保坂和志さんの小説入門を読んで

 小説とは何か。何のために小説を書くのか。そういった事を深く考えさせられる本でした。

 私は若い頃に小説家を目指して挫折し、五十歳手前で再び小説家になる事を決意しました。大工の仕事をしながらですが、生半可な気持ちで思い立ったわけではありません。ただ、この本を読んで、改めて「小説家になる、それだけが自分の夢なのか」という事を考え直しました。
 小説家になって、有名になって、テレビやラジオに出演して……、正直、そんな浮ついた事も考えていました(今もですが)。しかしそれよりも、小説に真摯に向き合う事の方が大事なんです。
 どこにでもあるような小説を書いて、仮にそれが運良く大ヒットしたとしても、果たしてそれで満足できるのでしょうか? 私はできません。そうではなく、自分にしか書けない作品を残したいんです。百年後、二百年後の人が読んでも心にグッと入り込んでくるような、そんな作品を残したいんです。そのために小説家を目指しているんです。
 テレビやラジオに出たいというのは、モチベーションの一つとしてあってもいいとは思うのですが、やはり小説家を目指すならば「どんな作品を書く事ができるか」これが心のド真ん中になければいけないと思います。それはもしかしたら「売れる」とは相反する事かもしれません。商業主義に反して小説を突き詰めようとしたが故に小説家になれなかった。そういう事もあり得ると思います。悲劇なのか喜劇なのかよく分かりませんが、後悔だけはしないような気がします。死ぬ時に、「愛すべき家族があって、愛すべき仕事(大工ね)があって、愛すべき趣味(小説ね)があって、俺は幸せだった」そう思えるなら、それはそれで最高な人生だと思います。

 ……とまあ、この本を読んで、そんな事を考えさせられました。タイトルに「小説入門」という文言が入っていますが、これは、私は立派な「小説」だと思います。
 地に足つけて書く決意が新たに生まれました。著者の保坂和志さんに感謝!

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保坂和志著「書きあぐねている人のための小説入門」中公文庫

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