小説⑥~Center of the X~
2161年 8月2日 12:30 場所 教室の後ろ側
黒い壁の前、終と花恋はこの壁を壊す方法を話し合っている。周りには誰もいない。
「ねえ取り合えず、いすぶつけてみる」
「なんでそういう考えになるんだよ。どう考えたって、そんなんじゃ壊れねえ堅い素材だろ」
「でも、理科室も技術室も美術室も、何か工具がある教室はあの壁の向こう側に吸収されたんだよ!今あるモノで何かできることはこれしかない。」
花恋がいすを持ち上げて教室の後ろから助走を付けようと下がる。終がいすを取り上げて、言う。
「そうだな。これ、俺できるんだよな。」
花恋にはその意味が分からなかった。しかし、無言で走って黒い壁に思いっきりいすをぶつける終を見て、勇太を思い出す。逆なんだ。勇太は、何にも立ち向かわない。こうやって乗り越えることもない。そんな彼が好き。そんな彼が嫌い。そんな私が嫌い。
どぅん
鈍い音が教室内に響き渡る。
「だめか~、、、、何の変わんねえな。」
終はつぶやきながら椅子を下ろす。椅子も壁も何も変形せずに終わる。
「結局、俺は何もできねえな。技術があっても。1人じゃ何もできねえ」
その言葉の意味を引き立てるかのように、その空間はあまりにも静かだった。