間としての独自の一貫性がある。これによって展開も予定調和にならずに進んでいく。台詞も非常に上手い。
キャラクター描写も底辺のリアリティが凄まじい。その筆力が圧倒的なので、それ以外の気付きの前にキャラクターに魅了される脚本。佐知とマユの出会いや進展も受賞シナリオと放送決定稿では多少変わっているが、芯がブレていないのでそれほど影響を受けていない。
相当に底辺のキャラクターたちで、ダメでありイヤなやつでもあるのに、これほど魅力的に映るのはそこにリアリティがあるからなのか、おそらくそれだけじゃなくて底辺ながらも独自の美学、感性が貫かれているからで、作者の人間を見つめる眼差し(これは「百円の恋」でも一緒)なんだろうと思う。これは下手に影響を受けると火傷するというか、底辺を描きながらも清々しさを残すキャラクターの秘訣、何を描いて何を描かないのか、は作家性であってテクニックではないんだろうな。これはもうただただ好き。

佳作:「わたしも連れてって!」
あらすじ:夫を亡くしたお婆さんが案山子を作っていくうちに、案山子が夫に、子供も案山子として蘇る。その妄想の中で夫と対峙していく。
選評抜粋この作品のフィクション性、妄想で遊んでみたいと思わされた、作家の優しさ、持ち味 / テクニック的には修正が必要だが、ひとつ気持ちに筋が通っている / 幻想的で美しい映像が思い浮かぶ / 主人公の老婆が喋りすぎだが魅力的 / おじいさんのとぼけたキャラが面白い、恋愛を「おっかない」と表現するなど、書ける人 / 妄想のルール、ファンタジーのルールが見えづらい / ファンタジーの何でもありになってしまう難しさ、ドラマは悪くないが、何でもありじゃないという縛りがあればより感動的になったのでは
佳作:「祭りィだよ」
あらすじ:イジメによって自殺した少女を巡って、ネット住民が制裁を加える。ベテラン記者とネットに慣れた若い記者のコンビが関わっていく作品。
選評抜粋:作者のメディア批判が随所に見られる / 古い日本の祭りから、現代の祭りはネットの炎上、と繋がる冒頭2Pがいい / (相当議論になったが)主人公が明確ではない、主人公の炎上への関わりが薄い / 読後感として、今のメディアについて誰かと語り合いたくなる作品、素材として魅力的 / 習作の中の秀作で、映像化したら面白くないのでは? ただホンとして、映像台本である、という書き方をしていて新しい(※脚本家の意見) / ネットを正義でもあり悪でもあると描いているのはいい、ただネットをやっていれば誰でも知っている以上のことが無かった / 現実をそのまま書いているだけ、ドラマ性や創造性がなくダメ / 冒頭の現状紹介はコンパクトにして、主人公が野次馬的に見ているのがもっと巻き込まれる、という形にしないと / ネット炎上にも正義がある、という描かれ方はいいが、ただ現象を描いて終わっている。葛藤やドラマがない。結末もやや典型的で安易。

※この作品はシナリオ教室掲載分を読んだ。「ネット炎上」という、扱いたくなるけども画一的な表現になりそうな話を、構造や表現の仕方を随分思い切りよく作って表現していた(確かにドラマ性はその分弱い)。作者インタビューでもこれが分かるか、と叩きつける気持ちで書いたことが伝わってきて、こういう作品の在り方は素晴らしく、表現の仕方も見たことがない感じで良かった(ドキュメンタリーに近いというか)

その他最終候補作:
「ダークブルー」生涯孤独の青年が仕事をやめたのを機に旅へ出て、色んな人と出会い、故郷の岡山に帰る。
(ロードムービーの面白さ / 前半のロードムービー部分がとても面白い / 早くに話しのネタがバレてしまうのが惜しい)
「監視カメラが取り付けられた家」監視カメラが取り付けられたと妄想を抱いている老女に保健婦見習いの主人公がどう向き合っていくかというお話。
(コミカルなタッチで面白いが、老女と主人公の深い絡み合いがあればよかった / 保健所の情報はとても描写がきちっとしているが / 作者がどう捉えているかの目線がわからない / 人が人を監視する世の中について書いているのはいい)
「コッコちゃん」11歳の女の子が曾おばあさん田舎を訪ねて、鶏のコッコが卵を生む、少女とおばあさんと曾おばあさんの触れ合いの話。
(おばあさんと曾おばあさんと両親がいる環境の発想はすごく面白かった / 作者のテーマが途中から混在となって不明瞭 / 鶏が気持ち悪い(映像にすると) / 色んな事をやりすぎて何を書きたかったのか)
「まっすぐな寄り道」不動産屋でアルバイトをする27歳の女性が主人公。客の職業や住まいを妄想するのが救いになっているが、ある日おでん屋で男性と知り合い……。
(台詞の運びはいい / 全体としてふんわりとした話で良いが短所でもある / 嘘がバレるところをもう少し残酷に / 話の入りが遅い / 等身大のお金のない若者の気持ちがリアル / 肝心の男性との距離の詰め方が予定調和)
「受容」エステの広告塔として姑と夫と共に働く女性が、妊娠して出産前検査を受け、最後にはダウン症の子供を産む話。
(デリケートなテーマに真摯にテーマに向き合っている / テーマが今過ぎて、この題材が起きたらこの悩みで、こういう風にまとめざるを得ない、というのが見えすぎるのが引っかかる / こうなるんだろうな、というところに落ち着いてしまっている / このテーマを選ぶならよほど覚悟を決めないと)
「桜縁」自分を捨てた父親の遺骨を受け取る状況に陥った主人公が、どう処理しようか迷い、最終的に樹木葬を選ぶ話。
(グランドの石灰にしようかという不謹慎さが面白い / 展開もテーマ的に脚本のレベルも高い / 自分が新人の頃に書きそうな話(尾崎氏)、骨を持ってウロウロする様子をユーモラスに描き、最後には収まるところにウェルメイドに収めている / 父が想ってくれていた、というのが安易で作った話という感じで甘い、親子というのはドロドロの葛藤の中で何かを掴む構造)
その他総評・次回へ向けて 抜粋
親に捨てられた子の話が多い(以前は地方に行って自分を発見、幽霊など) / 何を書くか、で8割方決まる。自分が書きたいことを書くのがいちばんいい。それを見つけられない人が多い(プロアマ問わず難しい)。生活の中から見つけていくしか無い。自分が何に迷い怒っているのか、向き合うしかない / 過去ではなく現在進行系で先へ進む話を / もうちょっと斜めから見て、切り口を考えて欲しい / 構成をしてきちんと書くべきことを書いて欲しい、それとは別に新人には、全体と関係なくても面白いシーンや台詞を書いて欲しい / 他者と徹底的に向き合っている作品好き。向き合って向き合って思いもよらないところに到達して欲しい / 主要人物がまともな人が多い、突拍子もないキャラが欲しい / (「祭りィだよ」は構造が衝撃的だったが)出てくる人がもっととんでもない魅力、思いつかないキャラが見たい / テーマはいいのに、どの側面から見るか、をもう少し考えて欲しい / パワーを持ってセオリーから外れていかないとセオリーには勝てない / 賞を獲るためだけのものではない、表現したいものをぶつけて欲しい / 1時間のドラマが今無いので、見る機会がなく、皆さんどうしても構成が甘くなっている(ので単発1時間ドラマ枠を作って欲しい)

         ※引用元:月刊「ドラマ」2013年12月号 映人社

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