見出し画像

読書感想文①「ママがいい!」

ママがいい!母子分離に拍車をかける保育政策のゆくえ」(2022)
松居和 著 / グッドブックス出版 出版
請求記号:376.1 (幼児・初等・中等教育)
・・・内容的に367(家族問題. 男性・女性問題. 老人問題)とか373(教育政策. 教育制度. 教育行財政)じゃないかしら?と思わなくもないが

あらすじ
「エンゼルプラン」や「子育て安心プラン」など美しい言葉の裏で、保護者から親として育つ機会を奪い、母親をパワーゲームへと引き込み、保育がビジネス化されていく。「教育や福祉」と「家庭」は共存できるのか。後戻りができない一線を越えようとしている保育現場を、救う手立てはあるのか。
(はしがきより抜粋)

子どもがいるからというのもありますが、やはり目につきます、この手のタイトル。「母性愛神話」とか「母子分離不安」なんて言葉も耳にしますから、乳幼児期を過ごす子どもの目に今の自分がどう映るのか、映っているのか、不安にもなります。本人には聞けませんから。
ただ、私は大雑把な性格でもあるので最終的には「まあ育っているからよし」と思いますし、私の子どもも私に似て(?)天真爛漫な2年目にしれっと突入してくれたので、大きな不安は取り立ててありません。

ただし。
ただし、です。去年の春から保育園に入園した我が子が初めて同年代の子に囲まれている姿を見て、やはり無意識にでも比べてしまう自分がいます。言葉の発達、運動能力、食事の進み方、成長度合い、そして母子分離不安。
初めのうちはお預けの段階で泣いていた我が子も、1週間もするとそれをやめ、最終的にはバイバイと手を振れるまでに。むしろなじむのが早かった我が子は先生に「楽しそうに過ごしてますよ」と評価されるほど保育園に通うことを受け入れて(?)くれています。
まぁ企業主導型保育園で働いている私ですから、完全に母親と離れる通常の保育園とはわけが違い、ちょっと探せば母親の姿は見えるわけで、完全な分離ではない環境を持ち出して分離不安て・・・と言われてしまえばそれまでですが、そんな我が子でもお帰りの時にお迎えに行けばひしと抱きついて母を迎えてくれますし、他の子を連れて帰ろうとするとうわんと泣きます。
そうやって自分が我が子にとっての安全基地として機能している証拠を少しずつ集めながら、「この子は大丈夫」と言い聞かせている自分がいます。それくらいには気にしています。

そもそも子どもの発達には無知な私です.。どの月齢でどんなことができて何をしたらどんな反応をするのか、定型発達と言われる発達曲線に自分の子どもがどれだけ沿えているのか、調べない限りわかりませんでした。ただし、調べる時間もない・・・わけではないけれど、すいません、正直面倒くささが先行してすべて専門家任せにしていたことは事実。
原始反応から始まる赤子の発達を調べることは、ずいぶん初期の時点で諦めていました。吸啜反応、パラシュート反射、モロー反射に把握反射。こんなのいちいち「できた!」「まだできない・・・」なんて反応してたら身が持たない、それより寝たい、というタイプのずぼらな母だったので。
子どものせいにするわけではありませんが、我が子があまり手がかからなかった事も大きな要因のひとつでしょう。生活時間は規則的だったし授乳にも問題はなかったし、夜泣きも世間一般の親が辛いとこぼすほどしなければ、離乳食も問題なく進みました。初めての3か月検診は10分とかからず、医者すらも40オーバーの初子育て母を、笑顔で「問題なし」と太鼓判押すほどに母子ともに心身の健康が保証されていたほどで、だからどこかで高をくくっていたのも否めません。

それでも保育園に通い始めて、同年代の子どもの中で遊ぶ我が子を見て、さらに初めて専門的な他人の目で我が子を客観視してもらったことで、「我が子の位置」というものが少なからずわかってきました。
元気で明るくよく笑い、物おじせず好奇心旺盛。手先が器用で集中力がある。写真が苦手でカメラを向けられると真顔になり、悪いことをすると愛想笑いでごまかす。偏食が強く、我も強い。
保育園に来て初めて知ることは多く、それが成長でもあり、それを気づかせてくれた先生や保育園に、私はとても感謝しています。たとえそれが企業主導型保育園であったとしても、在籍する保育士が保育士免許取得から数年しか経っていない、他の園を経験したことがない新米の保育士さんであったとしても。ここに通っていなかったら決して見ることのできなかった子どもの成長を、私は目の前で見せてもらえているのです。

前置きがかなり長くなりましたが、今回読んだ本では保育がビジネス化することで様々な形態の保育施設が乱立し、そこで働く保育士(あるいはアルバイト)の質が低下し、結果そのしわ寄せが0歳から預けられる何もわからない子供の成育に悪影響を及ぼす・・・と。

わからなくもないです。
実際、色々な事件が報道され、明らかに保育現場にいてはいけない人間が紛れ込んでしまっている現状は理解できますし、見聞きするなかで保育者が100%天職である人間の集まりではないことも承知しています。ただそれは多分、どの業界でも言えること。だったら問題は、もっと別のところにある気も、するんですけどね。
ただ、人間の質を落としていった社会の負の影響を一身に浴びるのが何にもしらない赤子だということがこの問題の一番の肝で、それを無視して経済重視で「一億総活躍プラン」とか「輝く女性」とか言ってしまっているおじさんたちはそこのロジックを解っていないんだろうな、というのが一番の問題なんじゃないかな、と私は思うのです。

私が勤める保育園の先生は、いつも保育の立案書や活動記録に四苦八苦しながら、でも活動時間は全力で子どもと遊び、備品を整備し、保護者対応をし、他の保育者にも助言をし、時に厳しいことを言いながら常に笑顔でいてくれます。そしてそれをするためにプライベートな時間を割いて勉強しながら、時に悩みながら、他の保育者と相談しながら、真摯に取り組んでくれています。私はそれを、目の前で見ています。

だからこそ、とても疲れているのがわかります。急な休みで保育者の数が変われば自分のシフトを調節して合わせたり、立案が立てられる先生が少ないため常に書類と格闘しています。人間の集まりなので保育者間でも軋轢があり、その調整さえも任されます。保育士免許のない保育補助者がほとんどなので、「保育士」という言葉の責任が常に付きまとい、その重責の中でうまく立ち回ることを求められています。
ブラックです。超ブラック。
保育という現場がすでに、何処に行ってもブラックです。
たとえばここで、経験のある保育士がひとり入って現場を回してくれたら、書類専門で事務や庶務の仕事をしてくれる人材がいてくれれば、常にコミュニケーションがとれる連帯感を保育者の中で育てていけたら。たらればたられば・・・。そんなたらればを叶えてくれるのが人の心の「余裕」なんじゃないかと、この本を読んで思いました。

食事、昼寝、活動、それらすべてに「しなければいけない」決まりが様々な方向から突き刺さり、さらに命を預かる現場ですからその精度も求められます。児童憲章が謳う「児童の最善の利益」の追求はすばらしいことだと思いますが、それを求めるためには常に日々立案し、一日が終わればそれを記録し、真面目な保育士は少しでも頑張ろうとプライベートな時間を削り勉強し、それを子どもと照らし合わせ、また立案に落としては子どもの様子に目を光らせています。
それを毎日です。絶対疲弊します。人の命を預かりながら、その成長にまで気を配らなければいけない。怪我だってさせたくはないけれど、すべてを禁止するような監視体制では伸びないことだってあるから、そのギリギリを見定めながら常に子どもに気を配っています。
先生頑張ってます。もちろんみんなとは言いません。みんなだったら耳を塞ぎたくなるような事件は起きないだろうし、実際「え、散歩中に何してるの?」と二度見してしまうような光景は見なくもないです。全員ではないです。それは解ってます。でも頑張ってるんです。

確かに、「ママがいい!」かもしれません。でも、そのママの手が届かないところを助けてくれている保育士をそこまで否定しなくても・・・とつい熱くなってしまいました、すいません。
質が落ちるというのであればそっちを補強してほしいし、それを無視して素人を現場に入れているのは保育園ではなく政策です。現場の先生たちはむしろもっと勉強したいと思っているし、免許がないからこそ気を使っているし、なんなら保育重視なんてせずにできればお家にいる時間を増やしてほしいとさえ願っています。お母さんやお父さんを恋しがって泣く子を見るたび、お迎えの際の眩しい笑顔にほっこりするたび、「ママ(パパ)が好きなんだね」と声をかけた時に曇りなくにっこり笑った顔を目にするたびに。

子どもたちの「ママがいい!」という願いを叶えるのは、親が頑張って仕事をして所得を増やして生活を豊かにする(なりませんけど)ことでは叶いませんし、ましてどんなに保育を充実させたところでその機会を逆に奪うことになるのであれば、保育業界的には「一億総活躍」やそこに繋がる「保育業態の細分化」は失策でしかないと思うんですが、でもそれを進めるんですね。児童憲章が謳う「児童の最善の利益」を無視するわけですね。

この本の中でも著者さんが言っていました。「1日保育を体験してみてください。」そして私の知り合いの現役保育士はもっと激しい口調で同じことを言っていました。「御託はいいからまず現場に来い。そして子どもを見ろ。」
当事者のいない閉じられた空間で経験のない人間が数字を根拠に論じている利権や忖度にまみれた決まり事を押しつけられている何も知らない子どもの現状は、果たして「最善の利益」を受けていると言えるのかどうか。



・・・・・・とりとめもなくすいません。書きたいことが脱線しすぎてまとめられなくなっています。ただ、本を読んでその記録をとることは学生時代からの趣味でもあるので、こういった投稿はちょいちょい残していこうかなと思っております。
ご興味のある方はお付き合いいただけると嬉しいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?