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【放送後記】#09 精神鑑定書を面白く読むための犯罪心理学入門【ゲスト:辻󠄀惠介先生(犯罪心理学)】


 2024/2/3に収録した辻󠄀惠介先生ゲスト回が公開されました!
 今回の本編で扱った精神鑑定というワードは、ニュースやドラマで耳にしたことはあっても、実際にどのようなことが行われているのか、疑問をもっている方も多かったのではないかなと思います。
 ここでは、本編で入りきれなかった学生スタッフのQ&Aを放送後記として公開します!

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精神鑑定の裏側

森貞:
鑑定で「心神喪失です」という判断を下すことはどうしてもあると思うんですが、それを法廷で証言した場合、被害者や遺族の方からしたらマイナスな(容疑者の方に有利に働いてしまう)こともあるかと思います。でも、情を入れて違うことを言っては、お仕事にならない。鑑定結果によって法廷で恨みを買ってしまって身の危険を感じた、というようなご経験はお持ちですか?

辻󠄀先生:
今は結論自体言わないことになっているんですよね。ただ当然、ある程度示唆はすることになります。その上で「この場合にはこの結論しかないよな」というのがあるので、恨みを買ったりっていうのは私としてはないんですね。
 後はですね、心神喪失だとかってなかなかないんですよね。実は結構分かっている場合が多くて。被害者が残念な思いをするのはやっぱりおかしいよな、と私から見ても思うような事件だったりする場合は多いです。
 それから、仮に心神喪失だったとしても、きちんとどこかに入れて対応してくれるんだ(病院等)っていうことになります。

森貞:
 野放しにはならないということですね。

辻󠄀先生:
 そうですね、それは前提としてはあります。
 ただ、危険な思いという点では、恨みを買うのではなくて、鑑定時の油断というのはありました。実際に殺人事件の鑑定をしていたんですけども、数をこなしてますでしょう。それで、拘置所に複数の被疑者を入れておいて、はい、次、はい、次って形で面接していたんですよ。相手は殺人犯だから気を抜いちゃいけないのに、一瞬気を抜いたんですよ。気を抜いた瞬間に相手のパンチを1発食らっちゃいまして。あれって1発食らっちゃうと防戦一方になっちゃうんですよね。
 怖い話になりますが、やっぱり歯が折れまして、なおかつ一対一で話してる状況で、相手がやくざ者だったんでパンチだけじゃなくて膝蹴りも飛んでくるでしょう。でも膝蹴りもらっちゃったら、もうその後がまずいから防ぐだけで。すぐに警察官が気付いて来てくれたんですけど、あれは恥ずかしかったですね。
 やっぱり恥ずかしいのは苦手ですね。その時に救いになったのが事情聴取なんですよ。事情聴取をした警察の強行班っていう一番荒っぽい人たちが言ってくれたんです。
「いや、我々も1発もらっちゃったら反撃できないですから。」
 これで結構気持ちが楽になりましたね。あとは、歯が折れちゃったので、そのまま歯科に連れていかれるんですよ。
 そしたら、その歯科医師が治療に入る前に私のカルテの年齢を見て一言そっと言ったんです。
「私と同期じゃないですか。」
 あれで物凄く癒されたんですよ。というのも、私と同期じゃないですかというのは、一人の人間として見てくれてるってことなんです。
 やっぱりいろんな被害は人として見られなくなるところに、その被害の本質があるんだなというのが分かった瞬間といいますかね。あれはとても勉強になりましたけども、本当に顔から火が出る思いでした。

犯罪心理学を学ぶ意義とは

森貞:
ご著書のタイトルに「犯罪心理学を学ぶための」とついていますけど、犯罪心理学を学ぶ人の多くって、(先生の言葉を借りると)あちら側の人間ではなく、こちら側の人間が多いかと思います。でも、視聴者の方にも今収録にいる学生でも、私なんかもそうですけど、人への殺意を抱いたことがある人は少なくないと思うんです。そのうえで、「犯罪心理学を学ぶことの意義」について、先生はどういうふうに考えてらっしゃるのか気になりました。

辻󠄀先生:
 やっぱり犯罪は現実に存在するものなので、それから目をそらしちゃいけないなというのは大きいと思います。我々にとって「攻撃性」って大きなテーマですよね。それは犯罪に限らず、戦争なんかもそうで、我々の心の中にある攻撃性から目を背けずにしっかりそれを見据えることがとても大切だと思います。
 例えば、私でも人を殺したいっていう欲望はあります。誰を、とかは別にしてね。変な話、仕事が立て込んできて、そんなのばっかり覗いていると……、ニーチェの深淵みたいな感じですよね。深淵を覗くことって注意しないと、こっちが見ている時は向こうも見ているんだから、引き込まれそうになるような感覚ってありますね。
 でも、やっぱりそれは忘れちゃいけないんだろうなと、世の中きれいごとで済ませようとしちゃいけないんだろうなというのは物凄くあります。それが抑止することになるのか、暴走することになるのか。人類がどうなるのかだって分からないわけですから。

小瀬:
 人を殺したいという気持ちについてお話が出ましたが、私は別に自分が善人だと思ってるからではなく、人を殺したいと思ったことがないんです。しかも、特定の誰かを想定しているわけではない殺人欲求となると、私にはあんまりよく分かりません。そこをもっと深くお聞きしたいです。

辻󠄀先生:
 こんな説明がいいですかね。人類の歴史を振り返って、ずっと我々は戦争ばかり続けていて、なんで学ばないのだろうかという問いを投げかけられる場合があります。それに対して我々がむしろ学ぶべきなのは、「我々は戦争を止めない」ということだと思うんです。
 確かに戦争って悲惨だしあってはいけないものだけれども、楽しいから。だから楽しいことをやめるはずないじゃんというね。
 実際に、戦争映画だってあるわけだし、戦争のゲームだってあるわけだし、そして殺人という点で考えると、殺し合いのゲームなんてたくさんあるわけですよね。それを我々はゲームとして楽しんでいるけれど、何で楽しめるんだろうかって考えた時に、やっぱり心の中にそういう部分があるからだ、ということは無視しない方がいいのかなと思います。

小瀬:
 私のイメージとしては、自分の気持ちを深掘りしていった先にそういう気持ちがあるということなのかなと思っていたんですけど、そうではなくて、むしろ自分を相対化して人類規模で見た時に、そういう歴史をたどってきているからということなんですね。
 人を殺すゲームとか、私は特にやらないんですが、みんな結構好きですし、確かにそういう身近なところからも凄く納得しました。

辻󠄀先生:
 ゲーム・漫画・アニメ・映画・小説…などなど溢れていますよね。それこそ本当に多くの文学で取り上げられているテーマでもありますよね。逆にその暗い部分がなかったら、少し話が陳腐になってしまうという側面もあるかもしれません。

誰にでも犯罪を犯す可能性はある

高橋:
 例えば今回本編で取り上げた事例Aと同じように家族関係で問題を抱えていたり、生まれ育った環境が大変な状況にあった人たちがいる中で、それを乗り越えられる人と、乗り越えられず事例Aのように犯罪を犯してしまう人の違いはどこにあると思われますか?

辻󠄀先生:
 それはやはり一つの要因だけではなくて、複合的な要因になるかと思われます。つまり、何か一つの要因だけで犯罪に走ってしまうのではなくて、複数の要因が重なったときに初めて犯罪が起きるというのがある。これと対比で考えられるのは、自殺だと思うんですね。
 よく自殺が生じたときに、なんで死んだのかということがテーマになる場合があります。これを、自殺を専門とする人は、いろんな要因が絡み合った結果自殺という現象が起きたんだというふうに考えます。メディアなどでは、例えばいじめで自殺したとなれば、いじめのせいだと取り上げたがるのですけれども、果たして本当にそれだけなのかと考える必要があるかと思います。それから、自殺という点では女性より男性の方が自殺をする人が多いんですよ。ということは生物学的なことも何か影響しているだろうとか、あとは例えば年齢とか、そういった様々な要因が複数絡み合ったときに自殺という現象が起きるんですよね。
 同じように、犯罪も何か一つの要因だけではなくて複数の要因が絡み合って起こるものなので、どんな善人にも犯罪を起こす可能性はあるし、反対にどんな悪人でもいいことをするという可能性はあるといえます。
 あともう一つ我々が認めなくてはいけないのは、例外としてどんな要因があったとしても必ず犯罪を犯す人は一部いるということです。ごく少数ではありますが。

イドバタコウギの収録はいかがでしたか?

辻󠄀先生:
 今回はとても楽しくお話しさせていただくことができました。アクシデントはどうぞお構いなくというところで、今日はちょっと触れられなかった点なんですけれども、例えば法廷の証言中に「ちょっと待ってください」なんていって書記官が入ってきて機材の電池を変えていたりしているので、何度も同じお話をしていくうちにだんだん話が短くなっていったり…ということも実はあるんです。また別の機会がありましたら、そういった人間くさいところもお話しできると面白いのかなと思いました。本日はどうもありがとうございました。

※収録中、カメラのバッテリー切れで一部の録画が吹っ飛ぶアクシデントがありました。

おわりに

 今回のイドバタコウギはお楽しみいただけましたでしょうか?
 実際に現在も精神鑑定などに携わっている辻󠄀先生だからこそ語れる事件の裏側や、犯罪を犯す人の心理についてのお話がとても興味深くて、すごく学びの多い回だと感じました。犯罪は私たちにとって実は身近な問題でもあるので、犯罪心理学を学んだことがある方もない方も今回の放送をお楽しみいただけたら幸いです。
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文責:内田恵美莉・大畠佳汰


番組クレジット(収録当時)/SNS情報

ゲスト:辻󠄀惠介先生(武蔵野大学人間科学部学部長・医師・臨床心理士)
企画/パーソナリティ:江端 進一郎(日本文学文化学科4年)
           内田 恵美莉(日本文学文化学科3年)
撮影:森貞 茜(日本文学文化学科4年)
   小瀬 ゆかり(日本文学文化学科3年)
   大畠 佳汰(日本文学文化学科2年)
   高橋 知大(法律学科2年)
編集:江端 進一郎・森貞 茜(日本文学文化学科4年)
   小瀬 ゆかり(日本文学文化学科3年)
ショート動画:小瀬 ゆかり(日本文学文化学科3年)
       長田 千弘(日本文学文化学科4年)
監修:土屋 忍(日本文学文化学科 教授)
参考文献:
 辻󠄀惠介『犯罪心理学を学ぶための精神鑑定事例集』(2008年、青山社)
 辻󠄀惠介『続・犯罪心理学を学ぶための精神鑑定事例集』(2023年、青山社)
収録日:2024年2月3日(肩書・学年は収録当時のもの)
提供:武蔵野大学

武蔵野大学発インターネットラジオ番組「イドバタコウギ」
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Ⓒ武蔵野大学インターネットラジオ研究会


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