短歌とか詩とか20220216〜20230108

2022/02/16 17:24
夜の壁
死者がのぼれば
面影を
探す人びと
指をさすひと

2022/02/17 19:14
霧むせぶ
母の葬儀の
帰り道
すれ違うのは
あの日のふたり

2022/02/18 18:23
花は枯れ
アンドロメダの
風が吹く
砂漠の隅にも
この窓辺にも

2022/02/22 21:59
百歳の
赤子がむせぶ
廃屋で
遺影の母が
あやす声聴く

2022/03/19 20:12
花は燃え
砕けた岩に
眠る頃
知らないうたを
喉に残して

2022/03/22 17:26
星もない
ガソリン色の
川のそば
暗闇に撮る
家族写真は

2022/03/24 17:33
太陽が
眩しかったから
ぼくはもう
どこへでも行く
裸足になるために

2022/03/27 19:05
手触りが
いつか濁って
しまっても
きみは太陽に
ぼくの太陽になる

2022/03/30 00:30
小舟から
海辺の町を
眺めれば
乱視のひかり
点滅の海

2022/03/31 19:54
遠い日を
硝子の瓶に
閉じ込めて
思い出すのは
焼きそばの味

2022/04/08 00:31
昨晩の
まばたきもない
光もない
祈りのかたち
瞳に残して

2022/04/08 00:46
きっと何処かへ行く
寂しい生き物
停電の町
ラジウムの明かり
逆さまの太陽

2022/04/10 18:40
遠い日の
砂浜に立てた
パラソルが
モノクロームのまま
風にあおられて

2022/04/10 18:50
風になる
この痛みも
記憶のなかの手触りも
かなしみは砂だらけ
愛しているからね

2022/04/11 01:33
紛い物のミルク
銀貨2枚で買ってやり
人形に飲ませれば
泡立つ口もと
ブラウン管に映る女

2022/04/11 13:00
一瞬で100年
荒屋になった自宅
興奮してみつめる
おれとお前の骸骨
まだ飯食ってら

2022/04/11 21:03
人間を改造して
造られたラジオから流れる
悲しげな「ららら」を
終末に向けて採譜するひと
海沿いを走る青い車の中で

2022/04/15 02:11
去年噛んだ
熟れた太陽を
箪笥から取り出して
懐かしむ母の
背中は寂しい

2022/04/16 02:17
嵐の中を駆ける
愛しいおもかげを
忘れながら、壊れながら
幾千億光年のリレー
もしもその瞳に映れたら

2022/04/22 19:01
死んだ友達
粘土の時間
遠くで明かりが見えても
ぼくは行かないよ
ぼくは行かないんだ

2022/04/22 19:19
窓の外はまっくらで
反射した自分の顔に驚いた
まるで死を知っているような
なのに幼い面影を残している
ぼくは町に帰る、帰るんだ

2022/04/22 20:23
人家の明かりは灯台だ
暮らしが燃えて生きている
欲も汚さもうつくしさも
あるがままに照らされる台所
ぼくはそこにいきたい

2022/04/24 00:38
汚れたうたも
燃えるような眼差しも
いつかは冷たい土の中
愛してるだなんて言うなよな
グラスの氷も冷えちまう

2022/04/24 00:40
死亡した
身元不明人のポケットに
飴玉ふたつ、ネガひとつ
幼きこころを砕いたままで
歩き疲れて眠りについた

2022/04/25 20:40
きれいで、やましくて
なまぐさくて、激しくて
まっくらで、つめたくて
するどくて、かわいてる
そんな場所へぼくは行きたい

2022/05/28 20:00
真夏の路上
砕けた果実
電話の向こうで笑う声
汗をかいていた
ずっと汗をかいていた

2022/05/29 14:45
雨の季節がやってくる
乾いた土地の動物は
水のにおいによだれを垂らす
「次の朝には降るだろう」
舗装された未着陸の滑走路にて

2022/06/01 02:04
家族写真を燃やしながら
夢うつつの弟に
銀色の魚を握らせる
知らない女の葬列に並べば
錆びた釘2本よこしてくれた

2022/06/01 02:24
暗い夜だった
シャツは汗を吸って
霧が触れてくるようだ
大きな蟹が信号機の色で
赤くなったり青くなったりしていた
2022/06/05 14:59
愛してた、怒ってしまった時もずっと
うつくしい斜視、惑星が爆発したような瞳
裸足で飛び出してしまったきみは
すべての詩、すべての花でも表せない
また会おうねぇきっとねきっとね

2022/06/12 01:30
夜が朝に向かって手を伸ばす
荒野は生き物たちのリズム
銀河は堪えきれずミルクをこぼした
ぼくたちは何処からやって来て何処へ行く
産まれる前に聴いたうたを探す旅なのか


2022/06/21 18:20
何処かへ行ってしまったひとを
想う日は風が吹いて
いつも同じもの食べるんだ
かすれたかなしみはもう滲まない
だんだん星も見えなくなる

2022/06/21 18:35
あなたが死んでしまっても
ぼくはうたなんか歌わない
暗い部屋でぼんやり汗をかいて
細い光の思い出をしがんで
結局外へ出ていくんです

2022/06/25 21:38
ぼくが死んでしまったら
手紙も写真も焼いてしまって
ありもしない話をしてくれよ
きみを愛してた
とても愛していた

2022/06/27 01:15
死んじまった黒い馬
鋼鉄の肉体が汗ばんで
泣いている女の性的なこと
機械の太陽が沈んだら
あとは虫どもがただ幅を利かせる

2022/08/15 00:51
乱視の化物
いつか観た映画
海辺の家に飾られた造花
いつか死んでしまっても
おれはここに在る


2022/09/04 00:16
夏の夜は汗ばんで
知らない映画の音だけを聴く
いつか愛されたことを思い出せば
遠い光、坂道と蜃気楼
ペダルを踏んで消えていく背中

2023/01/07 12:11
ひとりぼっちの背中
皮膚はあばらに食い込んでいる
歌った うたにならないうた
喝采だ 彼にだけ聴こえた
不意の涙にうろたえて
昼となく夜となくねむった

2023/01/08 01:22
きみの青春を壊してまで
おれが存在することはない
太陽はいつも照らしている
おれは何処かで野垂れ死ぬんだ
名前も知られず うつくしいまま

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