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ヒトはなぜ勉強するのか?

2019年も終わりを迎える時期となりました。

本ノートを執筆している2019年は大変大きな自然災害が多数発生した年でした。

ニュースや天気予報で、「命を守る行動を!」ということばを、読者の皆様も幾度も耳にされた記憶があるのではないでしょうか。

ではなぜこのような「命を守る行動を!」という鬼気迫る表現で、人々に伝える必要があったのでしょうか?

それは、人々の命に関わるような重大な自然災害が「予想」されたからでしょう。

ヒトは、自分が生き延びるために、常に未来に起こるであろうことを「予想」し続けています。

例えば、レストランで目の前のメニューを見て、「あっ、このメニュー美味しそうだな~」と「予想」してそのメニューを選ぶでしょう。

また、交差点で自分の進行方向の信号が赤だから、危険を「予想」して、信号が変わるまで渡らないという判断を下していることもあるでしょう。

このように、人間は常に未来を予想し続けて生きているのです。

では、なぜ皆様は「赤信号は危険だから渡らない」という判断ができているのでしょうか?

それは、信号機の色「赤」が示していることがらを「知識」として獲得しているからにほかなりません。

もし信号機の無い世界の住人が、現在の日本に初めて訪れたとしたら、交差点で赤信号を見て、正しい判断ができるでしょうか?

おそらくはムズカシイでしょう。

でも、この信号機の無い世界の住人が、現在の日本に初めて訪れても、交差点に向かう「前」に、「交差点には『信号機』というものがあって、「赤」色の表示のときには、危険だから渡らないほうが安全だよ。」という情報を勉強していたとしたらどうでしょうか?

このこたえは皆様にも簡単に予想できますね。

本ノートの扱う感染症の話に移ります。

前回、「2つの感染症診断」のお話をいたしました。


実は、「予想する努力」なくしては正しい感染症診断にはたどり着けないのです。

ここではわかりやすいように、肺炎球菌による肺炎を例に上げて説明します。

臨床医は、目の前の患者さんに「咳・痰・息苦しい・熱」などの症状があれば、そのような症状が生じる原因を「予想」します。

ただし、この「予想」はヒトの命に関わる「予想」ですから、正しく予想することが重要となります。

これらの、「咳・痰・息苦しい・熱」などの症状を過去の知見と照らし合わせると、「肺」にモンダイがあるのではないか?と予想することができ、その予想が正しいと確かめるために、レントゲン等の画像検査を行うのです。

この「肺」にモンダイがあるのではないか?という正しい・適切な「予想」をするために必要なものが「知識」になるのです。

レントゲン等で肺にモンダイ(=炎症)が生じている証拠が見つかれば、2つの感染症診断の1つ、臓器・解剖学的診断が「肺炎」であると診断されるのです。

次に「予想」するのは微生物学的感染症診断です。

臓器・解剖学的診断が「肺炎」とわかってしまえば、微生物学的診断の予想はそれほど難しくありません。

感染症による肺炎であるとわかれば、この肺炎の原因となる頻度の高い微生物は過去の知見の積み重ねでから把握されています。

この「過去の知見≒知識」を先に勉強して獲得しておけば、それほど難しくなく微生物学的感染症診断が予想できるのです。

ここでは、「肺炎」でしたので、最も頻度の高い原因微生物は「肺炎球菌」と予想されます。

あとは、この「予想」が正しいことの確認です。

患者さんが痰を出せれば、痰を顕微鏡で観察してみる。

細菌培養検査で菌種を同定する。

うまく原因菌が培養できれば、どの治療薬(ここでは抗菌薬)が有効かを調べる。

これらの検査を行って、この肺炎患者さんに最適な治療法(ここでは最適な抗菌薬)を選んで治療すればよいのです。(感染症治療に関しては今後お話する予定です)。

正しい感染症診断は、この「予想する努力」無くしてはたどり着けないものなのです。

そしてこの「2つの感染症診断を予想する努力」は、感染症診療を担う臨床医が医師として生きるためにも重要なものとなります。

それは、目の前の感染症患者さんを正しく・適切に治療するためには、「正しい感染症診断」が必要となるからですね。

2つの感染症診断
 ・臓器・解剖学的診断
 ・微生物学的診断

この2つの感染症診断をするために必要なのが「予想する努力」です。

この「予想」するために必要なものが「知識」です。

「知識」は、あらかじめ「勉強」して獲得しておく必要があるのです。

モンダイ:ヒトはなぜ勉強するのか?

こたえ:未来を予想するため

ここで一つ注意があります。
モンダイに対するこたえは「一つとは限らない」ということです。
このお話はまたいつかさせていただきますね。

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