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なぜ、ももクロは聖火ランナーに選ばれたのか?

ももクロの4人が東京オリンピックの聖火ランナーに選ばれた。
女性アイドル業界にとって、とても嬉しいことであり、素晴らしいことだ。

しかし、これを「すごいねー」で終わらせてはいけない。

ももクロが聖火ランナーに選ばれたことは、アイドル業界全体の希望の光である一方、大きな注意喚起でもある。

そのことに、アイドル業界に生きる我々は気付かないといけない。

ももクロは、アイドル業界のサンドウィッチマン


選考は抽選ですか?先着順ですか?

聖火ランナーにふさわしい方を適切に選考することとしており、聖火ランナーが抽選や先着順によって選ばれることはありません。

(TOKYO 2020 公式サイトより引用)

これは、東京オリンピックの公式サイトにおける、聖火ランナー選考に関する記述だ。
厳密には、これは一般公募についての記述であり、芸能人ランナーの選考基準について明言されたものではない。

そうはいっても、やはり「聖火ランナーにふさわしい方を適切に選考した」結果の芸能人ランナーということには異論ないはずだ。

つまり、ももいろクローバーZは、日本を代表する錚々たる著名人の顔ぶれの中に、現役女性アイドルという肩書きで食い込んだことになる。

ももいろクローバーZの4名は、聖火ランナーとして、日本の顔として、世界に恥じない誇りとして、そのほんの数十人の中に入っているのだ。

すごいよね。ほんとに。

でも、それってなんでだろう。

2020年現在、正直ももクロより人気のあるアイドルはいる。
ももクロは安定した人気をキープする国民的アイドルではあるが、ライブの動員数、メディア露出において、爆発的な成長をみせる旬のアイドルには敵わない。

じゃあ、なんでももクロなのか。

それはね、ももクロがアイドル業界のサンドウィッチマンだから。

つまり、女性アイドルNo.1の好感度を誇っているから、なんだと思う。

好感度アイドルといったら、やっぱりジャニーズ。
復興支援、24時間テレビ、オリンピック。そういうときはだいたいジャニーズが看板を務める。
今回の聖火ランナーにも、ジャニーズからは複数ノミネートされている。

しかし、近年の女性アイドルにとって、国民的な好感度の獲得は難しかった。

水着、おっぱい、恋愛スキャンダル、ストーカー被害、枕営業。
そんなイメージが頭の片隅でちらつく。だから、どんなに頑張っても好感度の代表選手にはなれなかった。

地上、地下を問わず様々な悲しい事件が女性アイドル業界全体のイメージを下げることになった2010年代。

こんな厳しい環境の中で、ももいろクローバーZは、いわば【全日本有名人好感度選抜2020】にノミネートされたのである。

ももクロはね、並みのアイドルじゃない。

ブレイク当初は、ガキだとか、うるさいとか、イロモノだとか。
マイナスのイメージの方が強かったのにここまできた。

ももクロは、間違いなく平成が生んだお化けグループだ。

ももクロの好感度の秘密

ももクロは、デビューしてから、無謀な目標を立てては達成してきた。

最初の夢は、紅白歌合戦にでること。
アイドル戦国時代前夜、まだド地下アイドルだったももクロは、そう誓った。
当時は、ファンもスタッフも本気にしてなかった。
しかし、ももクロは5年も経たないうちに、それを実現してしまった。
ももクロのあまりにもできすぎたシンデレラストーリーは、モノノフを熱狂させるには十分すぎた。

次の夢は、旧・国立競技場でライブをすること。
国立競技場は、日本のコンサート会場としてはトップ・オブ・トップ。
しかし、この夢も宣言してから1年足らずで叶えてしまった。
2日間でなんと11万人を動員した。
この数字、普段地下アイドルの現場に慣れている身からすれば、かなり凄まじい。
このとき、ももクロの平均年齢は18.6歳だった。
旧・国立競技場で単独コンサートをしたグループは、SMAP、ドリカム、嵐、ラルク、ももクロ、AKB48しかいない。

そして、ももクロは、まるで東京オリンピックを予言したかのような美しい聖火の前で、次の目標を宣言した。

紅白歌合戦、国立競技場。次はなにか。
すべてのモノノフがかたずを呑んで見守った。


「会場をゴールにしてたら、大きな会場でやったらそれで終わりみたいになっちゃうけど、みんなに笑顔を届けることにゴールはないと思うんです。」

「私たちは、天下を取りに来ました。でもそれは、アイドル界の天下でもなく、芸能界の天下でもありません。みんなに笑顔を届けるという部分で、天下を取りたい。


この百田夏菜子の言葉が、ももクロ史上、最も重要な一言であり、ももクロの”終わりなき革命”の新たなるスタートになった。


しかし、この宣言の本質を多くのモノノフはしばらくの間つかめていなかったように思う。

ももクロってスゲーな。自慢だよな。かっこいいよな。

正直その程度だった。
「伝説」とか、「革命」とか、曖昧なフレーズを盾に、その言葉の意味を理解できずにいた。

そこには、どこかモノノフの悲しみがあった。
今まで、ももクロには常に明確な夢があって、それを苦労しながらも次々と叶えていく姿を応援するのが醍醐味だった。
このときモノノフは、明確な夢を見失い、何をモチベーションに応援したらいいのかわからなかった。

そして、ももクロの勢いは徐々に停滞していき、巷では”落ち目”とすら呼ばれるようになった。

あの国立競技場のライブを越える瞬間はもう訪れないに違いない。
そう信じてももクロから離れていく人は後を絶たなかった。

はじめてのMステ。はじめてのドーム。はじめての海外公演。
あの頃はそのたびに盛り上がったし、メディアに取り上げられた。
でも、国立競技場に立ってしまったら、もうアーティストとしてやるべきことはやりつくしてしまった気がした。

ももクロの再スタート

ここからももクロの再スタートが始まった。

いや、厳密にいえば、「笑顔の天下を取る」という次の目標に向かって、今まで通り走り出したに過ぎない。

例えば、ももクロはこの時期に、47都道府県ツアーを実施した。
文字通り47都道府県すべてをまわりコンサートを行う。
地方にいけば、人も集まりにくいし、適当な会場もあまりない。
地域の公民館や、街のイベントホールでの公演をしていった。

一部の人はこれをみて、オワコンと呼んだ。
ファンの私でさえも、ちょっと不安になった。
こないだまで、さいたまスーパーアリーナ、西武ドーム、横浜アリーナ、国立競技場をやっていたグループが地方の公民館なんて。

ちょっと切なくて、悲しくなった。


でも、それは違う。

ももクロは、今まで会いに行けなかった全国各地の人に、笑顔を届けるためにやっていただけなのだ。

自分で宣言した目標に向かって、真っすぐ走っていただけなのだ。

そのことに気付けるまで、少し時間がかかってしまった。

大きい会場を埋めることだけが、アイドルの使命ではない。
多くの人々を笑顔にすることが、真のアイドルの使命なのである。

そして、ももクロは、毎年 春に首都圏で行っていた大型ライブの開催地を地方に移した。

それは、地域貢献を建前にしたオワコン隠しだと疑っていた節もあったが、今思えば、純真無垢な地域貢献でしかなかったんだと思う。

ごめんよ。

埼玉、滋賀、富山、福島。

地方でももクロがライブをすれば、多くの人が地域にお金を落として経済をまわす。
ライブの待ち時間には、地元の食材でつくられたメニューの屋台が立ち並ぶ。

ももクロがそこでライブをすれば、ももクロを知らない人も巻き込んでみんな明るくなる。街が活性化する。

また、同じタイミングで、ももクロは事件・事故に巻き込まれて心に傷を負った子供たちを無料でライブに招待したり、ネット配信で子供番組を始めたりもした。

笑顔の天下を取る。

ももクロは、夢に向かって確実に前進している。


そういえば、つい先日、こんなニュースが週刊誌に撮られてしまった。

余った弁当をしっかり持ち帰ってまで食べるももクロメンバー。

こんな内容が雑誌に抜かれてしまう。

ももクロの恋愛スキャンダルは過去にほとんど出たことがないが、アイドルの敵ともいえる週刊誌を通してまで笑顔を届けてくれる。

ももクロの好感度はまだまだ爆上がり中だ。

また、ももクロのメンバーはツイッターをやっていないのだが、それも炎上やファンとのつながりなどのトラブルを予めリスクヘッジして、イメージを保つための事務所の戦略なのかもしれない。


ももクロは、笑顔の天下を獲る。
この営みにゴールはないが、今回の聖火ランナーへの抜擢はひとつ世間に認められたタイミングだった。

私は、「モノノフでよかった」という誇りを、本当に心の底から感じた。
ももクロは、Japanese Idolの教科書だ。

日本のアイドル業界に立ちはだかる2つの壁

さて、ももクロの話はいったん置いておいて、現在のアイドル業界の話をしよう。

私は、アイドルが日本を代表するコンテンツになるには、何が必要なのかずっと考えていた。

漫画やアニメ、ゲーム、コスプレなどといった他のポップカルチャーに比べて、アイドルというのはあまり評価されていないような気がしてならなかった。

ライブは盛り上がるし、楽曲のレベルは高いし、こんなにも可愛くて楽しくてワクワクするのに、なんで良さが伝わらないんだろう。歯痒い。

それを以前、アイドル好きの友人に相談してみたことがある。
そのとき、彼はいとも簡単に正解を教えてくれた。「闇が深いからだよ。」

なるほど。そうか。これは先ほどのももクロの話を踏まえると、なかなかに現実味を帯びてくる。

つまり、今のアイドル業界には圧倒的に好感度がないのだ。

運営のセクハラ、パワハラ。アイドルの自殺。暴行。ストーカー。賃金の未払い。未成年飲酒。未成年喫煙。性接待。いじめ。マナーの悪いファン。清潔感のないファン。

こういう状況を変えて、好感度をあげていかないとならない。

この流れを食い止めないと、日本を代表する最高のカルチャーだって認めてもらえない。

いつまで経っても、アイドル村の住人だけが陽の当たらない世界に閉ざされて楽しむコンテンツのままだ。


この状況を乗り越えるためには、2つの壁を乗り越えなければならない。

①アイドル業界をクリーンでホワイトにすること。
②アイドル業界のブラックで闇のイメージを払拭すること。

①と②は似ているようで異なる。

①は、実際にアイドル業界の課題をひとつずつ解決していくこと。
ところが、課題を解決したとしても、その悪いイメージが払拭されなければ、人々は心を開いてくれない。認めてくれない。
だから、②として、先行イメージの浄化も図らなくてはならないのである。

そう。今や何がなんでもテレビに出て、雑誌の表紙を飾って、大きな会場でゴールをするだけがアイドルの成功のかたちではなくなってきた。

むしろ時代遅れともいえるのではないか。

これからは、心の底から人々に笑顔を届けられるアイドルが勝つ時代に必ずなってくる。

人を笑顔にするツールが、ライブでも、歌でも、キュートなルックスでもいいけど、それ以外だっていいんじゃないかな。

ももクロは、特別じゃないんだよ。

これからは、みんながももクロにならなくちゃいけないんだ。


ももクロの笑顔のバトンを、次の世代へ

いつかのももクロのライブで、百田夏菜子がこんなようなことを言ってた。


ももクロに興味ない人もたくさんいると思う。嫌いな人もいると思う。
でも、ももクロは彼らのことも笑顔にすることができる。今日、ここにいるモノノフさん一人一人が、周りのももクロに興味のないお友達に優しくしてね。笑顔のバトンをつないでね。


このバトンをアイドル業界のみんなにつながないといけない。

CDの売り上げとか、会場の大きさとかで競っている場合じゃない。

自分の身の丈に合った範囲でいいから、今 目の前にいるファンを笑顔にする。チーム・アイドルとして、ひとりでも多くのお客さんを笑顔にする。

アイドルは、そうでなくっちゃならないと、私は思う。


『劇場版ゴキゲン帝国Ω』というアイドルグループがいる。
このグループの指揮官を務めるメンバー、白幡いちほは生粋のモノノフだ。

私は、彼女のインタビュー記事を読んで感銘を受けた。

白幡は、自身のグループの運営を株式会社化し、そこの取締役会長を務めている。

彼女の会社、㈱GOKIGEN JAPANのビジネスの核は、人を笑顔にすること。
アイドル事業にこだわらないからこその柔軟さがある。
そのため、将来的には、飲食店の展開や老人ホームの設立も視野に入れているという。

ここには、ももクロから受け継いだアイドル観が見受けられる。

アイドルとは、人を笑顔にする職業である。
笑顔のためなら、歌やダンスだけではなく、手段は関係ない。

そんな、ももクロismのバトンがしっかりと、つながった。

劇場版ゴキゲン帝国Ωは、これからのアイドルのあり方を考えるうえで最も注目すべきアイドルに間違いない。


この他にも、最近のアイドル業界は、少しずつ社会貢献の分野に進出している話を耳にする。

例えば、神宿は、厚生労働省主催の「依存症の理解を深めるための啓発イベント」に出席し、依存症啓発ソングを歌った。
また、3月30日には、令和元年東日本台風の被災地におけるチャリティーライブ(無観客)が予定されている。


NPO法人フォーエヴァーグリーンのYoutubeには、川崎純情小町が登場。

東大の先生から、気候変動やSDGsについて、教えを請うという内容だ。

彼女たちは、何も知識のない一般人代表として、教授にぶつかっていくので、同じく予備知識のない一般人が聴いても環境問題への理解が深められるようになっている。


アイドルの人を惹きつける魅力をうまく活用すれば、人々の社会問題への関心を醸成する役割すら担うことができるのだ。


そして、我々にできることは、社会貢献に前向きなアイドルを選択し伸ばすことである。

アイドルの新たな可能性を引き出し、社会貢献をし、笑顔のバトンをつなぐ。このようなアイドルに投資をしていくことだ。

投資といったら仰々しいが、要は社会貢献するアイドルを積極的に推すこと。ライブにいくこと。物販にいくこと。

そうすれば、これらのグループはもっと成長して、できることが広がっていく。そして、アイドル業界そのもののイメージアップにもつながる。

一方で、ブラックで闇の深いアイドルは成長できなくなる。
アイドルの生存戦略として、裏でコソコソと汚いことをやるより、オープンに社会貢献した方が、ファンも運営もメリットが大きくなる。

このような正のスパイラルが生み出せたら、絶対にアイドルも日本を代表するコンテンツになれる。


Tokyo 2020のあと、再び東京でオリンピックをする機会があるとすれば、そのときはもっと多くの女性アイドルが聖火ランナーにノミネートされてほしい。

寧ろアイドルが、日本の教育や福祉を引っ張っていくのが当たり前のような存在になっていたら、そんなに嬉しいことはない。

ももクロの”終わりなき革命”は、このときやっと終わるのかもしれない。

(記事:まっすー)








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