わがままに愛して―Tocade ROCHAS―
香水が好きだ。
本当に小さなころ、母がお土産にもらってきたミニ香水のセット。四苦八苦してやっとのことでキャップをあけたその時から、私の香り探訪の旅は始まったのかもしれない。
そのちいさな、ふしぎな形のボトルの中には、私の知らない、魅惑的な小世界があった。
当時の未発達な嗅覚では、「いい香り」などとは少しも思えなかったけれど
それでもどうしようもなく惹かれたのを覚えている。
以来あれこれと集めて、とても使い切れないほど持っているのに、香りの世界への探求心は一向に収まる気配がない。
その甘美で果てのない世界にどっぷりつかって久しいが、最近久しぶりに、ハッとするほど美しく、しみじみと心地よい香りに出会った。
記念すべき一回目の香りのnoteは、その感慨を綴ろうと思う。
ロシャス トカードゥ
たとえるなら、艶やかな漆黒の巻き髪を腰まで垂らした、フレンドリーで情熱的なジプシー女性のイメージ。
バニラとローズという、最もポピュラーで一般的な素材の掛け合わせだが、それぞれがハッとするほど個性的で、華やかでいて心地よい。
つけたてはとっつきやすく、けれどもくどくないバニラの甘い香り。
時間が経つほどに、オリエンタルな雰囲気が漂い、唯一無二な華やかさに。
カテゴライズするならフローラルオリエンタルなのだろうが、特筆すべきはその厳選と試行錯誤の末の、絶妙な香りのバランスがなせる技。くせのなさや、シーンを選ばない使いやすさ思う。
香りに奥行きや複雑さが感じられるほど、つまりは高貴であればあるほど、纏うためのハードルは高くなりがちで
自然、人を選ぶものになりやすい。
例えばゲランがかつて生み出し、今なお愛され続けている100年選手の名香などは 数多の香り遍歴を経た通の鼻を多いに楽しませるが、いかんせん高貴さと格式の高さがすごい。
香りへのリスペクトがあるほどに、気楽には纏えない。
アラサーの小娘風情では、髪もお化粧も完全にドレスアップして、一等上等なローブをまとって初めて様になるような気さえする。
そんなわけで、このトカードゥである。
香水が好きすぎてマニアの域に達しているけども、ごく一般的な日常を送っており、且つ香水に避けるリソースが限られている。
けれどもどうしてもどうしても、
肥えた鼻を楽しませる「香りの快楽」にいつも包まれていたい…
そんなジレンマを見事に解消し、期待以上の陶酔感をも与えてくれる。
新品100mlで5000円以下でネットで買えるお手頃さながら、洗練された一流の香り。
これから香水を使ってみたいけれど、その辺の流行り物でなく、オリジナリティを発揮したい!
そんなわがままな欲望を完璧な形で叶えてくれる、珠玉の逸品。
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香りは、生まれる前の数多の生の記憶とつながっている。
もうずっと前から、そんな気がしている。
たとえば異国の地に赴いたとき、嗅ぎなれないその土地の香りを吸い込んだ瞬間に、見覚えのない記憶や風景が頭をよぎったり、強烈な郷愁を覚えることはないだろうか。
逆に、今生慣れ親しんだ香りなのにどこかよそよそしく感じたりすることは?
私はとてもよく、そんな風に感じる。
香水瓶のボトルをあける度に、その中に閉じ込められた世界観を頼りに、たくさんの時代を生きた記憶とつながっているような気がしている。
私は、ボトルがコレクションスペースに収まりきらなくなるたびに、本当に好きなものを除いて手放してきた。
そうしていくと、「香りの好み」の「核」の部分がどんどん浮き彫りになってくる。
例えば私の場合は、「ヴァニラ」「インセンス」「チュベローズ」あたりは欠かせない要素で、「ものすごく好き!!」な香りのものは大抵「オリエンタル」「グルマン」に分類されている。
そして大抵はこの国では全くはやらないのに、中東やヨーロッパ圏では大人気だ。
このあたりも、私がよく「見える系」のお仲間さんたちに言われるところの
「日本人的でない感性」「ジプシーのように自由な魂」「文化の交じり合った感じ」とリンクする。
こうして自分の「感性」や「個性」を手繰っていくのも面白い。
なにより心地よい香りは純粋な「快楽」だ。
この甘美で蠱惑的な旅はしばらくやめられそうにない。
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